400万円以下でオプションなし全部入りのDセグメントPHEV

 自動車メディア関係者の間でBYDシーライオン6が話題になっている。その圧倒的なコストパフォーマンスにより、多くのライバルが駆逐されかねないと彼らはいう。本当だろうか?

 BYDは中国の自動車メーカー。もともとバッテリーメーカーとして1995年に設立されたが、2003年に中国の国営自動車メーカーを買収すると自動車事業にも参入。2008年には世界初の量産型プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、2009年には初のEVの量産を開始するなど、主に電動車の分野で成長してきたブランドだ。また、2025年にはグローバルで460万台を販売し、世界の自動車メーカー・ランキングで7位に食い込んだとされるほどの巨大企業でもある。

 彼らは2022年に日本の乗用車市場に参入。当初はBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル。いわゆる電気自動車のこと)のみを販売していたが、2025年12月に初のPHEVを発売すると発表した。それが、ここで紹介するシーライオン6である。

 そのボディーサイズは全長×全幅×全高=4775×1890×1670mmというもの。シーライオン6と同じSUVタイプで似たサイズの日本車を探すと、たとえばトヨタ・ハリアー(4740×1855×1660mm)が浮上するが、そのPHEV版の価格は547万300〜626万100円。いっぽうで、今回の試乗車のメーカー希望小売価格は398万2000円とされている。つまり、ざっと150万円から200万円も安いのだから、私の同業者たちが「ザワつく」のも無理はない。

 ただし、ボディーサイズと価格だけを比べてシーライオン6のコストパフォーマンスが優れていると判断するのは早計である。

パワーは十分か?

 たとえばハリアーは排気量2.5リッターのガソリンエンジンを搭載。その最高出力と最大トルクは177psと219Nmと発表されている。いっぽうのシーライオンに積まれるエンジンは排気量が1.5リッターと小さく、最高出力は98ps、最大トルクは122Nmに留まる。ざっと、ハリアーの55〜56%である。

 もうひとつ、シーライオン6とハリアーで大きく異なっているのが駆動方式で、試乗したシーライオン6が前輪駆動だったのに対して、ハリアーのPHEVは後輪をモーターで駆動する電動式4WDを採用している。

 実は、シーライオン6にも4WD仕様は設定されていて、その価格は448万8000円とこちらも“割安”なのだが、4WD仕様は2026年3月に納車が開始されるとのことで、まだ試乗できていない。というわけで、ここではシーライオン6の前輪駆動モデルに的を絞って解説することにしたい。

 先ほど「シーライオン6は非力」とも受けとめられる文章を書いたが、実際に乗ってみると、まったくパワー不足を感じない。いや、むしろ「余裕ある動力性能」と評していいくらい、シーライオン6の走りは力強い。その秘密は、BYDがスーパーハイブリッドと呼ぶパワートレインにある。

BYDはPHEVシステムを「スーパーハイブリッド DM-i」と呼び、シーライオン6に搭載しているのはその第4世代目

 先ほども申し上げたとおり、エンジン単体のパフォーマンスは98ps / 122Nmだが、駆動用モーターは197psと300Nmを生み出す。発電機を駆動するエンジンの性能が98ps / 122Nmである以上、外部電源から充電できる高圧バッテリーの電力が枯渇すれば、98ps / 122Nmを上回る性能を駆動用モーターが継続して生み出すことはできないが、現実的な走行パターンからいえば、駆動モーターの197ps / 300Nmが本当に必要となるのは加速中の数秒程度だから、エンジンにそこまでの能力がなくても十分な動力性能を発揮できる。実にクレバーなコンセプトだ。

ハイブリッドシステムはホンダe:HEVに似る

 シーライオン6は走りが力強いだけでなく、快適性の点でも高く評価できる。そのハイブリッドシステムは、基本的にモーターで車輪を駆動するという意味ではシリーズ方式だが、運転状況によってはエンジンがメカニカルに連結されて駆動力を伝えることもあるので、ホンダのe:HEV方式に酷似している。いずれにしても、走行中にエンジンは止まったり始動したりを頻繁に繰り返すことになるのだが、BYD製の1.5リッター・エンジンは回転が滑らかなうえに騒音も少ないので、エンジンの停止/再始動がわずらわしく感じられない。しかもこのエンジン、熱効率は43.04%とされる。熱効率が高くなればクルマの燃費も向上するが、たとえば現行型トヨタ・プリウスに搭載されるM20A-FXS型エンジンでさえ、熱効率は最高で41%とされる。それを2%も上回ったのだから、BYDのエンジン技術は侮れないというべきだろう。

 この結果、シーライオンの燃費は22.4km/ℓに達している。ちなみに、前述したハリアーのプラグインハイブリッド車は20.5km/ℓでシーライオン6に届かない(WLTCハイブリッド燃費)。これはハリアーに限らず、同クラスの日本製PHEVでシーライオン6に燃費で優るモデルは存在しないようだ。

 乗り心地はソフト。これはBYDの各モデルに共通する傾向だが、個人的には、たとえばBEVのシーライオン7はサスペンションがソフトなためにボディーが前後に揺れるピッチングが大きく、これが操縦性に悪影響を与えると捉えていた。ところが、シーライオン7はソフトな乗り心地を維持していながらも適度にピッチングを抑えるセッティングにより、操縦性の変化を気にならない範囲に抑え込んでいるように思えた。

コストパフォーマンスは高い

 インテリアの質感も悪くない。ドイツ製プレミアムブランドを脅かすほどではないにせよ、同クラスの日本車であればいい勝負をしそう。例によってインフォテイメントシステムやADAS(先進運転支援システム)なども充実していて不満はなかった。

荷室容量は425リットル

 これで価格が398万2000円なんだから、コストパフォーマンスが高いのは間違いない。ただし、だからといって「ライバルが駆逐されてしまう」とまでは思わなかった。もちろん、シーライオン6は価格面を中心に魅力的なSUVだが、「多少値段が高くても、これまで長く乗り続けてきた日本車に今後も乗りたい」という人だっているだろうし、デザインやブランド性を理由にBYDを選ばない向きもあるだろう。いくら品質が高くても世の中の人すべてがユニクロを買うわけではないのと同じことだ。こうした価値観の多様性があるからこそ、クルマ選びは面白いのだと私は考えている。