蓮舫がボロ負けした場合は小選挙区で苦戦も

 逆に、蓮舫さんにはそのような女性政治家としての重みはなく、あくまで手塚仁雄さんや野党共闘路線の掲げる、目立つ手駒としての役割以上にはなれていないのは残念なことです。もったいないなって思うんですよね。

 おそらく、冒頭にも書いたような神宮外苑再開発のような筋の悪い運動を争点にしてしまって何も疑問を感じないような活動家気質の政治家である限りは、国民にとって悪夢だったとも言える旧民主党・菅直人政権と同じような轍を踏みかねません。

 批判するときの攻撃力はあっても、物事を着地させる政策的な実行力や、適切な判断で政策を選択するような分別がない限りは、人気や知名度でいくら煽ってもなかなか小池百合子さんに届かないのは仕方がないのかなとも思います。

 ただ、衆議院鞍替えがあるので、都知事選に出てもノーダメージである件で言うならば、東京26区への蓮舫さん出馬の是非も、「都知事選でどのくらいの票を取ることができるか」で決まる面はあるようです。圧倒的な知名度で楽勝と見られた東京26区は、先ほども述べた通り松原仁さんが割と強く、蓮舫さんと言えども5ポイントから7ポイントぐらいのリードしかないのではないか、と見られているからです。

 また、JBpressでも尾中香尚里さんが「蓮舫パニックおじさん」として蓮舫さんへのアンチに男性が多いという前提で論考を出しておられましたが、内容に一理あるものの、今回の都知事選だけでなく、過去の参院選でも蓮舫さんは基本的に女性からの得票が格段に少なく、女性人気が乏しい政治家の一人であることは情勢調査や出口調査から明らかになっています。

「蓮舫いじり」あふれ出す東京都知事選…アンチの“罵詈雑言”にみる、辟易するほど劣化しきった日本政治の現在地(JBpress)

 つまり「男性から攻撃される蓮舫」とジェンダー問題を載せて蓮舫さんを担ごうとしても、投票用紙に蓮舫さんの名前を書いて投じる女性が少ないうえ、肝心の倒す相手が小池百合子さんという女性人気の高い現職であるため、実は蓮舫さんからすればもっとも相手にしづらい候補でもあるのです。

 結果として、仮に投票率が前回同様かそれ以上であったとしても、300万票をうかがおうかという小池百合子さんに対して蓮舫さんがダブルスコアか、それ以上に負けてしまって返り討ちに遭う場合、東京26区への鞍替えをしても小選挙区では無所属・松原仁さんに苦戦する可能性もありますし、あまり戦況が芳しくないようなら別の東京選挙区に転出することも検討するかもしれません。

 ノーリスクだと思って出馬した都知事選が、大負けしたら蓮舫さん一個人の問題では済まない怖れが出てきます。

 現況で言えば、蓮舫さんがどこの小選挙区に出たとしても善戦はするでしょうから、仮に小選挙区で落選してしまったとしても東京ブロックで比例復活はするとは思います。ただ、蓮舫さんの、野党の女性筆頭政治家としての声望が地に落ちてしまうと、これは大変なことですし、せっかく野党陣営が自民党の自滅的な裏金問題で政党支持率を大きく落としているトレンドを止めてしまいかねないのです。

 また、自民党は自民党でここで小池百合子さんが無難に勝ったとしても、沖縄県議選と都知事選および都議補選で自民党の裏金問題の禊(みそぎ)が済んだ、とは思わないことが大事です。

 自民党都連の会長に留任された萩生田光一さんが、小池百合子さん頼みにならざるを得ず、自民党からの支援を表明していますが、折悪く萩生田さんの元秘書で、八王子市議の大竹利明さんが道路交通法違反(酒気帯び運転)で逮捕されるという、どうしてこのタイミングでそんなことを平気でしでかすのかよく理解できない状況まで勃発しています。弛んでいる、というレベルじゃありません。

 また、泡沫候補ながら目下3位で、選挙戦術では定評のある藤川晋之助さんが支援する石丸伸二さんのところの選対本部長に、なぜか自民党都連のTOKYO自民党政経塾で塾長代行をしている小田全宏さんが就任しているという謎人事までありました。いったい何をしているのでしょう。

 さらには、同日投開票で争われる東京都都議補選が8議席ないし9議席で実施されますが、ここでも各1議席を巡って自民党と都民ファーストで争うところがあるという芸のなさで、同じ小池百合子さんを都知事選で担ぎながら共倒れもあり得る状況は、さすがに仕切れていないというレベルではなくなりつつあります。どうしてこうなってしまったのでしょう。

 状況が酷くても、そういう状況を見ながら楽しめる人でないと、正気でこの選挙戦は生きていかれないということなのかもしれません。皆さま、ご安全に。

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山本 一郎(やまもと・いちろう)
個人投資家、作家
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し、『ネットビジネスの終わり(Voice select)』『情報革命バブルの崩壊 (文春新書)』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』など著書多数。
Twitter:@Ichiro_leadoff
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