文・写真=三村 大介
青山製図専門学校1号館 写真提供/青山製図専門学校
「異端」「抵抗」が「主流」や「常識」へ
文化史を振り返ると、かつて「異端」や「抵抗」として既存の価値観に反旗を翻したものが、時の洗礼を経て新しい「主流」や「常識」へと変貌を遂げた事例は枚挙にいとまがない。
例えば芸術。
19世紀後半、当時のフランスにおけるアカデミックな絵画を否定するかたちで登場したのが『印象派』だ。輪郭を曖昧にし、筆跡を残しながら光の揺らぎを捉えようとした彼らの独特の描き方は、サロンでは「未完成」「雑で下手」と酷評され、批評家からは「書きかけの壁紙のようだ」とまで言われた。しかし今や、モネやルノワールの作品は美術館の顔であり、世界で最も愛される絵画ジャンルのひとつとなっている。
クロード・モネ《日の出・印象》1872年 マルモッタン・モネ美術館、パリ
また、カンディンスキーやモンドリアンらが「具象でなければ芸術ではない」という固定概念を覆し、色や形そのものの自律性を確立した『抽象絵画』や、キース・ヘリングやバスキア、バンクシーによって、かつては治安悪化の象徴として忌み嫌われたストリートの落書きをアートへと昇華させた『グラフィティ』は、当初は強い拒絶反応にさらされたが、今では多くの人々がそれらの作品に感銘を受け、オークションでは天文学的な金額で取引される「至宝」として扱われている。
ピート・モンドリアン《ブロードウェイ・ブギウギ》1942-43年 ニューヨーク近代美術館
キース・ヘリング《トドス ジュントス ポデモス パラル エル SIDA》1989年 スペイン、バルセロナ ESM, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
他にも音楽。
1970年代、閉塞した社会と肥大化した音楽産業への反発として登場したパンクは、「楽器が弾けなくてもいい」「コードは3つで十分だ」という姿勢を掲げ、反抗と抵抗の象徴となった。その剥き出しの衝動を突きつけた彼らのスタイルは、現在、音楽の枠を超え、ファッションや文学にまで影響を与えるひとつの美学として定着している。
セックス・ピストルズ
また、楽器を持たない若者がターンテーブルを楽器としてレコードを擦ることから始まった『ヒップホップ』は、今や世界最大の音楽的メインストリームとなり、20世紀初頭、整然たる楽譜へのアンチテーゼとして即興性を武器に誕生した『ジャズ』は、あらゆるポピュラー音楽の源流として敬意を払われている。
エミネム ミカ写真, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
ジャズのオーケストラ「ジャズ・メッセンジャーズ」プルゴンヴァン公演 ローランド・ゴドフロイ, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
このような「反抗」や「価値の反転」のダイナミズムは、もちろん建築の世界においても例外ではなく、現代の私たちにとって、その最も身近な事例が『ポストモダニズム』である。
