400年以上の歴史を持つ金沢の伝統工芸は、加賀藩前田家の藩主が、京都や江戸から名工を呼び寄せ、代々の文化政策によって守られてきた。それに加え今や「金沢21世紀美術館」など、現代アートも充実した金沢はアートの街としてその注目度をますます高くしている。
取材・文=岡本ジュン

アートの街・金沢
古都金沢は雅やかな伝統工芸とアートにあふれている。金沢市はユネスコ創造都市において、クラフト&フォークアート分野で認定されており、世界的にも工芸の街として有名だ。さらに国立近代美術館工芸館が2020年に東京から移転したことで、ますます工芸の旅の目的地となった。
アメリカの大手旅行雑誌『Travel+Leisure』が、“世界で最も美しい駅”のひとつに選んだ金沢駅からしてアートなオーラを放っている。網目状のアルミとガラスでできた、高さ最大29.5mの「もてなしドーム」が天空を覆う駅は、その先に伝統芸能・加賀宝生の鼓をモチーフにした、巨大な鼓門がこちらを見下ろすのだ。

この日、向かったのは鼓門とは反対の西口にある『ハイアット セントリック 金沢』。立地はまさに駅からすぐ、金沢駅金沢港口(西口)から徒歩2分で到着できる。隣にはキッチン付きゲストルームの『ハイアットハウス 金沢』が中庭を介して繋がっている。暮らすように泊まりたい中長期滞在のビジネストラベラーやファミリーにも好評だという。
このところアートを取り入れるホテルは増えているが、『ハイアット セントリック 金沢』は、金沢の伝統工芸に親しみ、感動や発見に出合うことを目的としている。作品そのものはもちろんのこと、その制作の過程をイメージしたインテリアデザインや100点以上のアートワークが館内に散りばめられているのだ。土地に根差したクラフトワークに触れることで、旅の印象もまた変わってくるのかもしれない。

メインエントランスでまず出迎えくれたのは、金箔をまとった大きな松。その圧倒的な存在感に、早くも『ハイアット セントリック 金沢』の世界へと引き込まれていく。じっと眺めていると松は工具の集合体であることがわかる。説明によれば、金沢の街で使われてきた古い鉄の工具をたたいて形作っているという。松のバックに描かれているのは、水の流れを思わせる筆書き。勢いのある筆運びや深い青色が、金沢を流れる犀川と浅野川、そして街を巡る用水路を表している。

ロビーへ向かおうとエレベーターに飛び乗ると、そこにもまたアートワークが待ち構えていた。カラフルな点の集合は一見するとモダンアートのようだが、実は加賀友禅の制作過程で作る色見本から着想したものとか。通常は20センチ前後の小さな色見本を大きく拡大し、エレベーターの壁一面に広げている。

レセプションのある3階ロビーは市内の街並みをイメージしてデザインされた。外から見えないように工夫された、木虫籠(きむすこ)とよばれる町家の特徴的な格子、醤油の街・大野地区の醤油樽を足に使ったテーブルなど、随所に施された金沢の“美”を発見できる。レセプションは商家の帳場をモチーフにしているそうで、こちらも日本の伝統を感じさせるのだ。