世界的なフレグランスの老舗がそのアニバーサリーイヤーに共同制作を行ったのはコニャックの名門「ヘネシー」。ヘネシーのマスターブレンダーがカテゴリーを越えてクリエーションに参加したゲランの象徴的フレグランス『アビルージュ』の新たな表現とは?

乗馬への情熱が生んだ大胆なフレグランス『アビルージュ』

ゲランを象徴するフレグランス『アビルージュ』は1965年に当時のメンズフレグランスの常識を打ち破る形で登場した。シダや広くウッド、スパイシー系の香りが一般的だったメンズフレグランスの世界に、アンバー、バニラといった甘みのあるノートを持ち込んだのだ。

アビルージュ=赤い服という一風変わった名前を持つこのフレグランスのインスピレーションの源になっているのは乗馬。その名前も、馬術手が競技の際に身につける赤いジャケットに由来する。そして、このフレグランスの中核にあるのはレザーの香り、つまり馬のサドルの香りだ。

ゲランの創業者にして初代調香師のピエール・フランソワ・パスカル・ゲランから数えて4代目の調香師ジャン・ポール・ゲランは優れた馬術家でもあり、フレグランスと同じ程の情熱を乗馬に注いだという。『アビルージュ』はそのジャン・ポールの情熱から生まれたフレグランスだ。

サドルのレザーの香りとともに、トップノートとなるビターオレンジのようなシトラスノートは馬の疾走、続くパチュリを始めとするアーシーなノートは蹄によってめくれた土の香りを想起させる。アンバー、バニラの甘い香りは余韻として魅力的な男性のイメージを残す。

レザーやアンバーの香りは、いまや定番といった印象もあるけれど、登場当初、『アビルージュ』はその大胆さから、すぐにはヒット作とはならなかったという。しかし2025年、この革命的作品はメンズフレグランスのアイコンとして、誕生から60周年を迎えた。それを記念して登場したのが特別限定エディション『アビルージュ スピリット パルファン』だ。

熟成を表現するアビルージュ

『アビルージュ スピリット パルファン』は、ヘネシーとゲランのコラボレーションによって誕生した、特別な限定フレグランスだ。

コニャックはワインの親戚とも言える蒸留酒で、白ワインを蒸留して造る。そして、重要なのが樽熟成。そもそもブランデー(果実酒から造る蒸留酒)における最高級品が冠するX.O(エクストラ オールド)とは1870年にヘネシーの三代目当主モーリス・ヘネシーが、家族や家庭のゲスト向けに作った『ヘネシー X.O』を起源としている。現在は一般に流通している『ヘネシー X.O』だが、最短で12年、場合によっては30年以上熟成された原酒から造られている。

今回のゲランとヘネシーとのコラボレーションでは、この熟成に注目し、新樽と10年間コニャックを熟成させた樽の2種類のオーク樽でフレグランスを熟成。アビルージュのレザー、アンバーのノートにウッディな温かみとコニャックの芳醇な香りを融合させた。

ヘネシーのマスターブレンダー ルノー・フィリュー・ド・ジロンドも参加して生み出された香りは、オーク樽とコニャックの香りとともに、トップからバニラのノートがよりはっきりと感じられる。これはアブソリュートとチンキという2種類のバニラエキスを中心に構成されたアンバーベースだ。もちろん、トップにはベルガモットが際立つシトラスのノートもあり、中核にはパウダリーなアイリス、温かなナツメグの香りが調和したスパイシーなレザーのノートがある。

ボトルは通常のアビルージュとよく似ているものの、ラベルはレザーではなく木目のイメージになり、キャップは木製。ヘネシーのコニャックたちが長い時間を過ごし『アビルージュ スピリット パルファン』が生まれた「パラディ(楽園)」と呼ばれるヘネシーの保管庫のイメージを身にまとっている。