スマホ時代のラグジュアリーウォッチ

さっき宇宙の話をしましたが、考古学の話もあるんでした。「アンティキティラ島の機械」って知っていますか?

──え? ええと……あ! インディ・ジョーンズに出てきた?

ああ、まぁそうですね。ただ、これは都市伝説みたいな話じゃなくて実在します。沈没船から発見されて、私は2012年にこの機械を再解釈したムーブメントを発表しています。そして2014年からウブロは、このアンティキティラ島の機械が見つかった沈没船の発掘にジュネーブ大学とともに協力しています。

毎年、22人のチームが拠点となる野生の羊くらいしかいない島に2週間滞在して発掘を行うんです。そこでは海中用のドローンが使われたりしていて、調査や発掘作業もすごくエキサイティングなのですが、これまで注目すべき2つの謎めいた道具といくつかの彫像が発見、回収されています。

──謎めいた? 夢がありますね。アンティキティラ島の機械もオーパーツと言われていますよね。

ワクワクしますよ! 10年の活動の結果、かなりの発掘と調査ができて、今後、この調査の際に撮影された映像をまとめて公開する予定です。期待してください。

──ということは、ビュッテさんは宇宙から深海まで仕事の領域なんですね。

宇宙というすごく高いところと、深海というすごく低いところの間に、ウブロの今の時計がある。あるいはウブロの時計は、遠い過去と未来の間にある。

マテリアルは宇宙にだってあるし、機械は深海にもあります。時計はあらゆるものと関わることができます。ウブロの時計にはそれがつまっている。だって時間を知りたいのならスマホでいいでしょう? こういう時代に時計をする意味は、エモーションであり、人の歴史であり、冒険です。

──ではこれを最後の質問にします。ウブロはラグジュアリーブランドですよね。ビュッテさんによれば、ラグジュアリーとはなんですか?

時計の話で言うなら、あなたを物語る時計をすること。あなたの個性にぴったりの時計が見つかったのなら値段なんて関係ない。逆に言えば、そうではない時計なんて、興味ありません。「3000万円の時計なんです」と自慢されても「へぇ」ってなるだけ。その人が自分の時計に、どれだけ自分のおもいを投影できているか。それが価値だと私はおもいます。

たくさんの自己投影があって、だから、私はこの時計をしているんだって、そんな風に言える時計が見つかったのなら、それはとても贅沢な人生です。

そして、究極のラグジュアリーとは何か? と問うなら、私はそれに明確な答えがある。家族や愛するすべての人が健康で幸せであること。どんなに色々なものを持っていても、どんなにお金があっても、死んだ人は生き返らないし、健康も幸せも手に入らない。

だから……世界のみんなを幸せにする仕事ができたら、私は世界で一番、豊かな人間っていうことなんだとおもっています。