昨年の箱根駅伝を制した駒澤大学。100回大会の今年も優勝候補筆頭(写真:共同通信社)

 酒を飲みながら、テレビで箱根駅伝を観る。日本の定番の正月の過ごし方である。仲間の汗が染みこんだ襷をつなごうと、必死で走る若者の姿は美しく、心を揺さぶるものがある。

 だが、その人気ゆえ、箱根駅伝は様々な問題を抱えている。メディアによる独占的な支配、過熱の一途を辿るスカウト合戦とそれに伴うマネーゲーム。もはや箱根駅伝は、学生スポーツの域を超えている。

箱根駅伝は誰のものか 「国民的行事」の現在地』を上梓したスポーツライターの酒井政人氏に、箱根駅伝の水面下に広がる闇について話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──日本のお正月の恒例行事、箱根駅伝を主催しているのは関東学生陸上競技連盟(関東学連)です。ただ、読売新聞社が共催、日本テレビが全国放送の生中継をしていることなどを挙げ、「箱根駅伝」は事実上、読売グループが仕切っていると指摘しています。一つの企業グループが大きなスポーツイベントを独占的に支配することに、どのような弊害があるのでしょうか。

酒井政人氏(以下、酒井):企業グループというよりも、メディアが主催側であるという点が問題であると認識しています。

 箱根駅伝に限らず、日本のスポーツイベントや文化イベントの多くに、新聞社と関連するテレビ局や広告代理店が共催や後援というかたちで入っています。

 メディアが主催する側にまわると、何か批判があったときに自社のメディアでそれを指摘することができない。問題が生じても、それが世間に認知されることがない。これが、メディアがイベントの主催側になることの弊害だと感じています。

──第63回の1987年から、日本テレビが箱根駅伝を全国放送で生中継するようになり、箱根駅伝の全国的な知名度が爆発的に向上しました。これにより、関東地方の駅伝大会、いわゆる地方大会であるにもかかわらず、認知度の高い箱根駅伝を目指して、関東の大学に優秀な長距離ランナーが集まるようになりました。

酒井:箱根駅伝を目指して関東地方の大学に進学することは、高いレベルで切磋琢磨できるということなので、進学先として関東の大学を選択することは別段悪いことだとは思いません。

 ただ、大学の陸上部の長距離ランナー全員が箱根駅伝を目指すべきなのかというところは疑問に感じています。

 箱根駅伝があまりにも華やかなゆえに、高校生ランナーはどうしても「大学に行って箱根駅伝に出る」ことを目標にしてしまいます。

 ただ、約20kmを走らなければいけない箱根駅伝ではなく、5000メートルや1万メートルのトラック競技に向いているランナーもいます。そういう選手に、箱根駅伝に向けたトレーニングをメインでやらせることは危険です。トラック競技の才能を潰しかねない。

 高校生には、自分の目標と才能を照らし合わせた上で、冷静に進路を選んでほしいと思います。

 指導者の方々も「箱根駅伝ではなく、トラックで世界を目指してはどうか」など、個々の選手の特性に合ったかたちで勧誘してほしいと思います。

──書籍では、大学時代にトラックで世界を目指した例として、大迫傑氏を紹介されていました。