化学肥料や農薬を使わないで自然に育てたごま。それにただ圧力をかけて搾っただけ。そんなナチュラルなごま油を作っているのは、おそらく日本でもここくらい。地元とともに上質な油を搾っているKIRISHIMA OIL(金﨑製油)の金﨑 洋幸さんの生き方は、なんだかうらやましいものだった……
KIRISHIMA OIL(金﨑製油) 金﨑洋幸さん
普通のごま油と勘違いしてた!
ああ、しまった! もっと注意深く味わうべきだった!
とおもったときにはもう時すでに遅し。良質なバターのようなクセのないその油は、口内をさっぱりさせたあと、若干のごまの風味を余韻として残すばかりだった。
ごま油、と聞いていたからつい、炒りごまの風味のついたものとか、あるいは味の濃いオリーブオイルのような、わかりやすい風味のある油を想像していた。でも、KIRISHIMA OILの金﨑洋幸さんが作っている金ごまをただプレスしただけの油はそういうものではなかった。
圧力をかけて搾って、フィルターをかけただけの金﨑さんの金ごま油。透明度が高いのがいい金ごま油の証
おかわりをいただいて、その後、お土産にもらった金ごま油も試してみて、おもう。ピュアなこの油には若干の塩味がある。だから刺し身とかサラダとかパンとかにかけて、少し塩を加えると美味しい。素材そのものの味を楽しむタイプの食に、これほど合う油はなかなかない。
というか、ナチュラルに育った日本のごまをただ搾っただけのごま油、などというものはここ以外でおそらく作られていない。
金﨑さんの「食用金ごま油」
日本のごま事情
よく言われることだけれど、日本はごまの自給率が低い。国内の年間生産量は40トンから多くても90トン程度で、自給率で言うと0.1%程度なのだそうだ。
とはいえ、じゃあごまは栽培難易度の高い作物なのか? というとどうもそうとも言い切れない。栽培から収穫、脱穀、乾燥まで手間がかかり機械化が難しいから、という理由が語られがちだけれど、これもごま特有の苦労なのか? と言われると難しいところ。
おそらく本質的な問題は経済性だ。ごまは1ヘクタールあたりの収穫量が50kg程度。対して米なら300kgから500kgくらいはとれる。さらに現在の日本の産地として有名なのは喜界島で、そこから本州へごまを送るとなると、輸送コストもかかる。労働に対価が見合わないから、わざわざごまを栽培する理由がない、ということなのだとおもわれる。
つまり経済合理性があれば国産ごまは作られうるのだ。自給率が低いということはつまり需要はあるということ。生産から販売までが効率的にバランスがとれていれば、ごま産業は成り立ちうる。
それで、そのバランスがとれて、産業として成り立ちつつあるのが、このほど訪れた宮崎県の霧島山の付近だった。
ごま栽培の適地
ごまという植物は気温が15℃以上あれば5月、6月ごろに種をまいて2週間から20日程度で発芽して、あとはほとんど手がかからず、2カ月程度で1.5メートルから2メートル程度の高さになる草だ。白いかわいらしい花をつけ、実(サヤ)をつけ、この実の中に我々のよく知るゴマ粒である、ごまの種がびっしりつまっている。
サヤが弾け始めたら株ごと刈って、水に濡れない環境で1~2週間乾燥させ、脱穀(株を束ねて叩けばゴマ粒が落ちるようだ)して、ごまを得る。
水はあまり必要とせず、水はけの良い土壌を好み、気候は温かいほうがいい。土壌のpHは中性から弱酸性くらいがよいという。連作障害はあるとのことだけれど、ごまのシーズン以外に別の植物を育てれば回避しやすい……らしい。
これが金ごま。白ごま、黒ごまと比べてもさらに生産量が少ないという。色が金色っぽく、全重量の40%程度が油分と、油分が多いごま
金﨑さんは2年前に金ごまというごまのなかでも育てやすいごまの栽培を自園で始め、今年で3年目。6月から9月くらいまで金ごまを栽培している。畑はごまを収穫した後はイタリアンという牛のエサを植えて、肥育農家に管理してもらっているのだそうだ。化学肥料や農薬の類は使っておらず、牛の堆肥を入れて耕しているとのこと。その他の問題は、鳩がちょっと食べてしまうくらい、だそうだ。
取材時は2月だったため、何も育てていない金﨑さんの畑
もともと金﨑さんは地元である霧島山付近の観光のために花を植えようと考えており、その際にひまわりを育ててひまわり油を搾れば一石二鳥なのではないか?と考えて、油を抽出する機械を購入したのが、油を搾るようになったきっかけだという。そこから、アーモンド、白ごま、黒ごま、大豆、エゴマなどを搾っているなか、同じ宮崎県で40km弱南の三股町で「みまたんごま」というごまのブランドを展開している「しも農園」の代表・下石 正秋さんに出会い、宮崎のごまを買いたい、と申し出たところ、むしろごまは自分で作った方がいい、とすすめられて栽培を始めたという。
現在、金﨑さんが搾っているごまのなかには「みまたんごま」ブランドのごまもある
実際にやってみると特に金ごまの栽培は、上述のとおり、この霧島周辺の環境と相性がよかった。また、10数年前から「しも農園」の努力もあり、この地域全体がごまの産地化を目指し、ごま生産が広がっていた。国産のごまという希少性も手伝い、宮崎のごまは売上的にも好調だったようだ。
金﨑さんはそういう地域環境のなかで、金ごまの生産者のひとりになり、かつこの地域で唯一の、地域で育ったごまから、熱を加えたりすることもなく、そのまま油を搾る人にもなった。
つまり、ごまの産地化を進めるコミュニティのなかの、空いていたニッチに収まったとも言えそうだ。金﨑さんの存在が、この地域の勢いをさらに後押ししているのかもしれない。金﨑さんは2026年はこの地域のごま生産量は2トン程度になるのではないか、と言う。昨年の日本の総生産量が40トン程度だったそうだから、それは1/20のシェアであり、十分にインパクトのある産地だと言えるのではないだろうか。
金﨑さんがごまを搾る工程はシンプルで、金ごまを入れた袋に写真の装置で100トンの圧力をかけるだけ。一度搾り始めると油がどんどん出てくる。このときは3kgの金ごまから1.3kgほどの油が搾り出された
特別じゃないことの特別性
金﨑さんは、朝、ごまを搾ってそれをフィルターにかける。常温でのフィルタリングには6から8時間を要する。ごま油はそもそも酸化に強く、熱や水を加えなければ劣化はほぼしないので、放っておいても問題ない。
搾りたての油には空気が入っているほか、若干の雑味がある。これらを時間をかけて活性炭のフィルターで濾過することで取り除いて完成
金﨑さんはこの間「あんぱさんと」という同じ小林市にある自家焙煎コーヒーショップの店主として働いている。ごまは焙煎しないが、コーヒー豆の焙煎には一家言あるらしい。店を閉めると作業場に戻る。この頃には金ごま油のフィルタリングが終わっている。それを瓶詰めしながら、並行してプレスを開始。瓶詰めが終わる頃には、金ごま油が搾り終わっていて、これをまたフィルターにかけて家に帰る、というのがごまシーズンのライフサイクルだそうだ。
「こういう加熱も後処理もしない油の面白いところは畑や生産者の違いが素直に油に出るところ。うちの油は比べてみればちょっとずつ違う。それがいいんです」

薬品で抽出して後処理を加えたり効率化のために熱を加えたりする油は、均質ではあるものの、その工程で造り手の個性が消えてしまう。金﨑さんは土地と人の香りを油に残す。
そういう地域の特性を表現したものが受け入れられ、生活が成り立つのであれば、それは理想的な農業であり、もっと言えば、理想的な人の営みだ。
となると、本当にこれだけでやっていけるの? とついつい聞きたくなって、ちょっと深堀りしてみた。色々と事情があるから明確には言えないそうだけれど、その健康的な油はスポーツや美容の業界からも注目されていて、BtoBでの引き合いもあるのだそう。また、金﨑さんの品質基準に届かなかったごまの油も、石鹸に利用されたり、なんと、サステナブルな航空燃料(SAF)にも利用可能されるのだそうだ。油を搾ったあとのごまは養鶏場でえさになる。
金﨑さんは話し上手といった人ではないけれど、聞けば聞くほど、いくつもの合理的なサイクルのなかに身をおいていることが分かる。今後は、油を、銘木や筆に使うという企画もあるのだとか……
おそらく、そういうサイクルのなかに身を置く生き方が人として普通なのだ。だから、金﨑さんのごま油は、本来的な意味では、特別なものじゃない。普通が特別な世の中になっちゃったんだなぁと、おもうのだった。

宮崎県小林市細野5740-1378
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