ダボス会議に出席、スピーチの後の質問に答えるトランプ米大統領(1月22日、写真:ロイター/アフロ)
(英エコノミスト誌 2026年1月24日号)
戦術的退却がなされても、大きなリスクが残る。
欧州諸国は激しい非難を予想していたが、スイス・ダボスでは、ドナルド・トランプ大統領の態度はほとんど融和的だった。
グリーンランドの「権利、権原(けんばら)、所有権」を要求したものの、関税は引っ込め、武力行使の可能性も退け、その後は新たな「枠組み」と交わされる可能性のある取引を歓迎した。
世界各地の米国の同盟国はほっとしたことだろう。大西洋同盟を巻き込む恐れのあった危機は後退した。だが、この状態はいつまで続くのか。
これは戦術的な退却にすぎないかもしれない。トランプ氏はもう何年も前からグリーンランドを欲しがっている。
そう主張する際には、欧州諸国の政府が強い警戒感を抱くべき侮蔑的な言葉を使って北大西洋条約機構(NATO)について語った。
グリーンランド危機には、すべての国々が学べる教訓がある。
まず、トランプ氏は圧力を受けると引き下がるが、そこで長期的な目標を断念しているとは限らない。
次に、大統領の偏狭で悲観的な世界観と歴史の書き換えを厭わない姿勢のせいで、米国の同盟をかつて下支えしていた信頼が蝕まれてしまっている。
最後に、それゆえトランプ政権下で生じた不和はいずれも存否に関わる問題になる恐れがある。トランプ大統領はグローバルな再編の前兆であり、米国の同盟国はその時に備えなければならない。
米国にとってのグリーンランドの価値
グリーンランドの場合、欧州は幸運だった。
この局面を切り抜けられたのは、米国にとって戦略的価値がほとんどないものをめぐる争いをトランプ氏が選択したからだ。
同氏によれば、氷が溶けるにつれて貨物船などの航行が可能になり、北極海をめぐる争いが起きる(この主張はその通りだ)。
グリーンランドは、米国が計画しているミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」の設置場所の一つでもある。もしこの島が米国のものであれば、ロシアも中国も攻撃しようとは思わないだろう。
だが、グリーンランドにはすでに、攻撃をためらわせる米軍基地が存在する。もしこの基地が攻撃されれば、デンマークと欧州の同盟国はその防衛に強い関心を持つ。
すでに結ばれている協定でも米国はグリーンランドでやりたいことの大部分が行えるうえ、新たな枠組みの下ではデンマークがそうした協定を強化することもあり得る。
つまり、地図上でグリーンランドと米国が同じ色に塗られるようにしても、新たに得られる利益はゼロなのだ。
このおかげで欧州諸国は、グリーンランド獲得に要するコストは利益を上回る恐れがあると説明しやすくなった。
まず、トランプ氏の関税構想を受け、一部の欧州諸国が報復の可能性を口にした。市場は、貿易戦争と安全保障危機が米国に及ぼしかねないダメージに注目した。
米国の世論もコストのかかる買収にはおおむね反対している。欧州からの猛烈なロビー活動を受け、連邦議会も珍しくトランプ氏に立ち向かう兆しを見せた。