2023年3月27日(月)から4月2日(日)までの1週間開催された世界の時計の祭典「WATCHES AND WONDERS 2023」に参加して19ブランドのプレゼンテーション等に参加した鈴木・福留のJBpress autograph編集チーム。個別のブランド・時計の紹介の前に、感想をそれぞれのブランドについて振り返る、編集部対談企画、2回目。
Baum & Mercier(ボーム&メルシエ)
鈴木 2日目の最初は「ボーム&メルシエ」。コミュニケーション担当の野原さんは「場所がいいから」とおっしゃっていましたが、そんな理由だけでは説明がつかないような人気ぶりでしたね。いつ見ても人の絶えないブースでした。
福留 このブランドはコストパフォーマンスがいいです。僕も1本持っているんですが、かならず購入した価格よりも高く言われます。とにかく仕上げが美しい。ボーマティックという自社ムーブメントも製作し、さらに価値が高まってます。今年もボーマティック搭載モデルが多数ラインナップされていました。
鈴木 メーカー的に今年のイチオシは、2023年に50周年を迎えた『リビエラ』。ケース径39mmで、こちらの『10714』を含め、3つの50周年記念モデルが発表されるそうです。このモデルは透明なスモーキーブルーのサファイアダイヤルに交換可能なラバーとアリゲーターストラップ、伝統の12角形のベゼルで……517,000円(税込)!? たしかにお買い得感ありますね。
福留 この12角形ベゼルの『リビエラ』、トノー型の『ハンプトン』、そして円形の『クリフトン』、『クラシマ』とそれぞれ新作が出ていましたね。
鈴木 そのなかでステキだとおもったのは『クリフトン』のチョコレートブラウンモデル
福留 僕もこれが一番好きでした。チョコレートブラウンという落ち着いた美しいカラーがいいですよね。それが文字盤、ストラップに配され、グラデーションで表現されています。美しいので、着けていると女性にも注目されるのでは。男女でシェアウォッチとしても良いと思います。ボーム&メルシエはセンスがいい、という定評があります。このモデルを見るだけで、それがわかります。
鈴木 もちろん、お手頃価格のモデルばかりではなく、リヴィエラにはこちらのパーペチュアルカレンダーのような特別な新作もありました。これはカッコいい。
福留 リビエラ50周年を記念したコンプリケーションモデルですね。世界限定50本。受注オーダーのみ、ということなので、なかなか希少なモデルです。
Bell & Ross(ベル&ロス)
福留 「ベル&ロス」はWATCHES AND WONDERSに今回初出展です。『BR 03』と『BR 05』の2本柱。ここに『BR-X5』というハイエンドが加わっています。パイロットやダイバーに向けたプロフェッショナルなラインは『BR 03』が基軸、一般的なアーバンというラインは『BR 05』が担っています。『BR-X5』は『BR 05』と同一線上にあって、1から構造を考え直したという、軽量かつ強靭な異素材の多層構造のモデルという位置づけです。ムーブメントは現在「ケニッシ」との共同開発のムーブメントに置き換わりつつあります。
鈴木 我々は情報解禁前のモデルもこっそり見せてもらいましたが、どうも今年は色々とニュースが出てきそうですね。現状言えるモデルでいうと『BR-03 92 DIVER WHITE BRONZE』。銅ですよ。ブロンズケース。具体的には銅92% 、錫8%の合金で、時とともにその色合いは変化するとのこと。
鈴木 見ての通りのダイバーズで、型式番号みたいなモデル名、おもて面もステキなのですが、裏面がまたいい。むしろこっちに惚れたくらい。潜水服!
鈴木 世界999本限定だそうです。
福留 このほか、新作では5月に日本にも入荷するという『BR 03-93 GMT BLUE』
リューズを回すとドクロの顎が動く『BR 01 CYBER SKULL BRONZE』が直近の新作といったところでしょうか。
鈴木 『BR 01 CYBER SKULL BRONZE』は世界限定 500本ですが、日本でも販売されています。日本だと160万円くらいですね。
Grand Seiko(グランドセイコー)
鈴木 和モダンテイストでまとめられたブースで日本代表といった感のある「グランドセイコー」。セイコーとスイス時計業界って色々あった間柄だったんじゃないかなぁと素人ながらにおもうのですが……
福留 ジュネーブでは歓迎されているようですね。
鈴木 マーケティング統括室の平岡孝悦部長とじっくりお話をしたので、これはまた、別の記事でしっかり紹介したいとおもいますが、盛岡セイコーの話から雫石の話が出てきて、同じく雫石にある岩手県最古の酒蔵、オートグラフでも紹介している「菊の司酒造」さんの話ですっかり盛り上がってしまいましたが、新作のひとつめが、その雫石の岩手山モチーフのダイヤルも魅力の『SLGC001』です。6月発売予定。
福留 この『SLGC001』の前に、『SLGH019』という、やはり岩手山の山肌を表現したパターンと透明度の高いブルーを組み合わせたダイヤルのモデルがあって、そのダイヤルの意匠を受け継ぎつつ、メカニカルクロノグラフ「TENTAGRAPH」を搭載、スポーツテイストでまとめた渾身のラグジュアリーウォッチが『SLGC001』という位置づけですね。今回、この『SLGC001』が出るまで気付かなかったんですが、これがグランドセイコー初の機械式クロノグラフモデルなんです。グランドセイコーのクロノグラフといえば、スプリングドライブでしたから。スプリングドライブはゼンマイで駆動する機械式ではありますが、精度はテンプではなく水晶振動子でとるので、厳密には機械式とは違いますから。
鈴木 もう一本の新作がこの『SBGZ009』というモデルで、こちらは、信州・北八ヶ岳の八千穂高原に広がる白樺林の情景を、プラチナ製のケース全体に職人が緻密に刻んだ、という世界50本限定モデルです。写真はデモ機ともいうべきもので、撮影も僕なので素人写真なのですが実物はさらに輪をかけて美しい。
福留 ダイヤルはGrand Seikoのロゴ、Spring Driveの文字、6時位置のSDマーク(貴金属製のインデックスであることを表わす星のようなマーク)、分目盛などを、印刷ではなくて凹凸で表現しています。時分針とインデックスは14Kホワイトゴールド。秒針は鉄の針を熱してグレーにしています。ムーブメントには「デュアル・スプリング・バレル」と「トルクリターン・システム」の組み合わせによって最大巻上時約84時間持続するスプリングドライブムーブメント「キャリバー9R02」を搭載しています。
鈴木 おかげで、高性能なのに薄くて、それがまたエレガントですよね。
福留 ちなみにグランドセイコーの「白樺」モデルは機械式もあり、こちらは岩手・雫石の製作なので、そこから見える白樺となってます。なので少しテクスチャーや色味が違っていますね。
鈴木 『SLGC001』と『SBGZ009』の2モデルを見ながら「菊の司酒造」さんの話をしていたことも関係があるかもしれないのですが、これらの時計には「テロワールがある」とおもいます。それは単に、岩手とか信州とかいう土地の風景を時計のデザインに反映しているから、という単純な話ではなく、もっと農業的というか土着的なものとして。ワインの場合、テロワールというと、それは単にブドウの育った土壌の成分や気候がワインに反映されることをいうんじゃなくて、ブドウと一緒に、そこの土、雨、空気を体に取り込んで、日々を過ごしている人がブドウを育て、ワインにするから、その土地の味の好みとか、風土、文化全体がワインに反映されることをテロワールというわけです。岩手と信州にはセイコーの工場があって、地場の産業なわけですよね。ジュネーブの人に岩手山とか八ヶ岳とかいっても知らないとおもうけれど、だからいい。テロワールが反映されたワインは、飲めばワインが生まれた場所の風景が目に浮かぶ。行ったこともない、想像もできないような場所でも、一口のワインが雄弁にそのワインが生まれ育った故郷を物語る。GSのこれらの時計もそういうものでありうるし、そういうものにこれからもっともっとなっていく可能性を秘めている、と、そうおもったんです。僕は雫石も八千穂高原も行ったことがあるから余計にそうなのかもしれないけれど、ジュネーブで時計を見て日本を感じるとはおもわなかった。
福留 もう一本、世界限定8本のジュエリーウオッチ『SBGD213』もお披露目されました。
鈴木 獅子のたてがみをイメージしたということで、ケース上面に112個のダイヤモンド、ベゼルに60個のバゲットダイヤモンド、ダイヤルには94個のダイヤモンドと26個のブルーサファイア、さらにリューズにブルーサファイア。贅沢なのはもちろんですが、ジュエラーの職人技が文字通り輝いています。Grand Seikoにはこんな技術もある!
福留 文字盤の中心が濃いブルーになってますが、ここはシェルということです。実際には光の加減で色味が変化するので、とても美しいですよね。
CHANEL(シャネル)
鈴木 シャネルはブースが目立つんですよね。会場に入って、いわゆる大通りにあたるところの突き当りにある。
鈴木 正直、女性向けなイメージがあったし、時計ブランドなの?という疑念もあったんですが、案内されてみると、ファッションの面白さを感じました。前回ロボット好きだと告白したので、この一本を紹介させていただきます。
福留 モデル名がズバリ『プルミエール ロボット』。ケースが胴体で、目と腕の位置にダイヤモンドを配してロボットを表現。文字盤がオニキス、パーツにセラミックが多用されており、遊び心とおしゃれ感が詰まった1本です。ストラップもヴェルヴェットタッチで仕上げられたラバーも、やはりシャネルならでは。これで360万円台。決して安くはないが、使用している素材を見れば納得できる価格といえますね。それから、シャネルの時計ですが、ファッションブランドとしてのデザイン力に加え、ムーブメント会社・ケニッシ社の株式を取得するなど技術力も大幅に向上していて、もう数年前から時計メーカーとしての地位を確立しています。世間の人が思っている以上の技術を持っていて、凄い時計ブランドでもあります。なので、難しい、と思われる機構のモデルを数多くラインナップできているんです。
鈴木 『J12』というシリーズですね。僕の写真じゃ、いまいち伝わらないとおもうんだけれどこの時計は『J12』20周年を記念して2020年に登場した『J12 X-RAY』の新作。全体がクリスタル製なので内部の機構がすごくはっきり見えて、6時のところのガンギ車を、ものすごく小さな爪が、せっせとつかんだり、はなしたりしているのが愛おしい。
福留 この『J12 X-RAY STAR』は、スポーティなケース、そして、ブレスレットをサファイアクリスタルで形成してます。自社製ムーブメントCal.3.1のクリスタル製ブリッジも一体化しています。クリスタルをマットに仕上げているのですが、今年はクリスタルケースが多めに出たなか、この加工はシャネルでしか見なかった。
鈴木 超絶技術。
福留 ダイヤモンドに次ぐ硬さのサファイアを精巧に仕上げる技術はさすが。やはり一味違う感じでした。
鈴木 これもすごかった。『J12 Eclipse Box Set』という7本の時計のセットなのですが、ケースとブレスレットはほぼセラミック製。ボックスには横一列に7本の時計が並んでいる。ボックスの一番左が、真っ白なモデル、一番右が真っ黒なモデルで、中央が、時計の真ん中から左が白、右が黒のモデル。で、その間に、白多め黒少なめの時計が2本、白少なめ黒多めの時計が2本ある。すごいのはこの、間にある時計で、これ、黒と白は塗り分けているわけじゃなくて、別のセラミックを合わせているんだけれど、この精密さ。
福留 セラミック素材を腕時計に定着させたシャネルだからこそのモデル。もちろんカラーにも注目。シルバーかゴールドのみが時計の色と思っていた世の中に、黒、白の時計もあると知らしめた象徴的なモデルが『J12』。その2色を使って、納得のモデルをつくり出してます。
鈴木 このシリーズもすごかったですね。お針子さんの、というか、シャネルさんが腕にいつもはめていた針刺しの針山モチーフなのだけれど、デカアツが裸足で逃げ出すほどのサイズ!
福留 ピンクッションモチーフというやつですね。これケース径が55ミリあり、とても大きいのですが、女性の華奢な腕の方が似合うんですよ。格好いいですよね。シャネルにしかできない、シャネルならではのセンスが光る腕時計です。
鈴木 風防がものすごいドームになっていて、これは時計をやっている人からはおそらく出て来ない発想ですよね。こういう、みんながおもいつかないことをやるっていうのがファッションというか、アートだなぁとおもいました。パターンが5つあって、それぞれ20本限定、価格が3000万円くらい!
福留 5モデルすべて同じ価格ではなく数百万の差がある。これを買える人からすれば誤差の範囲かもしれないけど、一番高いモデルがもっとも売れており、もう残り1本しかないということです。これを着けて歩いてたら目を引きます。とても格好いいですよね。
PANERAI(パネライ)
鈴木 「原点に立ち返りました」という、ヘリテージ系モデルも今回、たくさん見かけましたが、パネライは「ラジオミール コレクション」に立ち返っていました。
福留 今年は「ラジオミール 伝説の物語」という名で発表されていました。近年は『ルミノール』や『サブマーシブル』での新作が多かったので、ここで『ラジオミール』というのは、ファンとしてはとても嬉しいです。
鈴木 この『ラジオミール オット ジョルニ』が2色あって、やっぱかっこいいなぁ。
福留 サンドイッチ文字盤にドーム型の風防に大きなリュウズ。12・6がアラビア数字で、他がバーというインデックスもパネライらしく安心感があります。もともとレトロ感満載のモデルだったのだけど、あらためて見るとホント魅力的ですよね。
鈴木 そして、特別感があるのが『ラジオミール カリフォルニア』といって、ダイヤルの文字と記号が変な感じになっている一本。実は『ラジオミール』の文字盤は、このカリフォルニアダイヤルがオリジナルだとか……
福留 みたいですね。イタリア海軍への納入が1938年なんですが、その前の36年にプロトタイプが納品されたんですが、それがカリフォルニアダイヤルだったそうです。
鈴木 ちなみにパネライといえば「リュウズプロテクター」というイメージでしたが、歴史的に言うとそうじゃないんですね。
福留 イタリア海軍からの要請で最初に製作されたのが、この『ラジオミール』。名前の由来も1916年に特許出願した蛍光塗料からとったものです。『ルミノール』よりも先に誕生しています。やはり「リュウズプロテクター」のある『ルミノール』の方が防水性が高かったりするんですが。これはもう好みです。ちなみに僕は『ラジオミール』の方が好きなんです。ちょっとレトロな感じがいいんですよ。
鈴木 2日目に回ったのは以上ですが、濃密でしたね。シャネルブースは実は、当初予定になかったのに、だいぶしっかり説明してもらえましたし。
福留 期せずしてレトロな雰囲気の時計が多かったのも印象的でした。ヘリテージもいまの時計業界のキーワードかもしれません。
鈴木 そして、我々二人はまだ、そこまで疲れを自覚しておりません。そんな勢いで次ページでは3日目に突入です。