金箔のアートワーク

 もちろんこのフロアにも様々なアートが点在する。真っ先に目に飛び込んでくるのは奥の壁できらめく金箔のアートワークだ。微風になびく金箔は、はかなくも豪華な姿が目を奪う。

 金沢といえば、金沢箔と呼ばれる金箔が有名だ。その歴史は安土桃山時代にさかのぼるという。現在は金箔の全国生産高において 100%を誇るというから圧倒的だ。現在では美術工芸品に使われるとともに、劣化しない品質を生かして歴史的建造物の修復にも使われているという。

ロビーにある高岡愛氏の『Pliant Metal 2020』。金箔の他にステンレス⾦網や紙などが使われている

 ロビーのエレベーターホール近く、なにげなく目をやると加賀象嵌の人間国宝の手による花器が置かれていた。あまりにもさりげなく置かれているが、美しい金属の象嵌はすれ違う人の目を引きつける。加賀象嵌は金属に異なる金属を嵌め込む手法で、かつては刀の鍔や鎧を飾るための技術であったという。今はそれが装飾の手法として作品に生かされているのだ。

人間国宝・中川 衛氏の手による象嵌朧銀花器「窓明」

 石川県の伝統工芸は36種類あるというが、『ハイアット セントリック 金沢』の館内にはその多くが揃っているとか。しかもガラスケースの中で展示されるわけではなく、ほとんどの作品がインテリアの一部として飾られているのだから、美術館で見るものとは違って生き生きとしている。

 作品の解説や作家は、提示されたQRコードを読み込むとアートワークブックへ飛ぶようにできている。これを頼りに滞在中にアート散策をするのも楽しみのひとつかもしれない。

 3階のエレベーターホールでは、白と黒の皮を使ったアートワークが目を引く。これは金箔を伸ばす時に使われる革を再利用したもので、白い部分は三味線の腹に使われていた革、黒い部分は郵便局の配達バッグなどに使われていたものだという。

金箔の制作過程に使用された革のオブジェ。風合いがあり、近づいてみるととても味わい深い

 共に金箔の工程で使われた後にオブジェとして生まれ変わった。金沢の街並みに見られる瓦屋根に見立てているそうで、雨が降って瓦屋根が白く光って見える風景をイメージしている。

 この作品のように、伝統工芸のプロセスで出た素材をリメイクした作品を置くことで、背景やその知られざるストーリーをも紹介したいという思いがこもっているのだ。

漆のろ過に使われた和紙のオブジェ

 例えば、宿泊階のエレベーターホールに置かれた真っ赤な和紙のアートワークもそのひとつ。漆塗りに使う漆は、不純物をとり除くために特殊な和紙で漉すが、その使用済みの和紙を貼り合わせている。ひとつとして同じ模様や色合いはなく、さまざまな赤い模様が集合体となって深い味わいを醸し出している。

 部屋へと向かう廊下には、明るい色合いの九谷焼のナンバープレートが並んでいる。こちらは自分の部屋へ着くまでに、同じプレートに出会わないように配置されているという。

客室にもアートワークがたくさん。街中の道で型をとったというヘッドボードにはマンホールの形がくっきり。子供の足跡を金箔のゲタの跡で表して遊び心を加えている