クルマはタイヤがなくては走らず、タイヤはクルマがなくては走らない
クルマには必ずタイヤがついている
先日、ブリヂストンの新製品「アレンザ LX200」の試乗会に参加してきた。
読者のなかには「タイヤの試乗会なんかあるのか?」と驚かれた方がいるかもしれないが、そう、タイヤの試乗会は意外にも頻繁に行われている。とりわけ12月から1月あたりにかけては北海道のテストコースなどで冬用のスタッドレスタイヤを試すイベントが数多く開催されていて、同業の知人のなかにはときには1週間以上も「北の大地」に滞在することがあるようだ。
クルマのキャラクターを語るうえでも、安全性を語るうえでも、タイヤは実に重要な製品なので、私もクルマに試乗する際には、まずタイヤの銘柄とサイズをチェックするクセがついている。この経験を繰り返していると、タイヤの銘柄ごとの味わいみたいなものが少しずつ見えてきたりもするのだが、それはそのタイヤを装着しているクルマの影響も少なからず受けるので、どこまでがタイヤのキャラクターで、どこからがクルマのキャラクターなのかという「切り分け」が難しかったりもする。
同じことはタイヤについてもあてはまって、たとえばタイヤの試乗会で「はい、これが新製品のタイヤです。今回はXX社のAというクルマに装着してきたので、思う存分、味わってきてください」といわれても、“A”というクルマに関する理解が相当深くない限り、「ああ、このタイヤはこういう性格なんだ」と短時間ですべてを把握するのは容易ではない。ここに、タイヤ試乗会の難しさがある。
けれども「アレンザ LX200」の試乗会は、タイヤそのものの性格をうまく浮き彫りにする工夫が施されていて、なかなか興味深かった。

ブリヂストン アレンザ LX200とは?
そんな試乗会の様子をリポートするよりも前に、まずはアレンザ LX200がどんな位置づけのタイヤなのかについてご紹介しよう。
「アレンザ・シリーズ」はプレミアムSUV向けのタイヤで、すでに001とLX100が発売済み。001とLX100では微妙にキャラクターが異なっているけれど、ハンドリングを始めとする基本性能を抑えながら、静粛性や乗り心地に代表される快適性を重視した点に特徴がある。その意味でいえば、サーキット走行での性能を追求したスポーツタイヤとも、荒れ地での走破性を重視したオフロードタイヤとも異なり、舗装路での上質な走りを求めるタイヤといえるだろう。
今回登場したアレンザ LX200は、従来型であるアレンザ LX100の進化版という位置づけ。そのLX100は静粛性や乗り心地に特化したモデルだったので、こういった領域でアレンザ LX200がどう進化したのかを確認するのが、本試乗会でのメインテーマとなった。

新旧の差は分かるのか? レクサスNX350hとハリアーで試す
最初に試したのは、特設会場内でのスラロームや段差乗り越えなど。これをアレンザ LX200とアレンザ LX100で比較試乗し、その感触を掴むというものである。車両はレクサスNX350hとトヨタ・ハリアー。まずはアレンザ LX100を履かせたレクサスNX350hに試乗し、続いてアレンザ LX200を履かせた別のレクサスNX350hに試乗。さらに、これと同じことをハリアでも行った。なお、グレードや車両のコンディションはまったく同じという前提で試乗した。

率直にいって、レクサスNXでもハリアーでも、新旧アレンザに対する個別の印象は基本的に変わらなかった。まず、アレンザ LX100だけに乗って「乗り心地が悪い」「ハンドリングが不満」「ノイズがうるさい」と感じる人は、稀だろう。それでも、同じクルマでアレンザ LX200に「乗り換える」と、微妙に感触が異なっているのだから面白い。

まず、段差の乗り越えでは、タイヤが段差に当たったときのガツン!という衝撃が和らいで、トンッ!と軽く走り抜けていくような感触が味わえた。
それとともに感心したのが「振動の収まりのよさ」にあった。モノに強い衝撃が加われば、そのあとに振動が残るのは当然のこと。それは、たとえば音叉を叩いたあとに「ポーン」と音が長く響き続けることからも理解できる。
同じことはタイヤについてもいえて、「ガツンッ!」という衝撃がくわわると、ほんのわずかな時間だけれど、それが振動となって尾を引くことが少なくない。アレンザ LX100がまさにそうだったのだけれど、アレンザ LX200ではこれがきれいさっぱり消えていて、スッキリとした余韻というか、とても質感の高い乗り心地に思われたのだ。

もうひとつ、ハンドリングにも微妙な違いが認められた。クルマには慣性、つまり勢いがあるのだから、なにかの操作を行ってもその反応が現れるまでに時間的な遅れが発生する。そこで、ステアリングを切ってからどのくらい遅れてクルマが曲がり始めるかを“ステアリング・レスポンス”と呼んでいるわけだが、アレンザ LX200はこれがとてもよかった。といっても、決してアレンザ LX100が悪かったわけではなく、こちらのステアリング・レスポンスは常識的な範囲内。ところが、アレンザ LX200はドライバーが「切り始めた」と思った直後にはクルマの向きが変わり始めているように思えたくらい、その反応は素早かった。
しかも、クルマが曲がろうとするチカラの立ち上がり方が穏やかなので、神経質そうにも忙しなさそうにも感じさせることなく、ただドライバーとクルマとの一体感が強まったように思えるのだ。これもまた、品質感の高い操縦性といっていいだろう。

タイヤが発するノイズが穏やかなものとなったことも印象的だった。率直にいって、騒音レベルが大幅に下がったとは思わなかったが、耳障りな周波数成分が抑えられた結果、なんとなく車内が静かになったように感じられたのだ。「騒音に起因するストレスが低減された」と言い換えても構わない。
LX100に対してトレッド面の消音器が変更されているのもノイスの変化の理由のひとつ
試乗の総仕上げとして、アレンザ LX200を装着したメルセデス・ベンツGLC220dで一般公道を走ったが、ここでも乗り心地、ハンドリング、静粛性に関する印象はレクサスNXやハリアーで感じたことと変わらない。つまり、タイヤの印象全般がより上質なものになったのだ。
最後に付け加えておくと、アレンザ LX200は全般的にまろやかで素直な特性のタイヤとも表現できるのだが、これはブリヂストンが2019年に発表し、2024年に「レグノGR-XIII」に搭載した商品設計基盤技術「エンライトン」を採用したタイヤに共通のキャラクターといえる。
アレンザ以外のタイヤにも広く採用されている「ENLITEN(エンライトン)」をブリヂストンは商品設計基盤技術と表現している。エンライトンという名前そのものは2019年に電気自動車への装着を想定したタイヤを開発する技術として発表されている
このエンライトン、構造をがっしりと固めていたブリヂストンの従来の設計思想から180度転換し、「空気の働き」を最大限活用したところに特徴があるのだが、これについてはまた別の機会に解説させていただくことにしたい。
