2023年3月27日(月)から4月2日(日)までの1週間開催された世界の時計の祭典「WATCHES AND WONDERS 2023」に参加して19ブランドのプレゼンテーション等に参加した鈴木・福留のJBpress autograph編集チーム。個別のブランド・時計の紹介の前に、感想をそれぞれのブランドについて振り返る、編集部対談企画、3回目。

鈴木 さあ、3日目もはりきっていきましょー!という気持ちではあるのですが、なんだか徐々に疲れが溜まってきました……

福留 我々のホテルは空港そばで会場とも近いですが、入場までが大変なんですよね……

入り口のセキュリティチェック前は連日行列

鈴木 数千万円級の時計も少なからずありますからセキュリティが大切なのはわかるのですが、もうちょっと効率良くならないものですかね、これ……

福留 結局なんだかんだで会場についてから中に入るまで30分はかかる感じでしたね。

鈴木 そして3日目はチューダーからスタートです。なにやら、このブースとその並び方には伝統があるとか?

前ページで紹介した「シャネル」のブースから撮影。右手にチューダー、その奥にロレックスという並び

福留 この一画だけ以前開催されていたバーゼルワールドのままなんですよ。正面の入口からまずブルガリやゼニスなど、ルイ ヴィトングループのブランドが左右に並び、その次に現れるのがこのブランドの並びでした。左にロレックス、チューダー、右にパテックフィリップ、ショパールと並んでたんですが、そのまんま。ブースも当時のまま。中も3階建てとかになっていて、階段もある。ここだけ数年前に戻った感じで、他のエリアと雰囲気が違いましたね。

TUDOR(チューダー)

鈴木 ということでチューダーのブースは3階建てなのですが、ここは人気ブースでしたね。

福留 エントランスがオープンスペースになっていて、入りやすいこともあり、結構な人だかりができてました。

鈴木 我々メディアは3階に通されました。3階に上がると、まず「チューダー プロサイクリングチーム」の展示がある。

会場ではサイクリングシュミレーターを体験できた

福留 チューダーはほかにもラグビーのニュージーランド代表「オールブラックス」や、デイヴィッド・ベッカムなど、スポーツ系のパートナーシップが多いですね。でも今回の最初の話題は、時計というよりも新工場のことでした。

鈴木 スイスのル・ロックルに3年間かけて建造された、新しいチューダーの工場(マニュファクチュール)が2021年に完成していて、このWATCHES AND WONDERS 2023のタイミングで正式に稼働、とのことです。4階建てで、総面積5,500平方メートルもある巨大な施設。外観は赤い。これは黒いパーツ倉庫になっている建物を挟んで、グレーの色違いの双子のような建物とつながっている。で、そのグレーの建物は、2016年設立のムーブメント製造施設「ケニッシ マニュファクチュール」ということですが……

福留 新工場が稼働し始めたことで、人気モデルが市場から消える、ということが起きなくなればいいんですけど。

鈴木 この「ケニッシ」ってこれまで「ベル&ロス」、「シャネル」でも名前が出てきましたよね? ムーブメントを共同で開発し、製造も担っている相手として。福留先生、解説お願いします!

福留 ケニッシは鈴木さんが言われた通り、チューダーとムーブメントを共同開発しています。チューダー初の自社製自動巻きムーブメントで、COSCに認定されたCal.MT5602もケニッシの協力のもとに生まれてるんです。工場を共有してるんですから、当然ですよね。名前が出てきたシャネルはケニッシの株式を20%取得しています。なので、すでに看板モデルである『J12』にはケニッシムーブメントが搭載されているんです。ベル&ロスは、そのシャネルと資本提携関係にあります。1997年からというから結構長いですよね。その関係から『BR-X5』にケニッシが入っているんです。あとはチューダーと昔から協力関係にあったブライトリングにもケニッシムーブメントのモデルが存在します。

鈴木 なるほどー。チューダーの公式サイトで動画が見られますが、機械と人間で仕事を手分けしていて、僕はフォルクスワーゲンの工場が思い浮かびました。同じものを高精度で造り続ける必要がある精密な金属加工や塗装、組付けといった基本的なところは自動化して、ひとつひとつの細かな調整、味付けのような作業は職人がやる、という感じでしょうか。

福留 機械と人間の融合ですね。程よいものづくりができそうです。そうやって製作されたチューダーの新作は、今年も魅力的でしたね。

BLACK BAY
左からラバーストラップが531,300円、3連ブレスレットが558,800円、5連ブレスレットが572,000円(いずれも税込)

鈴木 いやほんとに! まずは定番『BLACK BAY』に、バーガンディーモデルがブレスレット違いで3種類、発表されましたが、質感高く、価格はほどよく、魅力的ですよね。姉妹ブランドの「ROLEX」との関係性を考えると、ますます、シナジー効果発揮しまくりの「アウディ」と「フォルクスワーゲン」の関係が頭に浮かびます。

福留 ロレックスのディフュージョンブランドとして誕生した背景があるだけに、絶妙な関係ですよね。価格的にもきっちりすみ分けされていて、わかりやすいし。このバーガンディベゼルはいいですよね。10年前くらいにラインナップされた、ある意味、懐かしいモデルでもあります。しかも、今回のモデルにはマスタークロノメーター認定のムーブメントが搭載されています。厳しいテストをクリアしたものなので、品質は太鼓判。とくに耐磁性に厳しい規格なので、磁力にはかなり強いモデルとなってますね。

BLACK BAY 54
左のブレスレットモデルが490,600円、ラバーストラップモデルが463,100円(いずれも税込)

鈴木 で、からのコレ!『BLACK BAY』の37ミリモデル『BLACK BAY 54』。会場で会った時計関係者の間でも好評でしたねー

福留 このモデルはいいです。誰もが欲しいと思うんじゃないですか。価格的な程よさもあるし。今年のトップ3に入ります、僕は。

先のバーガンディベゼルのBLACK BAY(41mm)と比べるとこれだけ小ぶり

鈴木 おお!? まだ今年はこの先長いですが、そこまで言う? モデル名の54は、1954年のことで、この年、チューダー初のダイバーズウォッチ『Ref. 7922』がリリースされたそうです。その時計の現代版という扱いなわけですね。

福留 わかりやすく言えばチューダーの『サブマリーナー』です。ノンデイト、37ミリケース、そしてオリジナルに近いミニッツサークル。それからちょっと焼けたような風合いのインデックスもレトロ感があっていいですよね。写真ではわかりにくいですが、文字盤がマットなんです。そこもポイントです。あと、ベゼルが最近よく見られるセラミックではなく、あえてアルミを採用してます。この細かなこだわりも好きですね。

こちらがオリジナルモデル。会場に展示されていた

鈴木 会場にはオリジナルモデルの実物がありましたが最初からリューズガードがなかったんですね。今回のモデルは、このデザイン、サイズを踏襲しながらも、ムーブメントの進歩でオリジナルモデルよりも若干薄くなっていて、性能・信頼性はもちろん現代のチューダー水準にアップデートされているわけです。このサイズだとドレスっぽいシチュエーションからカジュアルな場面まで、万能でしょう、これ。

サイドからの比較。厚みも抑えられている

福留 それで200m防水ですからね。完璧です。チューダーは、この2モデルが目立ちましたが、ほかにもBLACK BAYの新作が多く、ブースもBLACK BAY一色といった雰囲気でしたね。

鈴木 お土産にいただいた立派な本を含め、BLACK BAY祭りでした。

ROGER DUBUIS(ロジェ・デュブイ) 

鈴木 僕「ランボルギーニ」好きなんです。イギリスの自動車ジャーナリスト、ジェレミー・クラークソンが、ランボルギーニはクルマにミサイルとビームを積んでいる、みたいに言っているんだけれど、スーパーカーって、完全に合理的なのもそれはそれでいいけれど、エモーショナルな存在なわけだから、見た目からしてカッコいい、強そう、早そう、って大事だとおもうんですよ。ロジェ・デュブイはそういう雰囲気だった。特に『エクスカリバー スパイダー カウンタック』はそのまんま、ランボルギーニ『クンタッチ(カウンタック)』へのオマージュになっている。どうせランボルギーニなら最新の『レヴエルト』にすればいいのに、とはおもったけれど、相性抜群のコラボだとおもいます。

福留 ランボルギーニはロジェ・デュブイが持つ前衛的なところや創造性など、共通するところが多いんでしょうね。だからコラボしているんでしょうけど。しかし『エクスカリバー スパイダー カウンタック』は派手ですよね。ダブルフライングトゥールビヨンですから。2つのトゥールビヨンが互いに90°の角度に傾斜して配置されています。これは水平方向だけでなく、垂直方向においても重力による影響を補正するためなんですが。見た目のインパクトがとても強いです。まさにミサイルとビームを積んでる感じ(笑)

エクスカリバー スパイダー カウンタック
113,685,000円

鈴木 ランボルギーニがV12ならロジェ・デュブイはダブル フライングトゥールビヨンだ、みたいなところがいい。なお、お値段1億円超。最新の『レヴエルト』でも7000万円程度だろうから、『ウルス』か『ウラカン』も追加できる。どゆこと!?

福留 最近は1億超のモデルがちょくちょく出てきて、時計界スゴいな、と思ってるんですが、ランボルギーニが複数買えるって、とんでもない話です。ほんと、どゆこと!?ですね。僕は個人的に『モノボルテックス スプリットセコンド クロノグラフ』が印象に残ってるんです。まず赤が目に入ってきました。これはロジェ・デュブイが独自開発したハイパーテックMCF(ミネラル複合繊維)という素材なんですが、カーボンよりも13%、セラミックより60%も軽くて丈夫なのだそうです。でも赤を発色させるのが難しく、今回やっとできた、ということでした。

モノボルテックス スプリットセコンド クロノグラフ

鈴木 機能的にはスプリットセコンドクロノグラフ。クロノグラフ秒針とスプリット秒針が同軸にあり、2つのラップタイムを計測できるものですね。フランス語でラトラパン。

福留 その2つの針が白と赤に塗り分けられていて、とてもわかりやすいです。それにしても文字盤が普通じゃない。12時位置に円筒形のローターがあり、3時位置には赤い数字が渦を巻くようにセッティングされたミニッツカウンター。そして6時位置にパワーリザーブがあり、その下に香箱が見えるんです。で、9時位置には浮いてるように見えるフライングトゥールビヨン。なんかスゴいことになってます。ロジェ・デュブイらしいですが。モデル名にある「ボルテックス」は渦という意味だそうで、視点を翻弄する仕掛けが渦巻いてましたね。

TAG Heuer(タグ・ホイヤー)

鈴木 クルマつながりでタグ・ホイヤーは『カレラ』です。といってもポルシェの『カレラ』との縁はあとからできたもので、タグ・ホイヤーの『カレラ』が今年60周年。つまり1963年スタート。『ポルシェ 911 カレラ』は同年にプロトタイプ、市販化は1964年。ほぼ同い年の両者は、ともに「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」という公道レースにちなんでいるので名前がかぶっている。というわけで、同じ起源から始まり、別々の道を歩んだ両者が、現在はコラボ中。ブースには初代911の901型が展示されていました。カレラとカレラの共演!

福留 以前『カレラ』の発案者である、4代目社長のジャック・ホイヤーさんに話をうかがったことがあるんですが、この『カレラ』は彼にとっても特別なモデルだと言ってました。『ポルシェ 911 カレラ』もお好きで、ご自身も所有していて、よくドライブしていたそうです。

鈴木 時計の話に戻ると、今回、見せてもらったものは、全部良かったです。まずはコレ。

タグ・ホイヤー カレラ キャリバーTH20-00 クロノグラフ
808,500円

福留 『カレラ TH20-00 クロノグラフ グラスボックス』ですね。シンプルな初代に近いデザインですよね。見た目の大きな違いは外周にタキメータースケールがついたこと。それからデイト表示ですね。それ以外はグローブをはめたままでも操作できる大きなリューズやボックス型の風防など、わりと忠実に再現しています。2モデルあって、こちらはブラック文字盤ですね。僕は個人的にこっちの方が好きなんですが。

鈴木 そしてコレ。ブルー文字盤のモデルですね。

タグ・ホイヤー カレラ キャリバーTH20-00 クロノグラフ
808,500円

福留 両モデルの違いは文字盤の色だけではありません。ブラック文字盤はインダイヤルがシルバーになっていて、いわゆる逆パンダ風。このブルーは同色です。あとはデイトの位置。ブラックは12時位置とあまり見ない配置になっていますね。ブルーの方はよくある6時位置です。

鈴木 さらにこれ『カレラ ホイヤー02 クロノグラフ』。これでカレラ3兄弟。

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ
720,500円

福留 お馴染みのCal.ホイヤー02搭載モデルです。デザイン的には20年に出たモデルと変わってないような。でも、アウターベゼルがなく、レトロ感があるのでいいですよね。

鈴木 僕、クロノグラフって過剰な印象があって実はそんなに好きじゃないんです。でも『カレラ』はカッコいい。欲しくなる。WATCHES AND WONDERSで高い時計を見すぎているせいか安く感じるし……

福留 70万円台とか80万円台とか、普通に考えると高い買い物なんですが、100万円以上の時計がこれだけ多くなると、この値段はホッとしますよね。

鈴木 さらに、高級感を求める向きにはこちらのトゥールビヨン。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン
2,805,000円

福留 トゥールビヨンなので高額ではあるのですが、タグ・ホイヤーの場合はかなり安めです。なんと280万円台!トゥールビヨンは手作業を余儀なくされ、さらに技巧的にも難しいゆえに搭載モデルは高額で、1000万円超えは当たり前、というのが時計界の常識でした。それが2016年に160万円台という価格破壊をやってのけたのがタグ・ホイヤーでした。それに比べると少し高いですが、それでも驚異的な安さです。この『カレラ クロノグラフ トゥールビヨン』は、名前にもあるようにクロノグラフも備えている、タグ・ホイヤーらしいモデルでもあります。

鈴木 そのほか、『アクアレーサー』のゴールドの新作。

タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル200(18K 5N ソリッド ローズゴールド モデル)
2,310,000円

福留 昨年『アクアレーサー プロフェッショナル 200』が出たんですが、そのゴールドケースモデルですね。バリバリのダイバーズモデルにゴールドモデルが追加されたのには驚きました。文字盤にグラデーションがかかっていたり、とてもラグジュアリーなダイバーズになってます。

鈴木 そのレディースモデル。こちらはダイヤモンドがインデックスに入ってます。

左 タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル200
588,500円
右 タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル200
2,310,000円

福留 こちらはケースがステンレススティールでベゼルがゴールドのコンビモデルです。ケース径が30ミリと絶妙な匙加減です。

鈴木 そのほか、『カレラ プラズマ ディアマント ド アヴァンギャルド』という、ダイヤモンドをふんだんに使った、希少なモデルを見ることもできたのですが……

タグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマント ド アヴァンギャルド

福留 これも昨年発表された『カレラ プラズマ』の進化版です。化学蒸着技術から生み出されたラボクロウンダイヤモンドをケースやブレスレットに埋め込んでいます。ケースはブラックアルミニウム。とても斬新なモデルですよね。

鈴木 僕が見とれてしまったのはコッチでした。ぐっとシンプルな36ミリ、デイト付き3針のカレラ。

タグ・ホイヤー カレラ デイト
396,000円

福留 僕もこれは驚きました。『カレラ』はこれまでも結構多彩なカラーバリエーションを展開してましたが、ここまでポップなモデルをラインナップするとは!文字盤のサンレイ仕上げも美しいです。ケース径が36ミリなので、これこそシェアウォッチとして楽しめそうですね。

鈴木 この色が、角度によって微妙に表情を変えて、飽きない。ずっと見ちゃう。幼い頃に刷り込まれた『ザク』のイメージなのかもしれない……

Hermès(エルメス)

鈴木 エルメスはブースがアートなんですよね。この時点でさすがです。

福留 他は基本的に、当たり前ですが時計色が強いんですけど、ここはアート!やはりエルメスは一味違う、と思わせるブースでした。

ブース全体がアーティスト クレマン・ヴィエイユが機械式時計と時を表現したアート作品になっている

鈴木 ただ、ほかとあまりに毛色が違いすぎて、で、時計は?とおもってしまったのですが、これがまた、エルメスのこれまでの集大成であり、新しいスタート地点でもある、というかなり思いを込めたものであることがわかりました。

福留 今回は、ほぼ『H08』の説明を受けて終わった感じでした。エルメスの想いが伝わってきて、とてもよかったです。この『H08』コレクションが今後の軸になっていきそうでしたね。

Hermes H08
999,900円(予価)

鈴木 2021年にWATCHES AND WONDERSで発表された『H08』というモデルの新作で、青、オレンジ、黄色、緑の4色があるけれど、特にこの黄色のモデルが良かった。

福留 僕も色としては青が好きなんですが、このモデルについては黄色が良かった。新モデルは軽量なグラスファイバーケースなんですよね。グラスファイバーの他に熱硬化性エボキシ樹脂なるものと、スレートパウダーが含まれてるという複雑なもの。独特な見た目になってます。それにブラックセラミックのベゼルとリューズが組み合わさっています。

鈴木 エルメスといえばレザーという印象があるとおもうんです。でもこれはラバーストラップだけ。スポーティで軽快なエルメスのスタイルを貫くべく、レザーは出さないそうです。

福留 エルメスにおける時計の歴史は長く、1978年に時計の会社を作っています。2006年にヴォーシェ・マニュファクチュール の資本の一部を所有。ここは、もともとはミシェル・パルミジャーニのブランド「パルミジャーニ・フルリエ」のムーブメント製作部門が独立した会社です。これで自社製ムーブメントの製造がはじまり、2009年からエルメスの時計クリエイティブ・ディレクターをつとめるフィリップ・デロタル(ヴァシュロン・コンスタンタン 、ジャガー・ルクルト、パテック フィリップにて要職を歴任)が就任。2021年に『H08』を発表し、大きな話題となりました。今年はモノプッシャーのクロノグラフも発表されましたし、今後は『H08』をベースとして、複雑時計も展開していくとのことでした。

エルメス H08 クロノグラフ
2,145,000円(予価)

鈴木 エルメスは16の部門(メチエ)があるそうですが、昨年は時計の伸びがトップだったそうです。需要に追いついてないほどの人気だとか。長年の投資が実を結んだ。長期的な粘り強い積み重ねと、いざ、その価値を問うときのモダンなセンスというのは、世界をリードするブランドならではだとおもいます。

福留 着実に力をつけてきましたからね。時計をする人の意識も多様化した今日、ファッションアイテムのひとつとして捉える人も多くなると思います。そうなるとエルメスは強いですよね。時計ブランドとしての認知もありますし。

鈴木 そもそも、携帯する時計って、距離を測るものだったんですよね。船や馬、あるいは徒歩による移動って速度がそれほど大きく変化するものではないから、どの方角に何時間移動しているかがわかれば、自分がどこにいるかが、おおよそ分かる。そういう意味で、旅のブランドであるエルメスと時計って親和性が高いようにおもうんです。なにかそういう展開も期待したいところです。

ORIS(オリス)

ロルフ・ステューダー オリス最高経営責任者

鈴木 最初に言います。ロルフ・スチューダー社長、ありがとうございました!

福留 どうしました?

鈴木 スイスって、ワインの名産地なんですが、生産量が少ないし、お金にも困っていないから輸出はほぼしていないんです。今回の旅は忙しすぎてほとんどスイスワインが飲めなかったんですが、スチューダー社長が持ってきていたスイス北部バーゼルラント州ムテンツ「ヤウスリン」というワイナリーのワインが、本当に勉強になったんです! まさかソーヴィニヨン・ブランからあんなかわいいワインが出来るとは……スイス恐るべし……

オリスブースは誰もが気軽にくつろげるバー的な雰囲気になっていたのだった。シャンパーニュはルイ・ロデレールの『コレクション』が振る舞われていた。わかってる感

福留 ああ、あの緑のラベルのワインですね。

鈴木 そう!社交辞令的な「飲みにおいでよ」という発言を真に受けて正解でした。

福留 取材が終わった後にいそいそと飲みにいっていましたよね。あれ、社長は意外と、本気で言ってたんじゃない?

鈴木 そういうフレンドリーさがオリスの魅力ですね。一番のオシは、緑の時計。写真で社長が腕にしている『カーミット』でしたね。

プロパイロットX カーミットエ ディション
660,000円(税込)

福留 社長だけじゃなく、ブースで真面目な顔をして仕事をしている人も、みんなこれをしていましたよね(笑)

鈴木 かなりはっきりした緑が目を引くんですよね。それでなんかほっこりした気分にさせられる。狙い通りの時計だとおもいます。

福留 チタンのケースに120時間のパワーリザーブ、10年間オーバーホール不要で動作を保証するメカニズム、高い耐磁性と技術的にも優れた時計なのですが……

鈴木 デイトが1日の時にあらわれるカーミット(『セサミストリート』などに登場するカエルのマペット)の抜けた感じと、この独特の緑が全部もってっちゃいますね。社長は「時計は、いま生活上絶対必要なものじゃない。じゃあ時計に求められるものは何か? それは人を笑顔にすることだ」と言っていました。

福留 価格の安さにもこだわりがありましたね。これは60万円で、時計としてはかなりお手頃価格だけれど……

鈴木 それでも60万円あれば家族が1カ月、不自由なく暮らせるくらいのお金ですからね。そういう感覚をなくしちゃいけない、とおっしゃっていました。

プロパイロット アルティメーター
880,000円(税込)

鈴木 技術的ハイライトはこの時計でしょうか。

福留 2014年にオリスは高度計付自動巻き機械式時計という発明をしています。それを進化させつつ、高度なカーボンケースに収めたものですね。

鈴木 気圧から高度を測定するそうで、この小さなボディの内部にカプセルのようなものを持っているそうです。バルブを解放すると、そこに空気が入り、気圧の変化で高度を割り出す、というのをデジタルじゃなく機械でやっている。なんかすごい!

福留 カーボンもほかでは見ないものでしたね。シート状のカーボンを重ねて圧縮しているそうです。そのおかげで一定の密度と高い強度を実現している。

鈴木 カーボンってムラがあるものもあるんですよね。これは本当に強度を要求される工業製品向けのグレードですね。見た目上は、木目のような線が出ているのがその証拠になっている。

ビッグクラウン キャリバー 473
638,000円(税込)

鈴木 こちらはカーミットの時計に使われていたキャリバー 400の系列のキャリバー 473を使用した時計なのですが、手巻きかつ、パワーリザーブメーターが裏面にある、という面白い構造をしています。

福留 また、レザーストラップの皮は駆除された鹿の皮だそうです。

鈴木 サステナビリティですねぇ。

福留 オリスは2010年から地道な環境保全活動を続けていて、最近、流行っているからやりだしたわけではないんですよ。よく東京や東京近郊の町でもゴミ拾いとかやっていますし。

鈴木 情報解禁前のモデルもふくめて、このほかにもいくつかのモデルを紹介してもらいましたが、そのなかにも興味深いアプローチのモデルがありました。ただ、スタイルには一貫性があって、高い技術力と常に控えめな価格設定、長期的な視野、モダンでポジティブなアプローチ。押しも押されもせぬハイブランドのエルメスとはターゲット層こそ違いますが、今回、色々とオリスの時計を見せてもらって、同じように尊敬すべきブランドだな、と感じました。シリアスでポジティブで明るい。オリスの時計を身につける、というのが誇らしい選択になると感じられて一本欲しくなっています。

福留 どれが欲しいですか?

鈴木 やっぱり「カーミット」かなぁ。真面目な場面でちょっとカッコつけて、でも腕には「カーミット」みたいなことをやってみたい。ダリみたいな、というのでしょうか、アートを感じています。

Chopard(ショパール)

鈴木 ジュリア・ロバーツでしたね。

福留 それ言っちゃいますか。

鈴木 ここで言わずにどこで言いましょうか! 空港や街中で見かけた広告も含め、とにかく今年は、ショパールといえばジュリア・ロバーツ。

福留 初日には御本人もいらしていたようですね。写真や動画はわかるんですが、ブースの表に名前が入ってるなんて!これにはちょっとびっくりしました。

鈴木 時計のほうは上手に写真が撮れなかったので、広報写真ですが……

L.U.C 1860 ルーセントスティール™
3,267,000円

鈴木 ルーセントスティール™という、リサイクルステンレススチールのケースが今年の推しでしたね。

福留  廃材にあたるスチールを使用することで、CO2排出量が減るとのことです。それに人体への影響が低いとのことで、アレルギーなど肌に優しい素材なのだそうです。開発に4年もかけたという力作でもあります。

鈴木 2度焼き込んで、不純物を排していることから「Lucent」と呼んでいるそうです。日本の刀剣は10回程度焼いて叩いてとやることで不純物を減らすけれど、科学的には鉄に類する金属は2度から先はあまり大きな差異はない、という話を聞いたことがあります。おそらくそういうことなのかなぁとおもいます。そして、ストラップを含めて、ヴィンテージ感がありますね。

L.U.C 1963 Heritage Chronograph
4,554,000円(税込)

鈴木 こちらもルーセントスティール™モデル。 背面はここまで見せています。

福留 これは自社のオートオルロジュリー工房で、一貫してつくりあげた手巻き式のムーブメント。COSC(スイス公認クロノメーター検査局)認定でもあります。瞬時に反応するジャンピング・ミニッツカウンターが特徴で、約60時間のパワーリザーブを備えているんですよね。

Mille Miglia Classic Chronograph In Lucent Steel™
127,600円

鈴木 クロノグラフには、オフィシャルタイムキーパーを務める「ミッレミリア」にちなんだ、ヴィンテージカー風味あふれるモデルもルーセントスティール™が。

福留 今年のモデルは少しケースが小さくなりました。これまで『ミッレミリア』はケース径42ミリ以上だったのが、40.5ミリ。厚さも12.88ミリと日本人には嬉しいサイズになりました。ダイヤルカラーも4色。タキメーターとミニッツトラックを備えた3カウンタークロノグラフです。

鈴木 さらに「ダンロップ」のクラシカルなタイヤパターンをストラップに使用したモデルも。

1,254,000円

福留 ストラップは、そのタイヤパターンと風合いのあるカーフスキンの2種類でした。カーフスキンはドライビンググローブを模したものということです。

鈴木 クロノグラフは42mmでそこまで際立って小ぶりでもないですが、個人的に『L.U.C 1860』の36.5mm、『ミッレミリア』の40.5mmという控えめのサイズ感はいいな、とおもいます。そして、ラグスポ『アルパイン イーグル』にもルーセントスティール™モデルが登場していました。

Alpine Eagle 41 XPS ルーセントスティール™
316万8000円(予価)

福留 『アルパイン イーグル』は、なんといっても57600振動/時という超ハイビートムーブメントでしょう。高振動は精度が高くなるというメリットもありますが、パーツ摩耗やエネルギーの消費が激しかったりというデメリットもあります。このムーブメントCal.Chopard01.12-Cは、パワーリザーブも約60時間を実現していますし、そのデメリットをを克服したようです。これもCOSC認定機です。

鈴木 これらベーシックというか、クラシカルでエレガントなモデルを見ると、ジュリア・ロバーツでちょっと尻込みしましたが、魅力的なブランドですよね。

福留 ショパールはジュリア・ロバーツがアンバサダーだったり、カンヌ映画祭で多くの女優がジュエリーを身につけたりするトップジュエラーでもあるので、女性的なイメージがあります。でも、ショパールがしっかりとした機械をつくり、上級の仕上げ技術を持つトップクラスの時計ブランドでもあることをお忘れなく。

鈴木 と三日目は以上ですが、いやいや、長くなりました。僕はこのあと、いそいそとオリスブースへ向かい、スチューダー社長とワインを楽しんでしまったりといろいろありまして、楽しかったものの……

福留 三日目は長かった。疲れてきましたね、さすがに。

鈴木 いよいよ次で最終日です!