ジャガー・ルクルト限定“プチコンプリ”はトラディショナルとモダンがクロスする｜ジャガー・ルクルト『マスター・コントロール・カレンダー』

手首に宿る、時を超えた美学。ジャガー・ルクルトが「マスター・コントロール・カレンダー」に新たな解釈を加え、500本限定の特別なタイムピースを世に送り出した。ツートーンのグレーで構成されたグレイン仕上げのダイヤルは、20世紀半ばのセクターダイヤルへのオマージュでありながら、現代の感性に響く洗練を纏う。ジャケットの袖口から覗くその姿はさりげないが、日常に寄り添うコンプリケーションウォッチとして確かな存在感を放っている。

歴史が紡ぐ、複雑機構の系譜

ジャガー・ルクルトとトリプルカレンダーの物語は、1940年代に遡る。当時、このマニュファクチュールが開発した曜日、月、日付表示とムーンフェイズ機構を搭載したムーブメントは、他の一流メゾンにも採用されるほどの評価を得た。そこから半世紀を経た1992年、ジャガー・ルクルトはマスター・コントロール コレクションを発表。その名は、ケーシングされた状態の時計を検査するという、革新的な「1000時間コントロール」認証に由来する。

このコレクションは、1950年代のクラシックなラウンドウォッチを再解釈することで、時代を超越しながらも現代的なエレガンスを創造してきた。そして2020年、マスター・コントロール コレクションのリニューアルの一環として複雑機構の新たなるバージョンが登場。今回の新作は、その流れを汲みながら、さらに洗練されたビジュアルアプローチを提示するものだ。

モダンに生まれ変わった、伝統的な複雑機構

新作の最大の魅力は、ダイヤルのデザインにある。ライトグレーとダークグレーのツートーンで構成されたグレイン仕上げは、光の当たり方によってグレーの濃淡が変化し、多彩な表情を見せる。中央のライトグレーの領域には、曜日と月の窓が上部に配され、ホワイトのディスクにブラックの文字がデカル転写で施されている。その下部には、スモールセコンドサブダイヤル内にムーンフェイズ機構が収められ、星が散りばめられた青空を背景に、鏡面仕上げの月が静かに輝く。

アワーサークルの外側には、分を表示するライトグレーのチャプターリングが配され、最も外側のサークルにはダークグレーを背景に日付が記される。この明暗のコントラストは、視認性を高めるだけでなく、20世紀半ばのセクターダイヤルへのさりげないオマージュとしても機能。ダイヤル周囲の日付表示と日付針に施されたレッドのアクセントが、控えめながらも印象的なコントラストを添えている。

ケースは、マスター・コントロール コレクションの象徴的な40mmサイズ。ベゼルとラグ上部にポリッシュ仕上げ、サイドにはきめ細かなサテン仕上げと、洗練された仕上げが施されている。ブラックカーフスキンのストラップは交換可能で、シーンに応じたスタイリングを楽しむことができるだろう。スーツスタイルはもちろん、カジュアルなコーディネートにも自然に馴染む、まさに日常に寄り添うラグジュアリーウォッチである。

独創的な機構が生む、美しい時の流れ

搭載されるのは、自社製キャリバー866。自動巻き式で、70時間のロングパワーリザーブを実現している。週末に時計を外しても、月曜日の朝にはそのまま着用できる実用性は、日常使いを前提とした設計思想の表れだろう。

このムーブメントの興味深い特徴は、ムーンフェイズ表示への配慮である。伝統的なトリプルカレンダーでは、外周に均等に記された日付を針が指し示すが、キャリバー866ではこの日付針が独創的な動きを見せる。月に一度、15日から16日にかけて、赤い先端の日付針が90度ジャンプし、ムーンフェイズ表示を隠さないようにしているのだ。針のなめらかな高速移動は、技術的な巧みさと伝統デザインの美学への敬意が融合した、ジャガー・ルクルトならではの「解」である。

コンプリケーションと聞くと、どこか特別な日のための時計という印象を抱くかもしれない。しかし、この「マスター・コントロール・カレンダー」は、言わば“プチコンプリ”とでも呼ぶべき存在だ。曜日、日付、月、ムーンフェイズという実用的な情報を優雅に表示しながら、40mmという適度なサイズ感と5気圧の防水性能により、日常生活に気負わず使用できる。ウィークデイでのビジネスミーティングから、週末のカジュアルな装いまで、シーンを選ばず寄り添ってくれる懐の深さを備えている。

そして500本という限定数は、この時計が単なる量産品ではなく、ジャガー・ルクルトの専門技術と創造的なデザインが結実した、特別な一本であることを物語る。あるいは時代を超えて受け継がれてきた複雑機構が、現代の感性と出会い、新たな息吹を得た証とも言えそうだ。