
時計製造における高度な技術力を誇るIWCシャフハウゼンが、また傑作を世に送り出した。100本限定生産の「ポルトギーゼ・トゥールビヨン・レトログラード・クロノグラフ」は、3つの複雑機構を一つの時計に融合させた技術の結晶である。このモデルは、単なる時間計測器を超えた、現代の機械式時計が到達し得るモダニズムの境地を示している。
黒曜石の美しさを再現したオブシディアンカラー文字盤
まず目を奪われるのは、オブシディアンカラーと名付けられた文字盤の圧倒的な存在感である。オブシディアンとは火山活動によって生成される天然ガラス、いわゆる黒曜石のことで、その深い黒色は単なる色彩を超えた神秘性を備えている。
IWCの職人たちは、この自然美を時計の文字盤に昇華させるため、驚くべき製造手法を開発した。透明ラッカーを15層にも重ねる技法により、まるで3次元のような立体感と奥行きを実現したのだ。光の角度によって表情を変える文字盤は、着用者の腕の動きに合わせて生き生きとした存在感を放つ。この視覚的な魅力は、現代のファッションシーンにおいて、時計がアクセサリーとしての価値を持つことを改めて証明するものとなるに違いない。
そしてゴールドプレートが施された針とゴールド無垢のアプライド・インデックスが、この深い黒の海に浮かぶ星座のように配されている。43.5mmというケースサイズは、現代の男性の腕にフィットする絶妙なバランスを保ちながら、3つの複雑機構を美しく配置するために必要な空間を確保している。
3つの複雑機構が織りなす技術の饗宴
さらに、この時計の真価は3つの複雑機構の融合にある。まず6時位置に配されたフライング・ミニッツ・トゥールビヨンは、総重量わずか0.675グラム、56個のパーツで構成される精密機械の極致である。1分間に1回転するこの機構は、重力の影響を軽減し、より正確な歩度を実現する。アンクルとガンギ車には最新のシリコン素材を採用し、IWC独自のダイヤモンド・シェル・テクノロジーによるコーティングが施されている。これにより摩擦が大幅に低減され、68時間という驚異的なパワーリザーブを実現するのだ。
『ポルトギーゼ・トゥールビヨン・レトログラード・クロノグラフ』 自動巻き、フライングトゥールビヨン、レトログラード式デイト表示、フライバッククロノグラフ、18Kアーマーゴールド(R)ケース(径43.5mm)、シースルーバック、アリゲーターストラップ、2309万4500円、世界限定100本
9時位置のレトログラード式日付表示は、小さな針がアーチ型の目盛りで現在の日付を指し示し、月末に達すると針がスタート位置にジャンプして戻る。この瞬間的な動作は、時計愛好家にとって何度見ても飽きることのない魅力を宿すものだ。そして12時位置には、フライバック・クロノグラフの積算計が配されている。この機能により、クロノグラフ作動中でも瞬時にリセットと再スタートが可能となり、正確な時間計測を求めるニーズにも完璧に対応する。
ケースには、IWC独自の18ct Armor Gold®を採用した。この素材は、改良された微細な構造により、従来のゴールド合金よりも格段に高い硬度を実現するものである。しかも日常的な使用における傷や摩耗に対する耐性を飛躍的に向上させながら、ゴールドの持つ高級感と美しさを保持しているところが素晴らしい。
そしてストラップには、イタリアの高級レザーブランドであるサントーニ社製のブラックアリゲーターストラップが今回も採用されている。IWCとサントーニとの華麗なるコラボレーションは、このモデルでも健在だ。このストラップは、時計全体の洗練されたデザインを補完し、フォーマルなビジネスシーンからカジュアルなプライベートまで、あらゆるスタイリングに対応する汎用性を備えている。
ケースバックはシースルー仕様。搭載する複雑機構を視覚的にも楽しめる
サファイアガラスの裏蓋からは、375個もの部品から構成される精巧なキャリバー89900の美しい仕上げを眺めることが可能だ。コート・ド・ジュネーブ装飾とペルラージュ装飾が施されたムーブメントは、機能美と装飾美を両立させた時計製造の最高峰の姿を示している。ゴールド製ローターが静かに回転する様子は、機械式時計の持つ“生命力”を感じさせる。
100本という限定生産数は、この時計が単なる商品ではなく、IWCの技術力と芸術性を証明する記念碑的な存在であることを示すものだ。現代の時計製造技術が到達した頂点を、腕上で体感できる貴重な機会を提供する一本である。
