腕時計を丸1週間、実際にJB, autograph記者が身に着けて試します。身に着けたからこそ伝えられること、実感したことをつまびらかに書き記しました。1週間というセミロングな時間をともにしたからこそ、気づいた“リアルな感想”を綴ります。

第4回テーマ オリエントスター「M45 F8 Mechanical Moon Phase Hand Winding」

今回のモデルは、昨秋、オリエントスターから発売された「M45」シリーズの最新作。落ち着きのあるローマン数字インデックス、リーフ形状の針を持つオリエントスターのなかでもクラシカルな表情が際立つラインです。その「M45」モデルに、新しくムーンフェイズ(月齢)表示機構が搭載されました。日常生活がポエティックに彩られていく優越感! これ、想像以上でした。

この時計を1週間、試着した“リアルな感想”

1 第一印象からして上品。エレガンスを日常に纏う高揚感

2 文字盤に宿る詩情。ムーンフェイズという哲学に見惚れる

3 腕上で感じる、“ちょうどいい自由”

4 格上クラスにまで磨き上げられた、魅せるムーブメント

5 まとめ

第一印象からして上品。エレガンスを日常に纏う高揚感

デイリーウォッチと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、もっとスポーティなデザインではないでしょうか。確かにブレスレットタイプのスポーツモデルは、週末のカジュアルな装いにも、昨今のビジネススタイルにも馴染みやすく、日常使いの筆頭候補として支持されています。

しかし、ここで敢えて問いたいのです。汎用性のあるドレスウォッチこそ、ビジネスパーソンにとっての真のデイリーウォッチの答えではないでしょうか? エレガントな雰囲気のモデルをドレスダウンして日常にも合わせる──。イザという時のフォーマルな装いに品格を添えるのは当然として、デニムやチノパンといったカジュアルなスタイルにさえ上質な雰囲気をもたらす。この“逆転の発想”こそ、時計を着こなす醍醐味でもあると思うのです。

オリエントスター「M45 F8 Mechanical Moon Phase Hand Winding」は、まさにそんな志向を体現した一本です。クラシカルなドレスウォッチの美学を確固として持ちながら、39.5mmというモダンなサイズ感と11.9mmの薄型ケースが、驚くほどに日常使いの実用性をもたらしています。手首に載せた瞬間に感じる一体感は格別で、スーツの袖口にもTシャツ姿にも、まるで最初からそこにあったかのように自然に収まります。シーンを選ばない懐の深さ──これこそが“エレガンス”と“デイリーユース”を高次元で両立させた証でしょう。

すごく薄いというわけではないけれど、厚さが気にならず、むしろ手首の上で安定感を感じました。ドレスシャツならば、リスト周りの余裕で十分収まる程度

文字盤に宿る詩情。ムーンフェイズという哲学に見惚れる

端正なデザインの文字盤。何度見ても見飽きることのない、普遍の美学を感じます

日常生活において、ムーンフェイズは一見、不要な機能に思えるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか? もしただの装飾に過ぎないのなら、時計の長い歴史の中で、とっくに淘汰されているはずです。

月の位置関係は、私たちに確かなインスピレーションをもたらします。潮の満ち引き、新月・満月をはじめとする占星学的啓示、月明かりに照らされた夜の景色──。月を意識して生活することは、単なる嗜みレベルではなく、大人として持つべき、時の流れへの敬意だと思うのです。

ローマ数字インデックスのフォント自体はかなり大きいのですが、縦長の細字明朝体にしていることで目立ちすぎず、文字盤を落ち着かせています

そうした哲学を体現しているのが、このモデルの文字盤です。まず目を奪われるのは、インデックスのフォント。シャープに凛と伸びたアラビア数字は、文字盤面積に対して絶妙な存在感を保っています。一見すると数字が小さく見えますが、実際には決して小さくありません。縦に伸びた形状が生み出す視覚効果により、主張しすぎることなく、完璧なバランスを実現しているのです。

ブルー塗装を施したリーフ針。画像ではストライプのように見えていますが、実際には撮影部屋のカーテンが映り込んでいます。それだけ、鏡面仕上げがピッカピカということです
一段奥まったインジケーターにより、文字盤に陰陽のグラデーションが生まれています。こういうディテールが素晴らしい!

この抑制の効いたデザインが、引き算の美学を雄弁に物語ります。インデックスが必要以上に自己主張しないからこそ、時計の各ディテールが生き生きと呼吸を始めるのです。ブルーに輝くリーフ針の優美な曲線は、まるで時の流れそのものを描き出すかのよう。一段奥まって配置されたパワーリザーブインジケーターは、控えめながらも繊細な表情で存在を主張します。そのすべてが、時の流れを静かに、しかし確かに語りかけてくるのです。

月齢盤の奥にMOPを貼り、ムーンフェイズを表現。静謐な雰囲気このうえない、日本人好みのムーンフェイズだと私は思います

そして何より心を奪われるのが、6時位置の月齢表示です。白蝶貝(MOP)で表現された月は、ふんわりと輝きながらも、どこか儚げな存在感を放っています。ここで注目すべきは、この月に表情が描かれていないことです。海外の時計に見られる、擬人化された笑顔はありません。これは偶然ではなく、明確な意図があったと考えます。日本人にとっての月とは、無表情であるべきなのです。表情がないからこそ、私たちは自由に心のなかで気持ちを投影できる。喜びも、哀しみも、自然の静寂も──すべてを受け止めてくれる存在が、そこにあります。

周囲に散りばめられた星々も実に美しい。シャープに輝くシルバーの星と夜の濃紺が織りなすコントラストは、スッキリとした印象を与えながらも、深い宇宙の奥行きを感じさせます。艶やかな夜空に浮かぶこのムーンフェイズディスクは、もはや単なる時刻表示装置ではありません。見るたびに気づきをもたらすアート作品なのです。

腕上で感じる、“ちょうどいい自由”

実際に腕に載せた瞬間、この「M45 F8 Mechanical Moon Phase Hand Winding」の立ち位置の絶妙さに、改めて感嘆させられます。ケース厚11.9mmという数値を見れば、ハイブランドの超薄型ドレスモデルと比べて、確かにある程度のボリューム感があります。しかし、ここが重要なのですが、それでもビジネススーツの袖口にあって、品性を損なうどころか、むしろ使用者の賢さを引き出すのです。

スーツに合わせた時の袖口のハマり具合は、想像通りカンペキ。ちなみに自然光が差し込む窓の側で撮影したので文字盤がクリーム色に見えていますが、実際にはシルバー。でも、屋外や暖色ライトのもとではこんな見え方もします

高額なハイブランドモデルを背伸びして購入した経験のある方なら、きっとご存知でしょう。意外なことに、こうしたモデルは日常使いを躊躇してしまうという皮肉な事態に陥りがちなのです。まして、目上の方々の目を気にする場合など、ブランドが目立つ時計はいささか使いにくい。個人事業主や経営者の方々であれば話は別ですが、多くのビジネスパーソンにとって、他人の目は最優先で気にすべき事柄なのです。特にドレスウォッチのような格付けされやすいアイテムでは、その傾向は顕著になります。

加えて、その汎用性の高さには目を見張るものがあります。ビジネススーツに合わせれば知的な印象を、ビジネスカジュアルには洗練された雰囲気を、そして週末のリラックスしたスタイルには上質な余裕をもたらします。上品さという軸を保ちながら、これほど幅広いシーンに対応する時計は、そう多くありません。エレガンスという本質を手放すことなく、日常に溶け込む柔軟性を備えた、極めて稀有なバランス感覚を持っていると思います。

格上クラスにまで磨き上げられた、魅せるムーブメント

時計愛好家にとって、ケースを返す瞬間ほど、心躍る時間はありません。「M45 F8 Mechanical Moon Phase Hand Winding」は、その期待を遥かに超えて応えてくれます。サファイアクリスタルの裏蓋越しに姿を現すのは、新開発のキャリバーF8A62です。手巻き式ムーブメントを採用したことで、自動巻きのローターがムーブメントを覆い隠すことはありません。機構が惜しげもなく、堂々と視線に晒されています。同時にこの選択が、ケースの薄型化にも貢献しているのです──まさに一石二鳥の見事な設計といえます。

ムーブメントを全面露出させるシースルー仕様。サファイアクリスタルを支えるリング上のケースバックは鏡面仕上げ(右下に映り込んでいるのは撮影しているiPhoneのレンズです)

目を奪われるのは、ブリッジに施された美しいストライプ仕上げ。コート・ド・ジュネーブを彷彿とさせる、すっきりとした波目模様が規則正しく並び、光の角度によって表情を変えていきます。この仕上げの美しさは、価格帯を超えた質感です。

奥に見える地板には、繊細なスクリュウ仕上げが施され、幾何学的な美しさを際立たせています。そして、歯車を見せる三日月型の窓や、青く輝くシリコン製がんぎ車とともに、時計の鼓動を視覚的に楽しむことができる──この透明性こそが、機械式時計の本質的な魅力であり、保有する喜びにつながるのです。

左下に見えているのが調速機構のテンプ。その上のブルーのパーツがシリコン製のガンギ車

残念ながら、今回の試用機は針止めモデルだったため、巻き上げ時の感触を確かめることはできませんでした。しかし、リューズのフォルムを見れば、その感触は想像に難くありません。クラシカルな大振りの玉ねぎ型リューズは、指先へのフィット感が素晴らしい。毎朝、このリューズを回してゼンマイを巻き上げる儀式──それは、手巻き式時計オーナーのための特別なひと時となるでしょう。

逆三角形フォルムのリューズは、巻き上げ時の操作を高めるため。リューズトップにはオリエントスターのロゴが刻印されています
着脱が容易なディプロイメント式バックルを装備。バックル左右のプッシュピースでロック解除を行う仕様です

ストラップにも、使い手への配慮が行き届いています。Dバックルが標準装備されているため、着脱はとても容易。両サイドのつまみを操作するだけで開閉できる設計は、日常使いにおいて計り知れないアドバンテージとなります。

そしてレザーストラップは、品性の良さを雄弁に物語ります。本ワニ皮革の質感は、ドレスウォッチとしての格調を確実に保ちながらも、嫌味のない上品さを演出します。艶あり黒という直球のカラーチョイスも、汎用性の高さを考えた実に賢明な判断です。

まとめ

そろそろ、記事をまとめていきます。ここ最近の時計トレンドはスポーティモデルに偏っている感があります。それをぐっと引き戻してくれるような力強さを私はこの時計に感じました。50万円を切るちょうどいい価格設定もそう。これなら多忙な日々で連日使いまわしても、頼れる相棒になるでしょう。エレベーターの壁にうっかりコツっとぶつけてしまった、満員電車で少し何かモノが当たっている……そんな日常の出来事に囚われすぎず、目の前のタスクに集中していける、そんな真っ当なビジネスパーソンの左腕に、この時計は最も映える! そう断言いたします。

オリエントスター「M45 F8 Mechanical Moon Phase Hand Winding」 Ref.RK-BW0001S、手巻き(Cal.F8A62)、パワーリザーブ70時間以上、ステンレススチール(SUS316L)ケース(径39.5mm、厚さ11.9mm)、シースルーバック、本ワニ皮革ストラップ、3気圧防水、41万8000円