ランチもテイスティングもすべて畑の前の気持ちがよい庭園で。「スモール・ヴァインズ」にて
カリフォルニアワインの一大産地、ソノマ・カウンティで毎年開催される「ソノマ・サミット」に参加した。世界でも類を見ない独特の冷涼気候から生み出されるソノマワインの基本を紹介した前編に続き、後編では現在、ソノマ・カウンティで注目を集める造り手を紹介。さらにソノマのグルメ情報も。
ソノマと日本の間には長い歴史がある
ソノマ・カウンティ滞在中に数多くのワイナリーを訪問した。畑や醸造施設を案内してもらいテイスティングを共にする、ランチやディナーのテーブルを囲みながら複数のワインを味わい、造りについて話を聞く。記者としても一愛好家としてもこのうえなき贅沢な時間だ。その中で強く印象に残ったのは、彼らの日本への関心の高さだ。日本は、カリフォルニアワインの重要な輸出市場であり、加えて世界的な和食や日本旅行のブームも追い風になっているよう。「京都の〇〇という日本料理店が最高だったよ」「来年こそ初めての日本に行きたいんだ」「うちのワインは和食に合うと思う」など、行く先々で声をかけられた。
時代を遡れば、幕末の藩士・長澤鼎がサンタ・ローザの近郊にワイナリーを設立し、カリフォルニアワインの発展に寄与したことから「カリフォルニアのワイン王」と呼ばれた歴史があり、ソノマ・カウンティと日本との間には深いつながりがある。訪問先には、日本出身のワインメーカー、フリーマン・アキコが率いる「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」も含まれていた。言うまでもなく、日本人として抱く親しみを抜きにして、現在のソノマ・カウンティとカリフォルニアを代表する生産者である。ワイナリー紹介はここから始めたい。
「フリーマン」のワイナリーと夫妻の自宅に隣接する急勾配の畑。夏でもエアコンが不要なのだそう
カリフォルニア唯一の日本人女性オーナー醸造家 アキコ・フリーマン
「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」は2015年4月、バラク・オバマ大統領時代のホワイトハウス公式晩餐会に「涼風 シャルドネ2013」が供されたエピソードで有名。設立は2001年、ワインの時間軸でいえば歴史は「始まったばかり」だが、瞬く間にカリフォルニアワインの頂点に上り詰めた。ケン・フリーマンと妻のアキコ、ともにワイン造りの経験はゼロからのスタートだったが、極上のブルゴーニュスタイルへの熱い想いが、妥協のない畑選びへとつながりロシアン・リヴァー・ヴァレーの地へ導かれた。
畑でシャルドネのテイスティング
かつてりんご畑だった土地にぶどうを植えたのは2007年で、それまでの慣行農法から有機栽培への切り替えは当初、困難を極めたという。土壌改良のためにソラマメやクローバーなどさまざまな被覆作物の栽培を試みたというが、決定打となったのが大根。日本の農業からの着想だった。有機農法への移行、樽での発酵、無濾過での瓶詰など、過度な介入を避けたワイン造りを徹底。自然酵母で発酵させるエステートワインを中心に、可能な限り市販酵母の使用を減らし、畑の個性を最大限に引き出している。
アキコ氏。セラーでのテイスティングには貴重なユーキ・ヴィンヤードのロゼスパークリングも登場
ソノマ・カウンティの次代を拓くスター生産者
「オクシデンタル」と聞けば、カリフォルニアのブルゴーニュスタイルワインの先駆けである“シャルドネ王”「キスラー・ヴィンヤード」が、ピノ・ノワールのために開いたワイナリーを思い出す人は多いだろうが、このワイナリーのそばにはオクシデンタルという町がある。「センシーズ」の共同創業者であるクリストファー・ストライター、マックス・ティエリオ、マイルス・ローレンス⁼ブリックスの3人は、このオクシデンタルの町の近郊で育った幼馴染。「故郷のテロワールを表現するワイン」を標榜し、2011年、わずか100ケースのガレージワイナリーとして産声を上げた。
クリストファー・ストライター氏。数々の有名ワイナリーで豊かな経験を重ね、現在は「センシーズ」を率いる
グリーン・ヴァレー、ロシアン・リヴァー・ヴァレー、そしてウエスト・ソノマ・コーストが交わるオクシデンタルは、太平洋にほど近く、東西に走る尾根から冷気と霧が流れ込む気候が特徴的。ナパヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンで名高い醸造家、トーマス・リヴァース・ブラウンとのパートナーシップが実現したのも、トーマスがこのオクシデンタル地方ならではの環境に情熱を燃え上がらせた結果だ。事実、「カリフォルニアの太陽と酸味」と表現される「センシーズ」のスタイルは、ブルゴーニュの模倣ではなく、この地域のテロワールを尊重したもの。醸造上の意思決定は、数値分析からより官能重視へ。「感覚」を寄る辺とするあり方が、「センシーズ」の名を体現している。
9月に猛烈な暑さを記録した2022年ヴィンテージの水平試飲。収量は減ったというが、どのキュヴェも暑さを感じさせぬ味わい
