当選確実の報道を受け、支持者にあいさつする斎藤氏

11月17日投開票の兵庫県知事選。パワハラ疑惑や独裁的な県政運営で批判一色となり、県議会では全会一致による不信任決議を突きつけられた斎藤元彦前知事が返り咲いた。孤立無援で始まった出直し選挙は、終盤には斎藤コールが湧き上がるほどの熱気に包まれ、ついに再選を果たす結果となった。なぜそんな劇的な変化が起きたのか。(以下、文中敬称略)

(松本 創:ノンフィクションライター)

「SNSによる勝利だった」と総括

 夜の商店街のアーケードに「斎藤コール」が何度も響き渡る。地元紙の神戸新聞などが午後8時に当選確実を打ったが、斎藤元彦が選挙事務所に姿を現したのは午後9時40分過ぎ。帰ることなく待ち続けた支持者たちに何度も頭を下げると、マイクを握った。

 文書問題で県政を混乱させたことをあらためて詫び、県職員、県議会、県内市町長との信頼関係の構築を誓うと、今回の選挙戦をこう振り返った。

「SNSを通じた選挙戦を広げさせていただいた。もともと私は、SNSへのコメントが厳しかったりで、そんなに好きではなかったんですが、今回は自分のことを見ていただいている方がこんなにたくさんおられる、応援してくれる方が広がるんだという、SNSのプラスの面をすごく感じたところです。

 県民の皆さん一人一人が県政を見て、何が正しく、何が真実か、そしてどうあるべきかを判断していただきました。これは県民の皆さん一人一人の勝利だと思っています」

 SNSを通じて県民に「真実」が広まったのが、出直し選挙の勝因だったというわけだ。

 最初から最後まで異例ずくめの選挙戦だった。

 これまでの票読みや選挙報道のセオリーでは到底とらえきれない民意の大きな波が生まれ、斎藤前知事の再選を後押しした。県議会やマスメディアの側から見れば「異常事態」である。

 だが、SNSやYouTubeから爆発的に広がったネット世論にとっては、政治や報道のプロを打ち負かした最初の大きな成功体験となるだろう。