世界を席巻したミラノモーダの3G

 ジョルジオ・アルマーニがミラノでブランドを立ち上げ今年で50周年を迎えました。スタートは1975年のことです。

 1980年代にはミラノモーダの3Gと呼ばれた『ジョルジオ・アルマーニ』『ジャンニ・ヴェルサーチ』『ジャンフランコ・フェレ』がイタリアコレクションを牽引していました。残念ながら、ヴルサーチは1997年に暗殺され、フェレは2007 年に脳内出血で死去。アルマーニが唯一本人のクリエーションを続けていましたが2025年9月4日、91歳で逝去しました。
 
 アルマーニがミラノコレクション以外、パリでオートクチュールコレクションに参加していたのはご存知ですか?『ジョルジオ アルマーニ プリヴェ』というブランド名で発表し今年20周年を迎え、7月8日パリでの2025 秋冬『プリヴェ』のショーが彼自身による最後のショーとなりました。

ジョルジオ アルマーニ コレクションプリヴェ 2025 秋冬(Photo Credit:SGP)

アルマーニ最後のショー

 ショー会場はアベニューモンテーニュに程近い「パラッツォ アルマーニ」です。リノベーションを経て2024年からアルマーニの世界の拠点としてクチュールサロンとなった館です。本来のクチュールショーらしく目の前でルックを見ることができます。クチュールのショーは顧客とジャーナリストのみ招待されますが、クチュール=注文服なのでオーダーする顧客のためのサロンショーなのです。
 
 18時30分スタートのショーが始める前に、1階のパティオでシャンパンをいただきながら歓談。ゆったりした気分でショー会場に進みました。

 アルマーニはデビュー当時から丸みを帯びた肩パットのジャケットにパンツを組み合わせ、女性らしいボディを優しく包むマスキュランスタイルが人気でした。そのスタイルは時代とともに変化しながら進化しています。

 ファーストルックはロイヤルブルーのミニマルなジャケットにベルベットのジョッパーズパンツです。

 シニョンの髪に小さなベレータイプのハットを乗せ、凛としていてエレガントなスタイルです。トップスには刺しゅうやレースなどゴージャスで繊細な生地を使い、全て黒のパンツを合わせています。最近のアルマーニコレクションは同素材のスーツは少なく異素材で組み合わせた着こなしが主流です。

 後半は、ノーカラーに構築的なペプラムをつけたジャケットにサテンのパンツの組み合わせなどモダンなイブニングラインを打ち出しました。

 テーラードからミニマムなボレロまでのジャケットのバリエーションは圧巻です。大きく胸を開けた黒のロングドレスも登場しましたが、肌を大胆に見せるカッティングのドレスも官能的というより品の良いエレガンスを感じるのがアルマーニスタイルです。
 
 黒をベースにシルバーとゴールドをアクセントにした78体の作品に魅せられました。

 ショーを見終わって感じたことは一人のデザイナーがクリエーションを続けていくことの偉大さと意義でした。ブランドのヘリテージやイメージのために守るべき自分らしさ。そして以前のデザインを超えるために進化させてゆく自分への挑戦。その2つのバランスを維持しながら発表してゆくコレクションには揺さぶられます。

アルマーニのクリエイションを体験するチャンスが来ている

 初めてミラノでアルマーニのコレクションを観たのは1987年2月。まだ小さなショールームでのランウェイで、87秋冬のコレクションでした。アルマーニ特有のグレージュ(グレーとべージュを掛け合わせたような色)のスーツの美しさにため息が出ました。モデルは媚びるでもなく透明度を感じさせるすんとしたスタイルのキャットウォーク。その世界観はミラノのどのメゾンとも違った空気に包まれていました。「フォカマイユ」(同系色のクラデーションで構成する配色)の美しさを実感したのもその時です。

 ミラノの「アルマーニ / テアトロ」(ショー会場のある本社)は2001年、安藤忠雄氏のデザインで建てられ、2015年には「アルマーニ / シーロス」というアルマーニが運営する美術館がオープンしました。

Armani Silos - Entrance 3(Photo Credit:Davide Lovatti)

 今年5月からアルマーニ / シーロスではジョルジオ アルマーニ プリヴェ20周年の軌跡を辿るアーカイブ作品約150点が展示されています。この展覧会は年末まで一般公開される予定です。(詳細はarmanisilos.com)

2013年秋冬、「ヌードカラー」をテーマにしたアルマーニプリヴェの作品。ボディに溶け入るような透明感をビーズ刺しゅうで表現している
2015年春夏「竹」をテーマにしたアルマーニプリヴェの作品。アジアンテイストをモチーフにしたコレクション

 アルマーニの世界はホテル、レストラン、カーサ(家具)と広がりファッションとライフスタイルのデザイン・ハウスの会長兼CEOをジョルジオ・アルマーニ自身が務めていました。

 この8月には ブランドのヘリテージを共有するデジタルプラットフォーム「Armani/Archivio」を立ち上げました。ここにはウイメンズ・メンズの数千体ものlookが収められており記録というより、いわばアルマーニブランドの「概念の辞書」と位置付けられています。まずは厳選された57体が公開されています。(archivio.armani.comでアクセス可能)

 9月24日からはミラノのブレラ美術館で150体のアーカイブが芸術作品とともに展示され、28日にはブレラ美術館の中庭で26春夏のコレクションを開催する予定です。「クリエイティブな作業は、私が存在する理由だからです」とジョルジオ・アルマーニは生前の言葉として残しました。まさに人生最後までクリエーションし続けたデザイナー。大きな存在でした。