
ドイツの名門マニュファクチュール、A.ランゲ&ゾーネが、機械式ムーブメントによるデジタル表示式時計「ツァイトヴェルク・デイト」の新作を発表した。今回初めてピンクゴールドケースを採用し、グレーダイヤルとの組み合わせで温かみのあるエレガンスを演出。瞬転デジタル時刻表示とリング状日付表示を備えたこのタイムピースは、伝統的な時計作りと現代感覚を高次元で融合させ、ラグジュアリーウォッチの新たな可能性を示唆している。
デジタル表示式という革新コンセプトの時計史上における意義
A.ランゲ&ゾーネというドイツ・グラスヒュッテの名門マニュファクチュールは、時計産業において特別な地位を占めている。1845年にフェルディナント・アドルフ・ランゲによって設立されたこのブランドは、一度は歴史の波に飲まれて消滅したものの、1990年に劇的な復活を遂げた。その復活劇そのものが、ブランドの持つ革新性と伝統への敬意を象徴している。
時刻は3枚のディスクを駆使して、デジタル表示される。この画像では7時52分を指している
『ツァイトヴェルク』が2009年に初めて発表された際、時計界は驚愕した。腕時計という小さな機械でありながら、時刻をデジタル表示する発想は、当時としては極めて前衛的であった。しかも、その開発背景には、ドレスデンのデンパー歌劇場のデジタル表示式壁時計があった。どの客席からも時刻が見やすいようにと開発されたそのクロックは、デジタル表示式(※)だったのだ。
※5分に1回稼働する5分時計
2019年には、革新コンセプトにさらなる機能性が加わった。リング状の日付表示を備えた「ツァイトヴェルク・デイト」の登場である。ダイヤルを囲むガラス製の日付リングには1から31までの数字がプリントされており、小さな赤色のセグメントが現在の日付を示す。深夜12時になると、3つの瞬転式数字ディスクと日付リングが同時に切り替わるが、その瞬間は、まさに機械式時計の醍醐味である。それぞれが精確なタイミングで物理的に動く様は、液晶ディスプレイにはない説得力がある。
文字盤外周部分の赤色で記された数字で日付を表示。この画像では12日を指している
今回のピンクゴールドモデルは、技術的完成度の高いコンセプトに、より洗練された美的要素を加えたものだ。ピンクゴールドの温かみのある色調は、グレーダイヤルとの組み合わせによって、エレガントでありながらモダンな印象を醸し出している。この配色は、特に日本人の肌色との調和が良く、ビジネスシーンからカジュアルな装いまで、幅広いスタイリングに対応できる汎用性を持っている。
ケースサイズは直径44.2mm、厚さ12.3mmという存在感のある仕様でありながら、ピンクゴールドの柔らかな印象が、その大きさを威圧的に感じさせない点も素晴らしい。これは、現代のファッションにおいて重要な要素である「存在感はあるが主張しすぎない」という理想的な腕時計の在り方に則ったものだ。
ムーブメントのパーツ一つひとつが圧倒的な美しさ。この完璧な職人仕事がA.ランゲ&ゾーネらしさだ
サファイアクリスタル製のケースバックからは、516個の部品から成る自社製キャリバーL043.8の精巧な仕上げを観察することができる。ブランド名がエングレービングされたサンバースト仕上げの角穴車や、精確な動力制御を実現する脱進機など、技術的かつ審美的な特徴が随所に散りばめられている。これらの要素は、時計を単なる時刻表示器具ではなく、“機械芸術”として位置づけるものだ。
手巻きキャリバーによる72時間のパワーリザーブは、実用性の観点からも評価できる。1分ごとに大きな数字板を駆動させながら、3針モデル並みの動力維持が実現されているからだ。この美点は、毎時1万8000回振動(2.5ヘルツ)という比較的低い振動数と、安定した動力制御メカニズムに起因する。
『ツァイトヴェルク・デイト』は、従来の時計観念を覆すだけでなく、現代のラグジュアリーウオッチの新たな可能性を提示している。それは、最高級の時計作りの技術をベースとしながらも実用性を担保するという、高級時計の理想形を実現しているからだ。モダンなソフトスーツに合わせる「ツァイトベルク・デイト」、そんなスタイリッシュなコーディネイトは、格別な気品を漂わせるに違いない。
ツァイトヴェルグ・デイト Ref.148.033、手巻き、18Kピンクゴールドケース(径44.2mm、厚さ12.3mm)。手縫いのアリゲーターストラップ、18Kピンクゴールド製のピンバックル、3気圧防水。価格は要問い合わせ
