9月24日、東京のTAKANAWA GATEWAY Convention Centerで、フェラーリの最新フラッグシップモデル「849 テスタロッサ」が日本初披露された。わずか2週間前にイタリア・ミラノでワールドプレミアを迎えたこの新型車は、2019年にプラグイン・ハイブリッド(PHEV)スーパースポーツとして登場したSF90ストラダーレの後継モデルであり、フェラーリが電動化時代に示す新世代フラッグシップスーパースポーツの第2章である。

フェラーリ・ジャパン 代表取締役社長のドナート・ロマニエッロ氏(左)と来日したフェラーリ S.p.A. ヘッド オブ プロダクト マーケティング マネージャー マルコ・スペッソット氏(右)

今度のテスタロッサはモーター付きV8

849 テスタロッサは、SF90ストラダーレと同様のプラグイン・ハイブリッド・システムを採用している。心臓部には3,990cc V8ツインターボエンジンを搭載し、これに3基の電動モーター(フロント2基、リア1基)を組み合わせることで、システム総出力は1050PSを発生する。フェラーリのロードカーとして史上最高の出力である。

赤いヘッドカバーのエンジン(テスタロッサ)をリアミッドに搭載する

このV8エンジンは、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを4年連続で受賞した世界的に評価の高いユニット。エンジン単体ではSF90ストラダーレの780PSから50PSアップの830PSを実現しており、この新たなパフォーマンスの頂点に到達するため、フェラーリは内燃機関を全面的に再設計したという。

電動システムは、リアアクスルに1基、フロントアクスルに2基のモーターを配置し、トルクベクタリングと電動4WDシステムを実現している。7.45kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、eDriveモードでは25kmの電動走行が可能だ。

電動リトラクタブルハードトップを備えたスパイダーモデルも用意されている。価格はクーペが6465万円、スパイダーが7027万円。さらに専用チューニングを施した「アセット・フィオラノ」パッケージが、オプションとして602万7000円(予価)で設定されている

強力なパワートレインにより、849 テスタロッサは0-100km/h加速が2.3秒、0-200km/hが6.35秒を達成。最高速度は330km/hに及び、フィオラーノのラップタイムは「SF90ストラダーレ」より1秒以上速い1分17秒500を記録する。

注目すべきは、フェラーリ史上最大のターボチャージャー(レーシングカーを除く)を採用しながらも、ターボラグを排除したこと。今回のジャパンプレミアでは、イタリアから来日した849 テスタロッサのプロジェクト マーケティング マネージャーであるマルコ・スペッソット氏が「スーパーカーのF80やレーシングカーの296 GT3のパーツを用い、その技術を駆使してターボラグを完全に排除しました」と語った。

FIVEシステム

ビークルダイナミクスで特筆すべきは、「FIVEシステム(Ferrari Integrated Vehicle Estimator)」と呼ばれるフェラーリ統合車両推定システムを搭載したことだ。これは、リアルタイムにデジタルツインを生成することで直接は測定できない車両の動きを瞬時に分析し、より精密な車両制御を可能にする革新的な技術だ。

FIVEシステムは、例えば車速(誤差の範囲は1km/h未満)や車体のヨーアングル(誤差1度未満)を正確に推定でき、トラクションコントロールや電子制御ディファレンシャルのマネジメント、e4WDシステムの効果が飛躍的に高まったという。

さらに、「SF90 XX ストラダーレ」で開発された最新世代のABS Evoシステムと連動し、あらゆる路面状況でより安定したブレーキングを実現している。この高度なブレーキ制御により、コーナリング時でも直線走行時でも、ドライバーが意図した通りの制動力を得ることができ、より安心してスポーツドライビングを楽しむことが可能になった。これらの先進技術により、849 テスタロッサはフェラーリのラインアップモデルで最も先進的な電子制御を誇るモデルとなっている。

フェラーリ テスタロッサ(1984)

849テスタロッサという名前

改めて「テスタロッサ」というネーミングについて遡ると、その起源は1955年のマラネッロにある。ある整備士が余った赤い塗料で特に高性能なエンジンをマーキングしたことに端を発し、それ以来、この名前はフェラーリの最高エンジンを象徴するものとなった。

フェラーリ 250 テスタロッサ

この象徴的な名前は、「500TR」やル・マンで勝利した「250テスタロッサ」といったレーシングカー、さらには1984年のミッドシップスーパーカー「テスタロッサ」のような時代を代表するデザイン・アイコンとして受け継がれてきた。849という数字は、気筒数である8と、その1リッターあたり499ccの排気量を表している。

オマージュに富んだデザイン

エクステリアデザインは、1970年代のスポーツプロトタイプからインスピレーションを得つつ、現代的な解釈を加えたものとなっている。車体側面の異なる色で強調されたエアインテークの開口部は、過去のレーシングカーからインスパイアされている。

エアロダイナミクスも「512S」や「512M」「FXX-K」といった過去と現代のレーシングカーからインスピレーションを受けており、総ダウンフォースは時速250㎞で415kgと「SF90 ストラダーレ」から25kg増加。冷却性能も15%向上している。

リア部分は、70年代のレーシングカー「512s」からインスピレーションを得たツインテール形状を採用。車のダウンフォースを増加させる機能的なソリューションであると同時に、デザイン的にも極めて象徴的で認識しやすいものとなっている。

インテリアでは、フェラーリ・ベルリネッタの優雅さと洗練を、F80からインスパイアされたダブルコックピットのソリューションと調和させたという。水平基調のデザインにより、ドライビングに集中できる環境を実現している。また、ステアリングホイールは、ブラインドでの操作性向上のため、F80と同様の物理スイッチ類を採用した新タイプを導入。デジタルとアナログの融合が最適化された。

フェラーリ史上最大のターボチャージャー、大容量ラジエーター、強化されたインタークーラー、高性能ブレーキ、ワイドタイヤといった高性能コンポーネントの追加により、通常であれば先代モデルより20kg以上重くなるところを、車両全体での徹底した軽量化により、先代と同じ重量を実現。

さらに、カーボンファイバーとチタンを多用し、車重を30kg以上軽減する「アセット・フィオラノ」パッケージも用意されている。このパッケージでは、機能的な空力要素も追加され、リアのツインテールがツインウィングへと進化する。

アセット・フィオラノ仕様の849テスタロッサ

スペッソット氏は849 テスタロッサについて「これは私たちが“真のドライバー”のために開発したクルマです」と語る。フェラーリの製品ラインの中で、同車は性能に特化しパイロットカーとして、その極限に位置するモデルと位置づけられている。

849 テスタロッサは、フェラーリがハイブリッド時代に提示する新たな回答である。それは単純な電動化ではなく、内燃機関と電動化技術の完璧な融合によって、従来を超えるパフォーマンスと新たなドライビング体験を実現している。テスタロッサの名を冠したこの最新作は、フェラーリの歴史に新たな伝説を刻むことだろう。