大谷 達也:自動車ライター

ワン・マン、ワン・エンジンではないAMG
AMGには「ワン・マン、ワン・エンジン」という確固たるフィロソフィーがある。
現代の自動車産業においては、その心臓部というべきエンジンであっても流れ作業で組み立てるのが常識。しかしAMGは、世に送り出すロードカー(公道を走行できる通常の市販車のこと)であっても、ひとりのメカニックが1基のエンジンを最初から最後まで手仕事で組み上げるポリシーを守り通してきた。これが「ワン・マン、ワン・エンジン」と呼ばれるもので、1967年にレーシングエンジンの開発と製造を主な生業として設立されたAMGの矜持を示すものだった。
ただし、2010年代に入ると「ワン・マン、ワン・エンジン」でないAMGのロードカーが登場する。
AMGは近年ではメルセデス・ベンツの1ブランドとしてメルセデスAMGと呼ばれているが、そのラインナップのうち、「ワン・マン、ワン・エンジン」を採用しているのはV8エンジンを搭載する「63シリーズ」、そしてAクラスなどのコンパクト系に4気筒エンジンを積んだ「45シリーズ」のみ。それ以外のメルセデスAMGは、「ワン・マン、ワン・エンジン」ではない、通常のラインで組み立てられたエンジンを搭載していると捉えていただいて間違いない。

ここで紹介する「メルセデスAMG E53 ハイブリッド 4マティック+ ステーションワゴン(PHEV)」も「ワン・マン、ワン・エンジン」ではないエンジンを搭載したメルセデスAMGの一例。では、なんの見どころもないモデルだったかといえば、「ハイパフォーマンスと快適性を両立したスポーティワゴン」としてなかなか魅力的な存在だったというのが、この一文の主旨である。