岸田首相は安倍派的なるものと訣別できるか(写真:共同通信社)
  • 安倍元首相の死去後、噴き出した安倍派の政治資金パーティーを巡る問題。不記載となった資金の使途や業界団体が派閥のパーティー券を買う意図など、さまざまな論点が噴出している。
  • 過去の例を見ると、仮に問題となっている議員が不起訴処分に終わっても、検察審査会での審議を経て略式起訴、公民権停止にいたる可能性は高い。
  • 解散総選挙を唱える向きもあるが、自民党議員の何人が公民権停止になるか分からない現状、仮に総選挙があるとしても、少なくとも辞任した議員の衆参補選がある4月28日以降になるのではないか。

(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)

 11月下旬以降、自民党の最大派閥、安倍派の政治資金パーティーをめぐる問題が拡大しており、安倍派の党四役や閣僚などの総辞任まで取り沙汰されるようになりました。

 派閥でのパーティーを開くにあたって所属議員さんに割り当てられたパーティー券の売り上げノルマ、そのノルマを超えた分が議員さんの政治団体に還流(キックバック)されており、政治資金規正法で求められている正確な収支の記載がなされておらず裏金になっているという指摘です。

 キックバックについて言えば、パーティー券の販売ノルマを超えた分が事務所に入ってくるという仕組み自体は適法です。

 実際、地方選出の議員さんが東京で個別に「励ます会」などを開く際に、支援者が十分にいなければお金を払ってくれる支持者が集まらず、おカネの面でやる意味がない場合も多くあります。地方の若い議員さんの場合は特に、都内の法人さんなど支援者に派閥のパーティー券を売ってもらうのが手早いので、仕組み上、都心でやる派閥パーティーにすべてをかけるという判断を下さざるを得ない得ない面があります。

 ただ、派閥パーティーの構造はともかく、安倍派の特定議員が悪いのであればどんどん摘発してもらうとして、ワイちゃん周辺に変な着弾をしている問題についてはふたつ論点があります。

一連の流れを堰き止めていた“黒川ダム”

【論点①】「1000万超えたら起訴、有罪になったら失職して5年間(3年間)の公民権停止になる」とかいう出所不明の相場感

 これ、読売新聞の偉い人や安倍派周辺にいる大物弁護士の先生がそんなことを言っていたそうなのですが、実際にはそんな相場感などの法的根拠はなく、どこにも確たるものはありません。ヤメ検の弁護士さんなど一部のえらい人がそう言っているのは目の前で聴きましたが、特に裏付けとなる何かがあるわけではないのです。

 極論を言えば、1円でも不実記載があって、その手口が悪質で捜査に対して隠蔽したぞとか、継続的な裏口献金であって、これを理由に献金元に有利なように繰り返し議会で質問してたとか、そういう話があったら摘発の対象となります。仮に中身を認めて「ごめんなさい」をしても、略式起訴されて3年ないし5年の公民権停止です。

 先ほどの相場観は、俺たちの黒川弘務師匠(元東京高検検事長、賭けマージャンで辞職)が19年から20年にかけて、当時持ち上がった世耕弘成さんの不実記載問題に対して、それらしい見解を述べたのが根拠とされています(この辺は岩田明子師匠の解説を待ちたい)。

 ただ、今ごろになってマグショット付きで「世耕弘成に1000万以上バック」って、お前、あんとき指摘されて修正しとらんかったんかいってのはあります。

※マグショット…逮捕直後の容疑者の写真。通常は身長計の前で番号などを記した板を持たせて撮影する

 また、毎日新聞にも出ていましたが、神戸学院大学法学部教授の上脇博之さんが2023年年初に刑事告発していますし、2022年2月25日に東京地検特捜部が経営コンサルタントの「大樹総研」や代表の矢島義也さんにガサ入れした件も、今回の話の流れの中にあるとされています。

 いわば、安倍派の一連の錬金術的な流れについては、以前から割と周知であったとも言えます。

 逆説的にいえば、こういう流れを“黒川ダム”が堰き止めていましたが、安倍晋三さんが凶弾に斃れるという天変が起きたことで、玉突き的にダム決壊となり、下流にいた安倍派議員の皆さんが全部流されて面倒くさいことになっていたのかなあと思います。

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