ウブロのプレスリリースにしばしば名前の挙がるマティアス・ビュッテさんはウブロのR&D部門の責任者。時計師とか技術者とかいった表現ではなくR&D。はたして、それはどんな仕事で、この人物は何者なのか? 来日したマティアス・ビュッテさんをJBpressオートグラフ編集長、鈴木文彦がインタビューした。
マティアス・ビュッテ(Mathias BUTTET)ウブロ 研究開発ディレクター。1964年7月27日 スイス・ローザンヌ生まれ。マイクロテクノロジー工学(Engineer in Microtechnology)を学び、1987年から1994年までヌーベル・レマニア( ジュウ渓谷)にてエンジニア部門マネージャー。1994年から1999年まではヴァシュロン・コンスタンタン(ジュウ渓谷)の 研究開発マネージャー。2000年から2004年まではフランク ミュラー(ジュネーブ、ジャントゥ)の 研究開発マネージャーと要職を歴任し、2004年、BNBコンセプトの創業者およびCEOを務める。2010年から現職
宇宙、パリ、ウブロ
──インタビューした!と、リードで言ってしまいましたが、ビュッテさん、先ほどもインタビュー受けていましたし、お昼には軽いランチをしながらのマジックゴールドなど、ウブロが開発した素材についてのプレゼンテーションをされていましたよね。聞けば香港やシンガポールを巡って今日、日本。明日にはスイスに戻るとか……
心配しないでください。私は疲れないタイプなので。

残念なのは今回、大好きな日本での自由時間がないことですね。今度また、家族とプライベートで来ることにします。
── 時計、両腕にしているんですね。
ええ。こちら(ビッグ・バン 20th アニバーサリー レッドマジック)は仕事用と言ったらいいでしょうか。もう一方は完全に自分用の時計です。興味ありますか? はい、どうぞ。

──あ、軽い! つい反射で手にとってしまいましたがトゥールビヨンですね。そしてそれだけでない特別な雰囲気を感じます……
ステンドグラスみたいで、なんだかパリのおしゃれなレストランのような気分になりませんか? 裏には私の好きな数字がシリアル番号風に入っています。実際には売っていませんが。なにせこれは私がエザとのプログラムのなかでつくった、世界に一つしかない時計なんです。
──えざ?

European Space Agency、略してESA。
──ああ! 日本で言うところのイーサ(欧州宇宙機関)ですね。
ESAは火星探査をしていますよね? ただ、そのアプローチはNASAとは違っていて、地表ではなく地中に注目しています。火星に生命の痕跡を探そうとしているのですが、火星の地表は宇宙線に焼かれてしまうし環境が激変しますから、そこからかつての火星の環境を知るのは難しいとESAは考えているんです。そこで、2m地中を掘って、そのレゴリスを探ることで35億年前の火星の姿を知れるんじゃないかと……
──お話の途中に割り込んで恐縮ですがビュッテさん、それとビュッテさんとの間にはどんなご関係が?
調査モジュールの姿勢制御用の装置に関わっているんですよ。これには電子的な知識・技術と機械的な知識・技術の両方が必要だからです。

──ええ!?
そのプロジェクトのなかで出合ったのが、このステンドグラスのような特殊なガラスです。これは偏光フィルターのようなもので、正確な赤、正確な青といった色をしています。これで光の波長を正確に分解して、望遠鏡やカメラが捉えた光から遠くの星にある酸素やメタンといった大気の成分を知るんです。
──なんて夢のある素材!
そうおもうでしょう? 私もなんてステキなガラスなんだ!と感激して、このガラスの一部をもらってアールデコのステンドグラスみたいにしたのがこの時計です。
──ウブロのR&Dとはどんな仕事なのか、とうかがおうとしていたのですが、いきなり度肝を抜かれました。
ウブロではいま、マテリアル関係の話題が多いですよね。でも、マテリアル以外の研究開発をやっていない、ということではないんです。私はウブロに入ってから15年。その前の6年は「BNBコンセプト」にいて、ウブロのための仕事もしていましたから、足すと20年以上になります。それだけの年月があれば、トゥールビヨン、ミニッツリピーター……「MP-05 ラ・フェラーリ」や「メカ-10」のような時計も手掛けています。もう、腕時計のムーブメント関係でやったことがないものはない、と言っても過言ではない状態なんです。でも、時計のマテリアルはまだまだ追求できる。皆さんへの発表でマテリアル関係の話題が多いのはそんな事情です。
