(英エコノミスト誌 2024年11月16日号)

Gordon JohnsonによるPixabayからの画像

 ドナルド・トランプはやることがむちゃくちゃで、大したことは成し遂げられないと批評家は言う。

 閣僚を矢継ぎ早に指名していく様子を見れば、彼らの誤解も解けるだろう。次期政権は本気だ。

 第2次トランプ政権で規制緩和と減税が実施される見通しは、株式・社債市場で幅広く好感されている。

 本誌エコノミストはそれとは対照的に、大規模な強制送還とグローバルな貿易戦争が現実に大きな害をもたらすリスクについて警鐘を鳴らしてきた。

 ここ数日の閣僚指名は、トランプ氏がディスラプション(創造的破壊)、中国に対する強硬路線、そして自分に対する絶対的な忠誠心を求めていることの証だ。

 こんなシグナルが立て続けに発せられれば、世界経済にこれから何が起きるか不安に思う人もいるかもしれない。

トランプ次期大統領の意図

 その答えは3つの部分に分けられる。1つ目はトランプ氏の意図だ。

 規制緩和を進める姿勢は経済成長にとって良いことかもしれない。

 世界一の富豪イーロン・マスク氏と起業家出身の政治家ビベック・ラマスワミ氏が「政府効率化省(DOGE)」という大仰な名前がついた新組織のトップに指名された。

 政府の予算を年2兆ドル削減するという公約は明らかにばかげているが、思慮分別のある自由化であれば害はないかもしれない。

 すでに議会に提出されている許認可の法案審議を、次期政権が発足初日から加速させる可能性もある。

 トランプ氏はまた、人工知能(AI)の規制も解除すると公約している。

 このテクノロジーは電力を大量に消費する。発電所の建設ルールが緩和されてAI革命に弾みがつけば、どんなことになるか想像してみるといい。

 あいにくトランプ氏はこのほかにも、何百万人もの不法移民を強制送還し、中国には最大60%、世界のほかの国々には10~20%の関税を課したいと考えている。

 これらはすべて、経済成長にマイナスに作用するだろう。

 例えば、大量強制送還の費用は数千億ドルに達するとの試算もある。

 しかもそれには、労働力の不足やスパイラル的に上昇する消費者物価といった経済への負担が含まれていない。米国の農園で働く人のざっと半数は、法的地位を持たない不法滞在者だ。