(英エコノミスト誌 2024年12月14日号)

アサド支配からの解放を祝う市民たち(12月13日金曜日、シリアの首都ダマスカスで、写真:AP/アフロ)

うまくいかないことも多々あるだろうが、今は暴君の凋落を祝うべきだ。

 シリアに53年間君臨した末に、アサド家が後に残したものは廃墟と腐敗、そして困窮だけだった。

 12月8日に反体制派の部隊が首都ダマスカスに向かって進攻すると、体制側の軍隊は煙のように消え去った。

 バッシャール・アサド氏のために戦う理由が完全になくなったからだ。

 しばらくして、同氏の支配で疲弊した国民はうち捨てられた宮殿を見て唖然とした。

 刑務所からは憔悴しきった人々が目を瞬かせながら姿を現した。もう自分の名前を思い出せない人すらいた。

残虐な政権の崩壊

 アサド氏がモスクワに逃亡した今、問題はシリアの解放がこれからどこに至るか、だ。

 異民族への暴力と宗教・宗派間の不和に悩まされている地域だけに、最悪の事態を恐れる人も多い。

 2010~12年の「アラブの春」は、独裁者を倒した国は多くの場合、次の支配の座が争われたり、同じくらい専制的な人物が牛耳ったりすることを教えてくれた。

 だからこそ、なおのこと、シリアの状況がもっと良いものになるよう願い、そのために行動しなければならない。

 この国を血の海にさらに引き込もうと企てている勢力が多数あることは否めない。

 シリアはかつてのオスマン帝国から切り出された、多様な民族や様々な信仰を持つ人々で構成されるモザイクのような国だ。

 これらの人々には安定した民主主義国家で肩を寄せ合って暮らした経験がない。

 アサド一族が属するイスラム教の少数派アラウィ派はシリア国民のおよそ10~15%を占めるにとどまる。

 一族は数十年にわたり、暴力を用いてシリア社会におおむね世俗的な安定を押しつけてきた。

 シリアの人々が復讐したいと考える理由は多々ある。

 兵器がそこかしこにある国で13年も内戦が続けば、恨みを晴らしたいと考える勢力が出てきてもおかしくない。

 監獄から解放されたばかりの邪悪で危険な男たちの一部も同じことを考えるだろう。

 アサド家の取り巻きの多くはアラウィ派かシーア派であり、スンニ派は塩素や神経ガスを浴びせられるといった残虐行為に苦しめられてきた。