衆院予算委員会で政治資金の還流問題について答弁に立つ松野官房長官。政治に緊張感をもたらすためには強い野党の存在が不可欠(写真:共同通信社)

 2014年、『日本改革原案 2050年 成熟国家への道』というタイトルで、ある若手議員が政策を語る本を光文社から出版した。田中角栄氏の『日本列島改造論』(日刊工業新聞社 1972年)や、小沢一郎氏の『日本改造計画』(講談社 1993年)に大胆に挑戦する書き出しで始まる本である。やがて、この本の著者を追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督 2020年)が大きく注目され、絶版になっていた本は増補分を加えて電子書籍化された。

 2014年に本を出した時点で無名に等しかった著者は、電子書籍版が出た2021年には、立憲民主党の代表選の候補者の1人になった。内容がアップデートされた本書も、今年10月末に復刊された。9年経っても、本の骨格部分はほとんど変える必要がなかったという。裏を返せば、この国は9年間も同じ問題を抱え続けているということだ。『日本改革原案2050 競争力ある福祉国家へ』(河出書房新社)を上梓した、衆議院議員の小川淳也氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

理想の旗を捨てたら、それは政治ではない

──「厳しい財政状況に加え、尖閣・竹島・北方領土問題を始めとした困難な外交問題が、軍事力によって直ちに解決されるとは思えない」「現政権の防衛費の倍増、敵基地攻撃能力の保持など勇ましい国防議論には逆に観念的で危険な匂いを感じている」と書かれています。

小川淳也氏(以下、小川):国防の問題はとても重要で、必要な装備や最低限の備えは怠るべきではありません。ただ、ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの衝突にしても、イスラエルが、あるいはハマスが武器をもっとたくさん持っていたなら、あの戦争は防げたのか。ロシアが、あるいはウクライナが、もっとたくさん武器を持っていたなら、あの戦争は防げたのか。私は疑問に感じます。

 台湾有事をやたら煽ったり、中国包囲網のような強硬的な姿勢を日本ももっと取るべきだと主張したりする方々がいます。この種の議論をする人々に傾向として危険に感じることは、外交努力を曖昧にしていると取られかねない表現が見られることです。「すべての戦争は外交と政治の失敗」と私は考えており、防衛装備の増強に前のめりの議論をすることには疑問を持っています。

 お互いが国家主権を譲り合いながら、EU(欧州連合)がいかに超国家の意思決定をしているか、それを世界はもっと学ばなければなりません。

 確かに今、国連は機能不全に陥っており、アメリカとロシアが交互に拒否権を発動する状態です。でも、国連というものは本来、原則としては各国の自衛権行使を認めてはいません。国連軍が創設されて、武力闘争も国際社会が有権的に解決するという体裁が整うまで、例外的に各国の自衛権を容認するというのが国連の立場です。

「夢絵空事だ」「理想論だ」という批判はすべて受け止めたいと思います。でも、向かうべき理想は、一国家を超えて世界が連携していくことです。このような理想の実現が簡単でないことはよく踏まえなければなりませんが、理想の旗を掲げることを失ったら、もはや政治ではありません。

──「医療制度改革の方向性」というパートでは、「公的医療保険制度を、現在でいう自動車の自賠責保険、すなわち強制加入で最低限の安心を担保する制度へと変革するイメージに」「新しい公的医療保険制度で最低限の安心を守りつつ、それを上回る部分については、民間の任意保険に委ねるなど自己負担も加えて賄う方向だ」と書かれています。現状の日本の医療保険制度は何が問題なのでしょうか。