
腕時計を丸1週間、実際にJB, autograph記者が身に着けて試します。身に着けたからこそ伝えられること、実感したことをつまびらかに書き記しました。1週間というセミロングな時間をともにしたからこそ、気づいた“リアルな感想”を綴ります。
第3回テーマ レイモンド ウェイル『ミレジム センターセコンド ジャパン リミテッド エディション』
この時計を1週間、試着した“リアルな感想”
1 かつての「フィアット500」のような存在感。小さくても圧倒的な個性
2 デニムブルーの色彩を腕にすると心地よい! そのオールラウンドな魅力
3 現代の加工技術により蘇る1930年代の職人技
4 ドレスウォッチ然としたブレスレットのシルエットに対するこだわり
5 人混みで気にしない。身体感覚と調和する完璧な取り回し
今回のモデルは、日本限定で2025年8月に発売された「ミレジム センターセコンド ジャパン リミテッド エディション」。インターナショナルモデルとの違いは、ラグ4箇所に施されていたラボグロウンダイヤモンドをすべて廃したことで、より一層、ユニセックス仕様の立ち位置が明確になっています。小径かつ軽快なカラーリングの装用感は、想像以上に快適なものでした。
かつての「フィアット500」のような存在感。小さくても圧倒的な個性
もちろん分かっていました。リリースにはケース径の数値が掲載されているのですから。でも腕に装着した瞬間、思わず口をついて出たのは「思っていたより小さいな」「カワいいなあ」という言葉でした。直径35mmというスペックから想像していたよりも、腕に載せてみると、はるかにコンパクトな印象を受けたのです。その秘密は何だろうとずっと考えていて、至ったのはベゼルの形状。ベゼルの特徴的な形と文字盤デザインの相乗効果なのだと感じたんです。
ベゼル幅は狭く、風防を抑えるために切り替えして急斜角を付けています
一般にベゼルとは、文字盤の外側に張り出しているものが多いのですが、この「ミレジム35」は敢えてベゼル幅を狭くしていて、さらに縦方向に直立したようなシリンダー形状となっています。そのため、文字盤の大きさがほぼケース外型と同じになり、視覚的にはスペック以上の小ささが演出されているのです。
そのコンパクトな面積を最大限活用して展開されるのが、特徴的なセクターダイアルです。1930年代のアール・デコ様式を現代に蘇らせたこのダイアルは、時・分・秒の目盛りを異なるトラックに配置し、それぞれ異なる仕上げを施しています。中央の縦筋目ヘアライン仕上げ、アワートラックのマット仕上げ、ミニッツトラックの同心円状サーキュラー仕上げが織りなす表情は、「奥ゆかしい」のですが、古びていない。機能的な美しさを感じさせます。
その小気味良いダイヤルが、ケースいっぱいに詰まっていて、しかもシリンダー形状で張り出しがないから、コンパクトに見える。しばらく眺めているうちに連想したのは、かつての「フィアット500」や、英国時代の「MINI」。小さなボディに込められた圧倒的な個性と存在感、サイズでは測れない魅力がそこにはあります。つまり伝わってくるのは、この時計が持つ「控えめな自信」。サイズで威圧するのではなく、細部への配慮と洗練されたデザインで存在感を示しています。これこそが、クワイエットラグジュアリーではないでしょうか。
文字盤は外周部がややカーブを描いて落ちていくボンベダイアル形状。その視覚効果もあり、中央から外側へと目線が自然に移っていきます
デニムブルーの色彩を腕にすると心地よい! そのオールラウンドな魅力
さらに印象的なのは、文字盤のデニムブルーのニュアンスです。単なるブルーではなく、グレイッシュな落ち着いたトーンが絶妙で、昼夜を問わず、どんなシーンでも活躍してくれる安定感があります。いわゆるモノトーンとは違って、どこか気持ちが沸き立つような華やかさを秘めているのに、決して悪目立ちすることはありません。このブルーの時計を身につけることで、自分にまたひとつキャラクター付けできるような、そんな特別感を覚えました。
このデニムブルーから連想されるのは、冷静で、落ち着いている印象です。でも堅苦しさはなく、むしろフレンドリーな親しみやすさを私は感じます。ネクタイにもあるビジネスカラーリングなので、スーツスタイルには自然に映えますし、もちろんカジュアルな装いにもぴったりと馴染みます。そのうえ真夏の素肌にも、秋冬のジャケットスタイルのアクセントにも、四季を通じて身につけられる守備範囲の広さを実感しました。
何より驚いたのは、腕元に色があることで沸き起こる軽やかな気分の変化です。黒や白の文字盤では味わえない、ほんのりとした高揚感が一日中続いているのが不思議です。このデニムブルーは、日常に小さな彩りと品格を添えてくれる、抜群のカラーチョイスだと思います。
現代の加工技術により蘇る1930年代の職人技
文字盤の作り込みの素晴らしさにも言及させてください。まず、時刻の判読性が驚くほど高いことに感動しました。一瞬で、時・分・秒がアタマの中に入ってきます。分針の先端がミニッツトラックまでしっかりと届いていて、同様に秒針がセコンドトラックに届き切っているからこそ、目線が迷うことなく針先のインデックスへと向くのです。これはセクターダイアルという伝統デザインの素晴らしさの勝利ですが、もうひとつ重要な要素として、このダイアルの加工精度の高さを指摘したいと思います。
分針も秒針も、それぞれのインデックスに届いています。しかも針先がわずかに曲がり、文字盤のカーブに沿っています
大事なことなので、繰り返します。ここがこの時計の真の価値なのですが、昔ながらの仕立てを、まったく手を抜かずに作り上げているのがこの時計の素晴らしさなのです。
かつてセクターダイアルが普及した1930年代は、腕時計がまだまだ高級品だった時代です。誰もが持てる代物ではなく、それゆえに職人が手塩にかけ、丁寧に仕事をして作り上げたものでした。対して現代では、一部そうしたものも残っていますが、レイモンド ウェイルのように、ある程度量産ベースで作っているものは、すべての工程を職人の手作業に頼るわけにはいきません。
そうした状況を踏まえると、俄然、この文字盤の完成度の高さが愛おしくなってきます。現代の機械製造技術と品質管理のもとで、1930年代の職人たちが追求した理想を見事に再現させている。これは単なるレトロオマージュではなく、伝統的な美学を現代の技術で昇華させた“ネオ・ヴィンテージイズム”なのだと捉えます。
iphoneの撮影能力でこんな画像になっていますが、この時の室内は真っ暗。そんな中でも、ルミノヴァはクッキリと時刻表示をアシストします
ドレスウォッチ然としたブレスレットのシルエットに対するこだわり
5連のステンレススティールブレスレットも、文字盤にたがわず上質さを醸し出しています。2列目、4列目の細いコマがポリッシュ仕上げとなっており、2本の縦のラインを強く印象付けます。その他のコマはサテン仕上げなのですが、コマのアールによる光の反射で水平ラインも意識させ、まるで格子模様に映るのです。このルックスの良さが、文字盤の完成度とも共鳴して、時計全体の印象を格段に高めています。
地下鉄の中で、思わずブレスレットが反射する光のコントラストがきれいだなと思ってパチリ。撮影のために光をコントロールせずとも、これほどの質感を見せています。すごいっ
そして手摺りに掴まった自分の腕の裏側を見たときに、このブレスレットのセンスを実感。緩やかなテーパードが“イイもの感”を醸しています
さらにフェイス面の美しさはもちろんですが、腕裏もまた素晴らしいのです。このブレスレットは裏側に向けて自然なテーパードがかかっており、“ラグスポ”モデルのようなしなやかさを演出しています。もちろん幅が細ければ良いというものではありませんが、細身のブレスレットは今現在とても目立つ存在です。なぜなら、ドレスウォッチ的解釈で作られたブレスレットは、まだまだ少数派だからです。超高級ブランドならいざしらず、ブレスレット仕様といえば、まだまだスポーツモデルが主流なのです。
つまりドレスウォッチの品格を持たせつつ、現代的な洗練さをも表現している……、これこそが、レイモンド ウェイルがこのモデルで目指したコンセプトなのだと考えています。言葉にするなら、クラシカル・モダン(古典的であり革新的である)。私の即席造語ですが、この二律背反テーマをこれほど巧みに実現しているモデルは意外と数少ないと思います。
人混みで気にしない。身体感覚と調和する完璧な取り回し
手の上にストンと落ちる感覚。このフィット感が、ちょうどいいと思いました
1週間の着用で最も印象的だったのは、この時計が自分の身体感覚とズレなく追従してくれる快適な装用感です。特に実感したのは、人混みの中を進む際の気遣いが大幅に軽減されることでした。普段、大きめの時計を着用していると、満員電車や狭い通路で無意識に腕の位置を気にしてしまいます。他人にぶつけてしまわないか、時計が何かに引っかからないかという小さな心配が、実は日常的な精神的負担となるのです。
しかし、このモデルを着けていると、そうした心配がほとんどありません。直径35mmというコンパクトなサイズ、厚さ9.18mmという薄さ、そして腕に自然に馴染むフィット感が三位一体となって、まるで時計を着けていることを忘れてしまうような感覚を生み出します。どれかひとつではなく、3つのバランスがとても大事。シャツの袖口からの出し入れもスムーズです。
手首のキュッと細くなっているところにぴったりフィット。だから取り回しがいいのだと感じました
時計が身体の一部として機能することで、着用者はより自然体で過ごせることを改めて実感します。優れた時計が持つべきは、「存在感のなさ」かもしれません。
さて、結論。ミニマルとはケース径に起因するサイズのみならず。ケースの薄さ、ブレスレットのテーパードされたシルエットなどの総合点で伝わってくるものだということを再認識しました。その意味で、この「ミレジム センターセコンド ジャパン リミテッド エディション」は現在のところ、私調べでミニマル部門第一位と考えています。ミレジムは他にもクロノグラフやスモールセコンド付きモデルなどバリエーションがあり、それぞれに良さがあります。でも、小径ミレジムもおすすめです。この可愛らしさ、一度、腕に載せてみれば分かると思います!
ミレジム センターセコンド ジャパン リミテッド エディション Ref.2125-ST-50011、自動巻き(RW4200)、デニムブルーダイヤル、ケース(径35mm、厚さ9.18mm)、ブレスレットはステンレススティール、シースルーバック、5気圧防水。30万8000円
