ソウシオオツキのパリのショールームにて
日本人史上3人目のグランプリ
LVMHプライズを知っていますか? ルイ・ヴィトン社が年に1度、世界中の若手ファッションデザイナーのなかから選んだ3名に賞を与えるという大規模なコンテストです。
2025年の3名の受賞者のうち、プライズ(優秀賞)に選ばれたのがメンズデザイナー、大月壮士です。受賞者には40万ユーロ(約7000万円)と1年間のメンターシップが与えられます。審査員の一人、JW アンダーソン(当時はロエベ、現在はディオールのクリエイティブ・ディレクター)は「現代のアルマーニが登場した」と評しました。
今年1月にはフィレンツェで行われているピッティ・イマージネ・ウオモ(大規模なメンズ展示会)で招待デザイナーとしてコレクションを発表。その後すぐに開いたパリのショールームを訪ねてデザイナー・大月壮士に話を聞きました。
大月壮士(おおつき そうし)1990年千葉県生まれ。2011年文化服装学院メンズウェア学科卒業 。在学中から「ここのがっこう」にも在籍。2015年メンズ ウェアレーベル「SOSHI OTSUKI」(ソウシ オオツキ)を立ち上げる。2016年、LVMHプライズ2016に日本人最年少でセミファイナリストにノミネートされる。2025年、LVMHプライズ受賞。2026年ピッティでランウエイを発表
まずはアトリエを借りたい
——海外での初めてのランウェイはいかがでしたか?
大月壮士氏(以下、敬称略) ミラノでフィッティングから構成まで考えてフィレンツェで発表しました。インターナショナルなチームでの作業は刺激的でした。

——LVMHプライズの賞金は今後のコレクション発表に使うのですか?
大月 いえ、まずアトリエを借ります。今まで、実家の自分の部屋で一人で服を作っていたんです。服作りの拠点を構えるつもりです。
——デザイナーになりたいと思ったのはいつ頃からですか?
大月 高校生の頃、エディ・スリマンのディオールのメンズコレクションを見て感激したんです。その頃からデザイナーになってメンズウエアの歴史に自分の名を残したいと思うようになり文化服装学院のメンズ学科に入学しました。

大月壮士がやりたいこと
——服を作るときに一番大切にしていることは何ですか。
大月 特にコンセプトです。誰のためにどういう服を仕上げるか。もちろん、生地やパターンも大切ですがそれはコンセプトのための手段と思っています。ディテールよりもコンセプト。デザインよりもスタイルです。
——大月さんのブランドコンセプトはエディ・スリマンに衝撃を受けた頃から、ずっと変わらないものですか?
大月 いえ、その後、ヨウジ・ヤマモトの服と出会うんです。 サビル・ロー(メンズ・ビスポークテーラーリングの聖地でありその技術)に根付いたヨーロッパの立体裁断と違い、キモノのようでもありボディに寄り添うテーラーリングにドキッとしました。
——メンズではストリートファッションやスポーツテイストのブランドやアイテムが登場しています。コロナも経験し、スーツの需要が減りリモートワークなども日常になってきていますが、そんな中で大月さんがテーラーリングにこだわる理由は?
大月 男性のテーラーリングは永遠に不滅だと思っています。 日本のサラリーマンスーツから発信したいんです。

——確かに、日本でのサラリーマンのスーツ需要は確実にあるのに記号化していて、おしやれに着こなしている人たちは少ないかもしれませんね。色もダークな紺とかが定番ですが、大月さんのコレクションは中間色が多く、そんなニュアンスカラーもアルマーニと通じるものがありますね。ところで大月さんの好きな色は?
大月 今はグレイ、ブラウニッシュグレイが一番好きです。織や生地の組織によって微妙に色が変わるのでグレイのバリエーションを楽しんでいます。
——生地は日本のものが多いのですか?
大月 殆どが日本製ですが、気に入ったものであればインポート生地も使っています。

精神的な機能性
ソウシ オオツキの26-27秋冬コレクションのテーマは「IN FLORENCE」。80年代に流行したイタリアン・テーラーリングを再解釈し進化させました。ラグランパッドによるなだらかな肩のテーラーリングに緩やかなシルエットのパンツを合わせていますが、ピークドラペルの襟先をプレスでくるんとカールさせたり、シンプルな中に遊び心が潜みます。シャツの見返しが飛び出てスカーフのように見えるディテールやパンツのローウエストの位置に何本もついたベルト通しなど、機能性が装飾に変化しています。スーツの上から羽織るレザーブルゾンやトレンチコートもエレガントです。今シーズン初めて「PROLETA RE ART(プロレタ リ アート)」とのコラボにより刺子の技術を取り入れた生地は美しく、遠目で見るとフレスコ画のようです。

——美しいシルエットの中に機能性を取り入れていますね。
大月 はい、『精神的な機能性』を心掛けています。それがエレガントにつながると思っています。
——今回イメージした男性像は?
大月 気負いのない男性です。2025年SSのコレクションで自分の中でリブランドし、今の方向性に進んできました。そのコレクションがきっかけでLVMH プライズを受賞できたことは自信と確信につながりました。

——今、服以外にデザインしたいものはありますか?
大月 靴です。今回ランウェイのスタイリングを組むのに靴がなくて困りました。 トラッドシューズのブランドとコラボしたいです!
——次のランウェイはパリでしょうか。
大月 はい、ショーはパリデビューしたいです。その前に、東京のアトリエとスタッフを充実させます。
インタビューを終えて
LVMHプライズを受賞しても舞い上がることなく、多額の賞金を得てもアトリエを確保したいと堅実な考えの持ち主。作品は一見ベーシックだが、見れば見るほど味わい深さを感じる。まるでデザイナー自身のようだ。2025年のファイナリストにはコスチュームのように華やかなドレスも存在したがSOSHIOTSUKIのテーラーリングが選ばれたことはコンテストの信頼性も感じた。
起業して2シーズン以上40歳以下のデザイナーに参加資格があるコンテスト。毎年世界中から2000人以上の応募がある。ジャーナリストやバイヤーにより20名が選出され、毎年3月のパリコレクション時期に、ルイ・ヴィトンの本社でそのデザイナーと作品が披露される。7月頃8名のファイナリストが選ばれ8月末にプライズが決まる。今年で13回目の開催。
