
1953年製ファーストモデルからすでにハイスペック
1735年、ジャン・ジャック・ブランパンによってスイスのヴェルレに創業したブランパンは、現存する時計ブランドのなかで最古の歴史を持っている。以来、290年もの間、つねに最新の技術を模索し、独自の時計づくりを行なってきた。
その長い歴史の中には、名作と呼ばれるモデルもいくつか製作されている。そのひとつが『フィフティ ファゾムズ』である。スゴいモデルであることは、いまから72年も前の1953年に誕生した際、すでに100m近い防水性能、堅牢性、耐磁性、視認性、回転ベゼルなど、現代のダイバーズウォッチに不可欠とされる機能がほぼ備えられていたことでもよくわかる。
この傑作ダイバーズの名を一躍有名にしたのは、海洋探検家にして映画監督であるジャック=イヴ・クストーである。1956年に公開された記録映画『沈黙の世界(Le Monde du Silence)』において、使用された腕時計が、この『フィフティ ファゾムス』だったのだ。『沈黙の世界』は、この年のカンヌ国際映画祭においてパルムドールを獲得しており、登場人物の手元にも多くの注目が集まったようである。
そのファーストモデルは、フランス軍の特殊潜水部隊のためのダイバーズウォッチだった。逆回転防止付きベゼルを装備し、防水性能はその名が示す通り50ファゾムスであった。ファゾムとはイギリスの水深測定単位で、1ファゾムは約1.8288m。50ファゾムスは約91mということになる。この50ファゾムスというのが当時の潜水夫が圧搾空気タンクで潜れる最大の深度だったという。

フィフティ ファゾムスファミリーを形成する
さらにスゴいのは、耐磁性能も備えていた『フィフティ ファゾムス』に搭載されていた機能は、この約40年後に制定されたダイバーズウォッチの国際規格とほぼ同じだったのだ。つまり、『フィフティ ファゾムス』は当時としては異例のハイスペックモデルだったということになる。
そしてブランパンが『フィフティ ファゾムス』の最新作として登場させたのが、38㎜径のモデルだった。このモデルは、2024年に発表された42㎜のチタンおよびRGケースのモデル、今年1月に登場したSS、そして2007年に発表された45㎜バージョンとともに“フィフティ ファゾムス”ファミリーを形成する。

そして、ブランパンは新たに38㎜サイズを実現するにあたり、ケースをたんに縮小するのではなく、プロポーション全体を見直し、再設計したという。ケース厚も12㎜に抑えられ、ラグ幅も21.5㎜から19㎜へとスリムすることで、バランスの取れたプロポーションに仕上げられているのだ。また逆回転防止サファイアベゼルには、ダイヤルカラーと統一されたカラーリングが施されている。
デザイン的にはファミリーというだけあって、サイズこそ違えど3サイズともよく似ている。文字盤には夜光塗料が施されたアプライド仕様のインデックス、12、3、6、9時位置といったポイントにはアラビア数字があしらわれており、4時30分位置には文字盤の色に合わせたデイト窓がある。ブラック、ブルーのいずれの文字盤もサンバースト仕上げが施されている。

100時間のパワーリザーブを実現
搭載のCal.1150は、シリコン製ヒゲゼンマイを採用した自動巻きムーブメント。シリコン仕様もあり高い耐磁性を実現しているほか、直列に連結されたツインバレルにより100時間のパワーリザーブを実現している。そして、ケースバックはシースルーになっており、その精緻な動きを見ることができるのだが、ここにも見どころが。ローターが1953年モデルの意匠を再現したものなのだ。NAC処理によるマットな質感ながら、そのエッジや文字部分はあえて18Kレッドゴールドの素地を露出させており、レトロでリッチな雰囲気を演出しているのだ。
これまで『フィフティ ファゾムス』は、40㎜を下回る小径ケースを製作してこなかったが、ここへきて市場のニーズに応えるがごとく38㎜ケースを出してきた。
これによって、視認性を追求した本格ダイバー向けの45㎜、ダイバーズウォッチとしてもっとも汎用性の高そうな42㎜、そして、ヴィンテージのような装着感を求める人や小振りな時計が好きな人に向けた38㎜。さらに38㎜は近年大きめのサイズを着用しはじめた女性にも着用可能な大きさである。
『フィフティ ファゾムス』は3サイズが揃ったことで、より多くの人に楽しんでもらえるラインナップになったといえるだろう。