
これは欲しい!
フェラーリ・アマルフィは、私が本気で欲しいと思った初めてのV8フロントエンジン・フェラーリである。
そう書くと、読者から「でたでた。それって、書き出しに困ったときに自動車ジャーナリストが使う常套句でしょ?」なんてツッコミが入りそうだが、これは掛け値無しに私の正直ないまの気持ちである。
もちろん、いまの私は主に経済的な理由により新車のフェラーリを購入することができない。でも、条件が揃ったら是非、買いたいと思うし、そんな風に思っているクルマは他に何台もない。そもそも、私が原稿の書き出しで「このクルマが欲しい!」というフレーズを普段から使っていないことは、オートグラフの記事を楽しみにされている方々であれば先刻、ご承知のとおりである。
では、なぜアマルフィを欲しいと思ったのか。裏を返せば、なぜいままのでV8フロントエンジン・フェラーリには食指が動かなかったのか。まずは、この辺りからご説明しよう。
ということで現地から届いた写真でも笑顔の著者・大谷達也氏
クルマ好きは注文が多い
スポーツカーであろうとなんであろうと、一度手に入れたクルマはできるだけ毎日乗りたいというのが、私の基本的な願望である。ただし、毎日乗るとなると、それなりに条件が絞られてくる。
まずは、一定程度の快適性は欠かせない。特に私は片道400〜500kmの出張であれば公共交通機関ではなくクルマで出かけることが多いタイプなので、長距離走っても疲れにくいクルマであることが重要だ。
ところで、疲れにくいクルマって、どういうものだろうか。同乗者の立場でいえば、乗り心地が硬すぎもしなければ柔らかすぎもせず、ゴツゴツ感が薄いわりにボディーをフラットに保つ傾向が強いクルマとなるだろう。騒音が大きなクルマも、疲れにくいクルマにはあてはまらない。できれば巡航時には無音に近いクルマが長距離移動には好ましい。
これがドライバーの立場でいうと、もう少し条件が増える。
まずは操作系に対する反応が正確なクルマが欲しい。昔のテレビドラマなどに出てくるクルマは、ドライバーが右から左へ、左から右へと始終操舵していたものだが、あれはステアリングの遊びが大きな証拠。そういうクルマは、運転しているとすぐに疲れる。過敏ではない範囲で、自分の狙ったラインをすっとトレースできるクルマ。長距離移動には、こういうタイプが望ましい。
あとはほどよい刺激が得られることも重要だ。なぜなら、あまりに刺激がないと退屈で眠くなってしまうから。反対に適度な刺激を与えてくれるクルマを運転していると眠くならない。それよりもさらに効果的なのは、ステアリングを握っていてクルマの機械的な優秀性がそこはかとなく伝わってくるパターン。この場合は「うわあ、いいクルマだ」という思いが何度も心をよぎるから眠くなる暇がない。むしろ、ほどよく刺激的である。
同様のことはすべての操作系についてあてはまる。自分の操作に対して狙ったとおりの反応を示し、まるで手足のように操れるクルマであること。その際に適切なフィードバックを返してくれて、機械としての優秀性も感じられる。そんなクルマで快適性も十分高ければ、私は冗談抜きでどこまでも走り続けることができる。
どこまでも、だ。

