溶接や電気工事、配管工事などの仕事はAIの普及で減らないどころか増える可能性がある(写真は建設現場での溶接作業、2017年8月4日、中国で、写真:アフロ)
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(英エコノミスト誌 2025年12月20日・27日合併号)

Z世代は費用がかかる大学進学よりも「手に職」に関心を示している。

 ジェイコブ・パーマーさんは特別な技術を身につけたうえで行う肉体労働のことなどほとんど知らずに育った。「汚くて汗臭い」「いかにもレベルが低い感じのする」仕事だと思っていただけだった。

 だが、ノースカロライナ州育ちのパーマーさんは新型コロナウイルス禍でリモート授業を1年受けただけで、自分は大学に向いていないと悟った。

 1年次を終えると退学し、電気技術者見習いとして2年間の職業訓練を受け、2024年に独立した。

 まだ23歳ながら、すでに倉庫1棟とピックアップトラック1台を手に入れており、YouTube(ユーチューブ)のチャンネルも開設している。

 煙探知機やテスラの充電器など様々な電気機器を修理する動画を投稿しており、チャンネル登録者数は3万3000人を超えている。

 今年の収入は15万5000ドルを見込んでおり、そのうち10%がYouTubeによるものだという。電気技術者になることの利点については、次のように話してくれた。

「仕事をすればかなり稼げる。仕事のやり方を学ぶことでも稼げる」

 そして、学校を卒業して初めて就くホワイトカラーの仕事を人工知能(AI)が奪っていくことについて、多くの若い大卒者が不安を覚えているこの時代に「ものすごく大きな職の安定」も生むと言う。

 実際、パーマーさんは仕事がなくなることを心配していない。「今後はデータセンターで配線工事の仕事があるだろうからね」。

大学に見切りをつけるZ世代

 大学教育を受けることのメリットを再考しているZ世代(1997年~2012年生まれ)はパーマーさんだけではない。

 世論調査会社ギャラップが最近行った調査によれば、米国の成人のうち、大学教育が「非常に重要」だと考える人の割合はわずか3分の1前後で、2010年当時の4分の3より大幅に低下している。

 また、米国の成人の約4分の1は高等教育を「ごくわずか」または全く信頼していないと話している。

 これをさらに掘り下げると、ごくわずかしか信頼しない人々の多くは、大学は実際的な価値のあるスキルを教えないうえに学費が高すぎると思っていることが分かる。

 実際、米国の公立大学に4年間通って学位を取るための授業料の平均(インフレ調整後ベース)は、ここ30年で2倍以上に高騰している。

 企業への導入を支援するソフトウエアエンジニアなど、AIは新しい仕事を創出しているが、一部の新卒者の就職を困難にしてもいる。

 米国のスタンフォード大学とハーバード大学、英国のキングズ・カレッジが先日行った調査によれば、生成AIを導入する英米企業には若いホワイトカラーの採用を減らす傾向が見られる。

 米国では11月、学士号を持つ20~24歳の失業率が6.8%で、高校卒の資格しかない人の失業率は8.6%だった(図1参照)。

 また、仕事を見つけた大卒者のうち半分以上は卒業1年後に不完全就労(4年制大学での学位取得が不要な仕事に就くこと)状態にあり、不完全就労でキャリアをスタートした人の73%は10年後もその状態のままだった。

図1