
斎藤元彦・兵庫県知事に対する告発文書が明るみに出て3月27日で1年となるのを前に、県が設置した第三者調査委員会が調査報告書をまとめた。告発された7つの疑惑のうち、斎藤知事のパワハラを事実と認定。文書を公益通報として扱わず、告発者探しをした県の対応は違法と結論づけた。
斎藤知事は県議会が終了する同26日以降に見解を示すと言うが、自身や県の対応は適切だったとする従来の主張は変えないと見られる。報告書の記述から、この問題が起こった原因と県職員や県議会の反応を2回に分けてお伝えする。(以下、文中敬称略)
(松本 創:ノンフィクションライター)
元裁判官の委員長「厳しい意見ではない」
〈政治は、少数の優秀なエリートだけで行いうるものではない。現場の職員が献身的に働くことにより初めて実を結ぶものである。そのためには、職員がやりがいをもって職務に励むことのできる、活力ある職場でなければならない。
活力ある職場となるためにパワハラはあってはならない。パワハラは、直接の被害者に精神的、身体的ダメージを与えるにとどまらない。周囲の職員を含め、就業環境を悪化させ、士気の低下を招く。職員の士気が低下したとき、県政は停滞する。その被害を受けるのは県民である〉
知事の斎藤元彦と側近幹部らの疑惑を告発した文書の内容を調査するため、兵庫県が設置した第三者調査委員会(藤本久俊委員長)は、資料を含めて計264ページに及ぶ調査報告書の締め括りに、そんな一節を記した。
第三者委は、委員長の藤本ら元裁判官の委員3人と調査員3人という計6人の弁護士で構成。昨年9月から半年間にわたり、職員や関係者計60人に対する延べ90時間のヒアリング、ホットラインによる情報収集、県庁各部署の資料収集などの調査を行った。
その結果、文書に書かれた7項目の疑惑のうち、斎藤のパワハラ行為を事実と認定。また、知事の命令で副知事(当時)の片山安孝ら幹部が告発者の元県民局長を特定して懲戒処分した県の対応は、公益通報者保護法に違反すると断じた。
先に公表された県議会の百条委員会報告書は、「パワハラ行為と言っても過言ではない」「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と断定を避けたが、法律の専門家が下した結論はより厳しいものとなった。もっとも、委員長の藤本は記者会見で「厳しい意見を言っているつもりはない。われわれは、これがスタンダードな考えだと思っている」と述べた。

斎藤が「事実無根」「嘘八百」と気色ばんだ記者会見から、3月27日でまる1年。文書は事実無根でも噓八百でもないと結論づけられた。第三者委は、今の社会における「スタンダード」をどのように判断したのか。報告書を詳細に読んでみる。まずはパワハラから。