FRBビルの改修コスト資料に目をやるトランプ氏とパウエル氏(2025年7月24日、写真:AP/アフロ)
目次

(英エコノミスト誌 2026年1月17日号)

だが、一般市民はインフレの高進に耐えられるのか?

 中央銀行にはある程度の独立性を認めるべきだという考え方は、中央銀行の制度が生まれた頃から存在する。

「政府が十分に支配できるようにしておきたいところだが、支配しすぎてはいけない」

 ナポレオン・ボナパルトは1806年、設立間もないフランス銀行についてそう漏らした。

 試しに、このセリフをドナルド・トランプ米大統領に言ってみるといい。何しろ、大統領はこの1年、もっと速いペースで金利を下げるよう米連邦準備理事会(FRB)に圧力をかけてきた。

 1月11日に事態がエスカレートし、司法省からFRBに召喚状が送られてきたことをジェローム・パウエルFRB議長が明らかにした。

 パウエル氏は、FRB本部の改修費用をめぐって長らく続いている対立の関連で自身が刑事訴追されるかもしれないと述べた。

 トランプ政権の一連の行動は、中央銀行の独立性に対するここ数十年で最も人目を引く攻撃だ。一つにはFRBが世界で最も重要な中央銀行だからだ。だが、政治家が金融政策に干渉しているのは米国だけではない。

 世界中で今、概して言えば数十年にわたってインフレ率を引き下げ、経済の安定性を高めてきた仕組みが当たり前のものとして受け止められなくなっている。

経済と物価を安定させた中央銀行の独立性

 中央銀行の独立性の現代版が姿を現したのは第2次世界大戦後のことだ。

 米国では財務省とFRBが1951年に「アコード(合意)」を交わし、FRBが戦争中に手がけていた政府の借り入れコスト圧縮の義務から解放された。

 ドイツでは、インフレを未然に防ぎ、かつ1920年代のワイマール時代における通貨価値下落の再現を避けるための裁量がブンデスバンク(ドイツ中央銀行)に認められた。

 この仕組みは1970年代のインフレ抑制に比較的成功し、欧州大陸諸国のモデルになった。

 1980年代に入ると理論研究と実証研究の両方で独立性を支持する結果が得られ、その流れに勢いがついた。

 それによると、政治家は高水準の雇用、インフレによる債務の目減り、そして選挙での当選を目指すあまり自滅的な金融政策を志向しがちだ。

 また、完全雇用や低水準の借り入れコストといった全員の懐が暖かくなる目標は、政策運営を保守的な中央銀行家に任せる方が達成されやすくなる。

 その人物は物価が気になって仕方がない「インフレおたく」でもいいかもしれない。

 結果は応用経済学の勝利だった。独立性が高まるにつれてインフレ率は低下した(図参照)。

 経済学者は景気後退があまり起きなくなった「グレートモデレーション(大いなる安定)」を祝った。

 2007~09年の世界金融危機の直後の深刻な不況は、金融政策のせいにするのが難しい。新型コロナウイルス禍の最中の短い景気後退は金融政策とは全く無関係だ。

 新興国は、裕福な国々の独立した中央銀行をまねることで変化を遂げた。

 1990年代には、貧しい国々と裕福な国々のインフレ率(年率)のメジアン(中央値)に6.2ポイントの差があった。2020年代は1.4ポイントにとどまっている。