数量限定の新作が登場

「そろそろ1本、いい腕時計が欲しいんですけど、どのモデルがいいですか?」

仕事柄、腕時計に触れることの多い筆者に、このような質問をしてくる人がたまにいる。そういうとき、決まって「セイコーのプレサージュ」と答えるようにしている。

なぜなら、シンプルで誰が見ても納得できるデザインと機能、さらには低価格。何をもって低価格というのかは個人差があると思うが、とにかく『プレサージュ』はコストパフォーマンスがいい腕時計である。

そんな『プレサージュ』に、この春、数量限定の新作が登場した。

そのモデルは、文字盤に有田焼の「無釉」を採用している。そもそも文字盤に有田焼を使用して26万円台というのも考えられない話である。

セイコー『プレサージュ クラフツマンシップ 有田焼「無釉」ダイヤル 限定モデル』 自動巻き(Cal.6R5)、ステンレススティールケース、40.6㎜径 26万4000円(世界限定1200本〈国内300本〉)

有田焼は日本初の磁器として17世紀初頭に生まれている。それ以来、有田焼の職人技は400年以上にわたり受け継がれ、独自の芸術性が多くの人を魅了し続けている。なかでもこの度の新作は「無釉」である。

一般的な有田焼は、ガラス質となる釉薬をかけて焼くことで滑らかな光沢を有するのだが、今回は釉薬をかけない無釉の技法を採用している。それによって陶石本来のマットで温かみのある風合いを再現するとともに、無釉ならではの切り立った稜線を実現している。

磁気素材としては従来の4倍以上の強度

そして、そこに記されているのは、古来より縁起のよいとされる吉祥文様。子孫繁栄や無病息災への願いが込められた文様を現代風にアレンジして施すことで、文字盤は繊細な表情となる。そこにゴールドの針とインデックスが加わることで、美しく、高級感をも生み出している。またこれによって、磁気素材としては従来の4倍以上の強度を持つに至っているのだ。

この無釉だが、佐賀県窯業技術センターが開発した機能性陶土を用いることで汚れが付着しにくく品質改善され、近年、デザイン性の高い新しい表現方法として確立された技法だ。このモデルの無釉は、創業190年以上の老舗「しん窯」に所属する陶工、橋口博之氏監修のもと、その技術を継承した川口敏明氏と有田職人たちによって製作されたものである。

有田焼ダイヤルは、高精度に加工された石膏型による鋳込み工程を経て、1300℃の高温で焼成するなど、難易度の高いプロセスを経て完成する逸品。熟練の職人たちの手がないと生み出せないのは明白である。

国連が定めるSDGsの目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)を念頭に、時計の文化の継承と技能技術の伝承に取り組んでいるセイコーならではの1本。これだけの技術が詰まっていて、この価格。買いだと思う。