「県議会やマスコミから辞めろ辞めろと言われ、日本中が敵になった。“鋼のメンタル”と言われるが、そんなことはない。投げ出したい時もあった。しかし自分がやってきた県政は決して間違っていない。改革を止めるわけにはいかない。須磨駅でたった一人の駅立ちを始めた時は不安だった。罵倒されることもあった。でも、ネットで真実を知った人たちが一人また一人と応援に集まり、ここまで来られた。あなただって一人じゃない。誰かが見ていてくれる……」

 徹底して斎藤元彦という個人目線のストーリーである。それゆえ、改革の内容や進め方に対する疑義は挟まれない。告発文書の犯人捜しをした初動対応や、結果として職員を死に至らしめたことも、そのストーリーでは問われない。

選対本部スタッフは地元の若手経営者たちと中高時代の同窓生

 不信任の理由となった「知事の資質」は、決してうまくはないが、実直そうな演説ときれいなお辞儀によって肯定される。「あれは作ってできるものじゃなく、彼の人間性が滲み出ている。あんな人がパワハラなんてするわけがない」というわけだ。そんな声を複数聞いた。

駅立ちも含め、聴衆や支援者に対する丁寧なお辞儀は有権者に好印象を与えたようだ

 支持者の声を聞いて回ると、斎藤への同情や共感と、マスコミ・県議会・県庁への不信と反感が表裏一体になっていることは、これまでの記事でも触れてきた。

 それら「既得権益」に対して、ネットでつながり、情報を共有する「個人」たちが嘘と欺瞞を暴く。真実と正義はこちらにあることを世に示す。その闘いの象徴として、斎藤は押し上げられた。

 では誰がその筋書きを戦略として描いたのかといえば、これが判然としない。

 選挙対策本部のスタッフは、3年前の初出馬時にも関わった地元の若手経営者たちと、斎藤が中高時代を過ごした愛媛県の愛光学園の同窓生が中心になっていた。選挙の経験があるアドバイザー的存在も何人かいたが、プロの選挙コンサルタントが継続的に入ってはいないという。いわば、素人選対だった。