2023年3月27日(月)から4月2日(日)までの1週間開催された世界の時計の祭典「WATCHES AND WONDERS 2023」に参加して19ブランドのプレゼンテーション等に参加した鈴木・福留のJBpress autograph編集チーム。個別のブランド・時計の紹介の前に、まずは感想をそれぞれのブランドについて振り返る。

序 ジュネーブに着いて

鈴木 我らがJBpress autographチームも、ついに海外取材、でしたね。

福留 2019年にJBpress autographをローンチして、わりと直後にパンデミックだったので、ほとんど海外に編集部が行くことはなかったですからね。

鈴木 とはいえ、燃料代は高く、円は弱く。我々はドーハを経由しての長時間フライトでジュネーブ入りしたわけですが、行ってみると結構な田舎町で驚きました。

ジュネーブ空港周辺は大通り沿いにホテルが並び、簡単な料理屋がある程度。空港周辺らしいといえばらしいものの、ひとけも少なく、ヨーロッパの田舎町といった雰囲気

福留 ジュネーブの中心部はコルナヴァン地区で、WATCHES AND WONDERS 2023の会場である「Palexpo」と我々のホテルがある空港周辺はあまり何も無いんですよ。

コルナヴァンでは街中、時計店でWATCHES AND WONDERS 2023に合わせた催しがあり、お祭り状態

鈴木 せっかく、バシっと着飾った人々が集うイベントなんだから、もうちょっと空港周辺も潤った雰囲気があってもいいのに、とおもいました。世界中からですよ!

特にドレスコードはないものの、参加者は皆、洒落た格好に身を包んでいる

福留 今年は中国からの参加者が多かったようですね。ある広報担当者によると媒体だけで120も来ていたとか……

鈴木 いっぽう、日本のメディアはそこまで多くなかったとおもうので、我々は参加した以上、きっちりリポートするべきかと使命感を抱いております。ということで、まずは我々が訪れた各ブランド、ウォッチメーカーの雰囲気を総ざらいしよう、というのがこの企画です。

福留 もちろん、全ブランドを巡ったわけではないですが、数えてみたら19ブランドを取材しているようです。なので、何回かに分けて、おさらいしていきましょう。

鈴木 では、我々が訪れた順で行きますか!

PARMIGIANI FLEURIER(パルミジャーニ・フルリエ) 

鈴木 今回、我々が最初に訪れたのが「パルミジャーニ・フルリエ」。ここだけは、ジュネーブからの速報が間に合いました。社長のグイド・テレーニさんにもインタビューできましたね。実は僕は、グイドさんが社長だって後から知りましたが……

福留 僕が言わなかったからなんですけど、鈴木さんが遠慮なく聞いていたので途中から知らない方が面白いかな、と思ったんですよ。パルミジャーニはTouch&Feelだけの予定だったんですが、グイドさんの時間が空いたという連絡を受け、急遽インタビューすることになったんですよね。僕らもちょうど空いていたし。Touch&Feelだけではわからなかったことが聞けて、有意義なインタビューでした。グイド社長もいい人だったし。

グイド・テレーニ CEO

鈴木 メインは『トンダ PF ミニッツ ラトラパンテ』。ミニッツ、つまり分針の方を追いかける(ラトラッペ)というわけで、グイド社長は「ダイバーズウォッチの機能を回転ベゼルなしで実現した」と言っていました。長針が2本、ピッタリと重なっていて、プッシャーを押すと、長針の一本が指定した場所に留まるという機能を持っていて、停止した分針と時間を刻み続ける分針との開きで経過時間が計れる。

トンダ PF ミニッツ ラトラパンテ
3,990,000円(税別)

福留 酸素残量を計るのは、分単位なんでしょうが、地上での生活もいろいろ早くなってるから、とくに忙しい人には便利かもしれないですね。

鈴木 個人的に、ダイバーズって、タイマー的に使うと便利だとおもっているので、これ、ダイバーズみたいにゴツくなくてドレッシーなところにきて、機能的にも、面白いだけでなく、結構、実用的なんじゃないでしょうか? 取材時間とか、わかりますし。「カップラーメンの時間を計るのでもいい」とのこと。パルミジャーニ・フルリエの時計とカップラーメンじゃ格が全然ちがいますが。ちなみに潜れるの?って聞いてみたら、そこは生活防水レベルのようです。

福留 メモリで計っていたものをムーブメント全体でということなので、時計自体がスッキリしてますよね。ダイバーズだとスポーツが勝ちすぎるのですが、こちらは高級感があります。クルマでいうと、ベントレーのような感じだと思いました。

鈴木 あとはプラチナを強調していましたね

福留 なので、スゴく重い!この重さが好きな人とちょっと待って、という人に別れそうです。僕はこの重量感が好きなんですが。

トンダ PF フライングトゥールビヨン
21,350,000円(税別)

鈴木 トゥールビヨンの新作もありましたね。直径42mm、厚さ3.4mmとスッキリとしたケースに、さりげなく機構を見せているのがパルミジャーニ流。こちらもプラチナをふんだんに使い、お値段23,485,000円(税込)!

Cartier(カルティエ)

鈴木 次に訪れたのが、カルティエですね。人数制限で入れなかったので、僕は詳細な説明を受けていないですが。『タンク』には常に憧れがあります……

福留 『タンク』はたくさん出ていましたね。『タンク ルイ カルティエ』に『タンク フランセーズ』、『タンク ソロ』それから『タンク アメリカン』。僕は『タンク アメリカン』が好きなんですが、今年は3サイズ、11本もラインナップされていました。長方形のケースはポリッシュとサテンで仕上げが組み合わされていて、やはり良いですね。ケース厚も薄くなっていて、装着感がさらによくなってました。

鈴木 復刻モデルも出たと聞きましたが。

『タンク ノルマル』(アリゲーターストラップ)イエローゴールドモデル
4,514,400円(税込)

福留 出ました。『タンク ノルマル』ですね。1917年という第一次世界大戦中にデザインされた『タンク』の始祖。ルノー型戦車の俯瞰図から着想されたというモデル。106年前に出たので、デザイン自体はもう少し前ですね。レトロ感があって欲しくなっちゃったんですが、とくにシェイプカットされた風防の滑らかな曲線がいいんですよ。また、カルティエらしいローマンインデックスの7時には、発売年である「1917」の文字があしらわれてます。今年はプラチナとイエローゴールドのモデルがラインナップされています。このコレクションが出た後、「スペイン風邪」によるパンデミックが。『タンク』は20年代に人気を博すのですが、100年後の今日、同じような状況になりました。果たして21世紀の『タンク』は出てくるのでしょうか?

鈴木 ブースがめちゃくちゃデカかったのも印象的でした。

カルティエは写真のブースだけでなく、通路を挟んでもう1ブースを構えていた

福留 ブースはカルティエだけ2つありますからね。前身であるSIHHのボスだけのことはある。その当時とブース自体は変わってないんですけどね。カルティエは『タンク』以外も、『サントス』『パシャ』『パンテール』『クラッシュ』から新作が。時計を知ってる人ならすぐに理解できるコレクションがたくさんあるのもカルティエならでは。あらためてラインアップを見るとさすがだな、と思いますね。

鈴木 そんななかで福留さんが気になったのは?

福留 やはり『サントス』でしょうか。『サントス』は基本的にはほぼ同じなんですが、初代『サントス』のデザインを踏襲した『サントス デュモン』と、2018年に登場したより現代的ともいえる新ライン『サントス ドゥ カルティエ』があります。『サントス デュモン』は大きめのXLが3モデル、LMが2モデル、それからスケルトンモデルも出てましたね。

鈴木 どのモデルが良かったですか?

『サントス デュモン XL』イエローゴールド×ブルー
2,600,400円(税込)世界限定200本

福留 『サントス デュモン』のLM3モデルは、イエローゴールドケースにブルーインデックス&ストラップ、ピンクゴールドは同様にグリーン、プラチナはレッドという組み合わせになっていて、それぞれ個性的で面白かったです。プラチナ&レッドは派手そうですが、落ち着きというかレトロ感があり、気に入りました。イエローゴールド&ブルーのコンビも美しかったですね。あと『サントス ドゥ カルティエ』はMMサイズとLMサイズに2カラー、3モデルが発表されたんですが、グリーン文字盤のモデルが目を引きました。この文字盤はラッカー仕上げなんですが、光の加減で色が変化して、とても美しかったですね。

HUBOLOT(ウブロ) 

鈴木 福留さんがカルティエでオタクトークに花を咲かせている間に、僕はウブロへ。LVMHグループとしてはもっとも高級なブランド、ということになるんでしょうか? 実はスイスワインを支えている組織でもある、などという話を聞いたことがありまして、ワイン業界の末席を汚している身としては、ありがたーい気持ちもあります。

福留 ウブロは1979年の創業なので、時計界ではかなり新しいブランドです。ルイ ヴィトンの時計よりは古いですが。LVMHグループには100年を超えるブランドがありますから、それと比べたらまだ若いですが、短期間でトップクラスになったのはスゴいですよね。今年もウブロがブレイクしたきっかけになった『ビッグ・バン』をはじめ、いつも通り、数多くのモデルがラインナップされていました。

鈴木 もっとも強調していたのは、スクエアの『ビッグ・バン』。セラミックモデルもあるのですが……

スクエア・バン ウニコ ホワイトセラミック
3,366,000円(税込)
スクエア・バン ウニコ ブラックマジック
3,366,000円(税込)

福留 新作『スクエア・バン』ですね。素材はウブロお馴染みのブラックマジックとセラミックです。個人的にはホワイトのセラミックモデルが好きです。今回のウブロの中でもこれが一番好きかな。加工が難しいとされる中、マイクロブラスト加工のつや消しとポリッシュ仕上げが施されていて、メリハリのあるデザインとなっています。ホワイトベースにブラックが少し入るコンビネーションもいい。

鈴木 ただ、最大の注目モデルといえばコレでしょう!

スクエア・バン ウニコ サファイア
12,133,000円(税込)

福留 クリスタルケース!今年はこの素材のケースを多数見かけました。素材の多彩さで一躍注目を浴び、新素材時計の第一人者を自負するウブロだけに、やはり出しとかなきゃいけない素材のひとつなんじゃないですかね。今回はより難しいと言われるボックス型ケースで出してきたところが、ウブロのプライドなのかな、と思いました。この分野ではひとつ上をいくというか。

鈴木 全体がクリスタルだから複合素材の『スクエア・バン』よりも見ようによっては単調なのですが、透明、というインパクトがあるし、セラミックモデル同様、面によってマットだったりポリッシュだったりと仕上げを変えることで、見た目の緊張感を保っている。実にすごいモデルですが、コッチがまたすごい。そのうえ、心惹かれる……

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルブルーサファイア
67,397,000円(税込)

福留 この多彩な色使いもウブロの特徴ですね。カラーヴァリエーションでも、このブランドは抜きん出ています。

鈴木 一見、おもちゃみたいにポップな雰囲気なんですよね。でも実はすごい加工技術。超贅沢だとおもいます。ブレスレット部までサファイアクリスタルですし。これって、丈夫さはもちろん、面がシャープすぎると腕や指を傷つけかねない。そういう問題をクリアできているから採用されているわけですよね。

福留 とっても難しいことをやってるんですけどね。そこは価格に反映されていますが。もうウブロは何をやっても驚きません。何にもしてこないと驚きますが。

鈴木 この『ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルブルーサファイア』10本限定、500,000スイスフランだから7000万円超え!かとおもったら、日本での価格は67,397,000円だそうです。実はお買い得? サファイアクリスタルにトゥールビヨンで役満感があります。

福留 本当にスゴい組み合わせです。

鈴木 ほかにもウルトラ軽い『ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン』

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン
16,181,000円(税込)

福留 これはカーボンファイバーをテキサリウムでコーティングしたケースが特徴ですね。21年にも『ビッグ・バン』で登場してました。ケース、ブレスレットが一体になったフルカーボンのモデルは圧巻です。

クロノグラフ オーリンスキー フルチタニウム
2,332,000円(税込)

鈴木 そして、チタン素材ならではのダークなカラーと複雑な面取りがメカ好きのハートをくすぐる『クラシック・フュージョン クロノグラフ オーリンスキー フルチタニウム』。これ、スーパーロボット好きの僕としては、チタンという素材だけで、ちょっと燃えるものがあるわけですが、それをこういう規則的なポリゴナルな面に見えて、よく見ると結構、不規則な面で連続させているところにかなり、熱くなれます。

特にこの角度にうっとり

ラインはシャープ、ブレスレットもピシっとしているのに、手で触れると、エッジが立ってないから、肌触りもいい。燃え要素の塊です。素晴らしい!ありがとうございます!

福留 フランス人彫刻家のリチャード・オーリンスキーとのコラボモデルですね。この多面カットはさすが彫刻家が関わったモデル、という感じです。チタンは加工が難しいとされている素材。この複雑な形状でやってのけたのは、さすがウブロというところです。他では見られない造形。ジュエリーのような腕時計です。

ZENITH(ゼニス) 

1910年代の航空計器の歴史から紹介していたゼニス

鈴木 こちらもLVMHグループのゼニスです。今年は明らかにパイロットウォッチ推しで、歴代のゼニスのパイロットウォッチから、なんと航空計器まで展示されているブースでした。

福留 ゼニスはいち早くパイロットウォッチに関わっていて、20世紀のはじめにはPilotを商標登録していたとか。なので文字盤に「Pilot Watch」と載せられるのはゼニスだけということです。それくらいこのブランドにとってパイロットウォッチは思い入れのあるモデルのようです。

1928年以降、1930年代につくられていたパイロットウォッチ。グローブ越しでも操作できるようにリューズが大きい

鈴木 そのなかでも、この『エル・プリメロ レインボー フライバック』がステキーとおもっていたら……

1997年の初代『エル・プリメロ レインボー フライバック』

新作にこのレインボーさんとのつながりを感じさせる『パイロット ビッグデイト フライバック』なるモデルが!

福留 分積算計の色を5分毎に変えることで視認性を高めています。

パイロット ビッグデイト フライバック
1,463,000円(税込)

鈴木 数々の新技術、特許技術が用いられているとのことで、ビッグデイト部は特に自慢の技術の塊だそうです。確実な動作を実現するのが技術的意図のようですが「ビッグデイトの瞬間ジャンプは0.007秒」というのが燃えますね。もはや意味がわからない速度でソニックブームが出てきそうです。

福留 ムーブメントが「エル・プリメロ」というのも、ポイント高いです。

デファイ リバイバル シャドウ
951,500円(税込)

鈴木 あと、個人的に『デファイ リバイバル シャドウ』というのが、心惹かれました。これもチタンをチタンカラーで使っている。レトロでシンプルなルックスながら、実は複雑な面構成。やはり、これ系は燃えるものがあります。お値段も951,500円と、これならなんとか!

福留 このレトロ感、良いですよね。「リバイバル」のモチーフは1969年に生まれた『デファイ A3642』とのこと。69年というと、ゼニスが誇るムーブメント「エル・プリメロ」が製作された年。自動巻きクロノグラフが生まれた年でもあるし、そう考えると69年は時計界にとってスゴい年だったんだな、とあらためて思いますね。

鈴木 なるほどー

というわけで、初日はそのほかにもいくつかのブランドのプレゼンテーションなどに参加させてもらいましたが、キッチリと説明を受けたのは以上ですね。

福留 この日はまだ元気がありましたね。

鈴木 このあとも、すごい時計が目白押しの3日間でしたからねぇ。というわけで続きは次のページで!