文:渡辺 慎太郎

これまでレクサスの最小モデルはUXだったが、それよりもさらに小さいコンパクトサイズのLBXが新たに追加された。LBXは「Lexus Breakthrough X(cross)-over」の略

小さな高級車という文脈

 レクサスからまったく新しいモデルが登場しました。レクサスLBXはレクサスのラインナップのボトムを支えるエントリーモデルで、有り体に言えば(レクサスの中では)もっとも安価なモデルでもあります。ラグジュアリーブランドであるレクサスにとってのLBXは、言わば「小さな高級車」のような存在です。

 小さな高級車という概念は決して新しいものではなく、1960年代にイギリスなどでヒットしたヴァンデン・プラス・プリンセスなどが有名です。ヴァンデン・プラスは元々ロールス・ロイスやベントレーなどのボディ制作を請け負うコーチビルダーでしたが、ヴァンデン・プラス・プリンセスは全長が4mに満たない小型の4ドアセダンで、エンジンはわずか1,100cc。“ミニの4ドア版”とも言われていたいっぽうで、その内装は彼らがそれまで培ってきた高級車の制作手法をそのまま持ち込んだ豪華なもので、“ベビーロールス”などとも呼ばれていました。

 このクルマは主に富裕層から高く評価されることになります。ご存知のように、例えばロンドンの中心部などは道路もパーキングスペースも狭く、ロールス・ロイスやベントレーなどのラージサイズの高級車にとっては運転の面倒なエリアでもありました。そこへ、例えば注文していた額縁を受け取りに行くとか、ちょっとしたおつかいで赴くアシとして、ヴァンデン・プラス・プリンセスは大変重宝したそうです。

 もうひとつ、富裕層から支持された理由があります。それは、たとえ小さくても、彼らのような階級の人々が乗るにふさわしいしつらえや雰囲気を備えていたからです。クルマは「小さい=安い」が一般的な方程式として成り立っています。でも、物理的に小さいクルマが必要な人や、大きなラグジュアリーカーが購入できる経済力があっても、子供も独立したしそんなに大きなクルマは自分のライフスタイルには必要ないという人もいます。そういう彼らが乗っても恥ずかしくないような、小さいけれど高級なクルマは他にほとんどありませんでした。

アストンマーティン シグネット

 最近では、ふたり乗りコンパクトカーであるトヨタIQに、アストン・マーティンが手を加えて“シグネット”というモデルを開発、主にアストン・マーティンの既存客へ販売し好評だったことがあります。しかしそれ以降、小さな高級車はほとんど生まれず、だからレクサスLBXは現時点では唯一無二の存在とも言えます。

注目すべきは“Bespoke Build”

 LBXのボディサイズは全長4,190mm、全幅1,825mm、全高1,545mm。全長はわずかに4mを超えてはいるものの、コンパクトな4ドアハッチバックとなっています。実は、プラットフォームをトヨタのヤリスクロスと共有していますが、見た目も乗り味もヤリスクロスを感じさせる部分はほとんどありません。レクサスはトヨタのブランドであり、ほとんどモデルがトヨタ車とプラットフォームを共有していますが、独自の開発部門が手掛けているので、このLBXも同様にレクサスオリジナルのデザインや乗り味が構築されています。

スタンスが広くボリューム感のあるエクステリアデザイン。プラットフォームはヤリスクロスと共有するものの、レクサス専用と言っていいほど大幅に手が加えられている

 内装の仕様には“Cool”と“Relax”の2種類があって、いずれもシートには本革の表皮が使われています。インパネ/ドアトリム/前後コンソールはスエード調やL texと呼ばれる表皮で覆われていて、樹脂がそのまま剥き出しになっている部分はほとんど見当たりません。

写真は“Cool”と呼ばれる仕様のインテリア。本革シートやスエード調のトリム類などはすべて標準装備で、ラグジュアリーな雰囲気を漂わせる

これだけでも十分豪華な雰囲気なのですが、注目すべきは“Bespoke Build”という仕様です。これはあらかじめ用意されたバリエーションの中から、好みの色や素材やデザインを選び、自分だけの1台を作り上げるというもの。例えば内装では表皮の色、シートベルト、ステッチ、刺繍、トリムの加飾などをカスタマイズすることが可能です。

LBXの特徴のひとつが、内外装をオーナーの好みに応じてカスタマイズできる“Bespoke Build”仕様の設定。自分だけの1台を作り上げることが可能となる

 持て余さないパワー

 エンジンは1.5Lの直列3気筒エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドで、アクセルペダルの操作に対するレスポンスはとてもよく、力強い加速感が味わえます。最近では到底使い切れないパワーを備えたクルマが多いので、これくらいのほうがむしろポテンシャルを余すことなく引き出せて気持ちいいと感じるかもしれません。ステアリングの動きに対してスッと反応する様もまた、とても気持ちのいいものです。ドライバーの意志に対してその通りにクルマが動いてくれると一体感やダイレクト感を感じるので、運転が楽しいと思うようになります。

現時点では1.5Lのエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド仕様のみ。後輪をモーターのみで駆動する4WDも選択できる

 ただ、乗り心地と静粛性については期待通りというわけにはいきませんでした。乗り心地と静粛性はレクサス全車に共通する最優先項目となっているはずなのですが、LBXに関してはそれよりも運動性能のほうに重点が置かれたよう見受けられます。乗り心地がよくて静かな高級大型サルーンから乗り換えてくる人にとっては、ちょっと物足りなく感じるかもしれません。

 小さな高級車というコンセプトそのものは、個人的に絶賛に値すると思っています。不必要に大きなクルマを乗り回すよりも、あえて小さいクルマを所有するほうがスマートに見える。そんな時代にこれからなっていくと想像しているからです。LBXは今後もっと熟成されることで、きっとその一役を担ってくれると願っています。