「ローザ ドルチェ&ガッバーナ」のロゼ色が夕空とシンクロする。ホテル「Rakalia Pure Living」のルーフトップで、アペリティーヴォで

シチリアのワイナリー「ドンナフガータ」のプレストリップに2024年に続いて2025年も参加する機会を得た。前回は、パンテッレリア島とエトナ、マルサラが主な訪問地であったが、今回は、生産拠点ともいえるコンテッサ・エンテッリーナとマルサラを中心に、シチリアの歴史やドンナフガータの文化的背景にまつわるスポットを巡る旅となった。 

左から、夫のジャコモ・ラッロと共にワイナリーを立ち上げたガブリエラ、娘のジョゼ、ガブリエラ・ファヴァーラ。ロゼ(ロザート)に合わせたスタイリングが素敵

文化、芸術とともに。ドンナフガータの精神性

画家、ステファノ・ヴィターレによるラベルデザイン、ドルチェ&ガッバーナなどファッションブランドとのコラボレーション、「ドンナフガータ」はシチリアを代表するワイナリーとして、ワインのクオリティはもちろん、アートやファッション、文学といったカルチャーと深い関係を持つことでも知られているワイナリーだ。もとより、「ドンナフガータ」という名前もいくつかのワイン(タンクレディ、セダラ等)の名も、イタリア文学の最高峰のひとつに数えられる『山猫』に由来する。文化芸術と共にというあり方が、ブランドを創り、愛好家の憧憬をよりいっそうかきたてる一要因になっているのは間違いない。

2018年、ミラノの博物館で原画を含めエチケットの数々を紹介した「ドンナフガータの世界を追いかけて展(Inseguendo Donnafugata)」が開催された

2024年のツアーはぶどう栽培から始まるワイン造りの方法論に大きくフォーカスした内容だったが、今回は、ドンナフガータの精神性や文化的背景を知るスポットの訪問やセミナーに少なくない時間が割かれた。

シチリアの歴史と再創造 セジェスタとクレット・ディ・ブッリ

とりわけ印象に残ったのは、マルサラ近郊のホテルを拠点に訪れた二つの場所だ。

一つめは、セジェスタという古代ギリシャ時代の都市遺構。

現在は「セジェスタ考古学公園」となっているセジェスタの都市遺構。写真は劇場跡。観客席から海が見える設計

シチリアの古代都市遺構といえばユネスコの世界遺産にも指定されているシラクーサがメジャーで、セジェスタの存在はこれまで知らなかった。セジェスタは我々が滞在したマルサラや州都パレルモから車で約1時間の場所にあり、6ユーロの入場料で誰でも見学することができる。未完成のまま古代の暮らしを今に伝える紀元前5世紀に建てられたドリス(ドーリア)式神殿が圧倒的な美しさと存在感だ。

未完のまま遺されたドリス式神殿。朝早くから一般公開されていて、音楽イベントや結婚式にも使われている

注目すべきはこの「セジェスタ考古学公園」での未来に向けた取り組み。近年の研究調査で、この地で人種、宗教が異なる人々の複雑な共同体の存在を物語る建造物や文脈が新たに発見されたのだという。多様性を受け入れ共存する寛容は今の時代にこそ必要と、遺産の中に対話と相互尊重の基盤を見出す平和公園として活用していくのだそうだ。

そしてドンナフガータは、その考えに同調するだけでなく、セジェスタ考古学公園と別の形でも歩みを共にしている。ドンナフガータ発祥の地であるコンテッサ・エンテッリーナでの考古学調査で、古代の木製織機の遺構が発見されたことを受け、セジェスタ考古学公園、ピサ大学と協力し、コンテッサ・エンテッリーナに博物館を建設中で、それが2026年に開設される予定なのだ。 

セジェスタでのピクニックランチの際、シンガーとしても活躍した経験を持つジョゼの歌が披露された

二つめは、「クレット・ディ・ブッリ」。1968年に起きたべリーチェ地震という巨大地震で壊滅的な被害を受けた町・ジベッリーナに、芸術家アルベルト・ブッリが創り上げた震災遺構としてのランドアートだ。廃墟になった町にコンクリートを流し、かつての街の通りを再現している。高い石の壁の間を走る迷路のような道を歩けば、往時の街の様子への想像をかきたてられ、生や人の営みのはかなさに思いを馳せることに。

高さ約1.6mの壁に囲まれた通路を歩く。左端に映る人でスケール感がわかる

外側から、少し離れて眺めてみると、石で覆われた一帯は周囲の自然の中にあって異質で、墓地を想起させるような重苦しい空気をまとっている。そんなことを考えていると、「苦境を忘れ去るのではなく、その中から美しさや新たな創造の可能性見出す精神は、ドンナフガータの哲学にも通じる」との説明が。苦い記憶を刻みつつも、再生に向かう人の強さや意思に寄り添うあり方、それを体現するワインを造ることを、ワイナリーとしての使命と課しているということだ。偶然にも「クレット・ディ・ブッリ」の建設開始はドンナフガータの創業年から1年後の1984年。シチリアの美をそれぞれの形で世界に発信するアートとワイン。その芽吹きが同じ時期であったことは興味深い。

「クレット・ディ・ブッリ」はファッションブランドのイメージ写真撮影にも使われている。ジベッリーナの町は、西に約20kmほど離れた場所で再建された