ラグジュアリー日本酒ブランド SAKE HUNDREDが世界的ポップアーティスト ロメロ・ブリットとのコラボレーションによるアートピースと言うべき特別な『百光』を発売した。1ボックス100万円(税別)で100セット限定だ。

百光 ROMERO BRITTO - Hokusai Edition -

SAKE HUNDRED×ロメロ・ブリット

ロメロ・ブリット。美術館やギャラリーに飾られるような独立した作品ばかりではなく、ディズニーやアップル、コカ・コーラ、ウブロ、BMW、ロールス・ロイスといった数々のブランドとのコラボレーションでも知られるアーティストだ。2010年、2014年のFIFAワール ド・カップや2012年、2016年のオリンピックのオフィシャル・ポスター・アートなども手掛けているので、彼の名前を知らなくても作品を目にした人は多いとおもう。

ロメロ・ブリット「PARADISE」

作品の特徴は『希望』や『幸せ』をテーマとしたポジティブさ。ロメロ・ブリットはブラジルの貧しい環境で生まれ育った人物であり、だからこそ、世の中にポジティブな変革を生み出すことがアーティストの使命と考えているという。

ロメロ・ブリット「THOMAS COLLECTION (GIRAFFE)」ハートマークはロメロ・ブリットの代表的なアイコン

アーティストとして成功した現在は250以上の慈善団体と活動をともにしている慈善事業家でもある。本人は誰に対しも分け隔てなく優しく真摯に接する人物で、そんな彼をヒーローと称する人もいる。

さて、そのロメロ・ブリット。有名になったきっかけは1999年に、ウォッカブランド「アブソリュート」のAbsolut Artに選出されたことなのだそうだ。これはアンディ・ウォーホールやキース・へリングも選出された企画だ。

なんだかちょっと遠いところにボールを投げてしまったような気もするけれど、そんな逸話もあるロメロ・ブリットと酒との最新コラボレーションがここ、日本で実現した。コラボ相手は、日本酒ラグジュアリーブランドSAKE HUNDRED。

コラボレーションの経緯をたずねてみたところ、ロメロ・ブリットは日本好きで、2024年、来日していた際にプレゼントでSAKE HUNDREDの『百光』をもらい、これに「こんな日本酒があったのか!」といたく感激したのがきっかけとのこと。アーティスト本人の証言を引用すると……

「(『百光』は)本当に感動的で、⾔葉では表せないほど素晴らしい体験でした。⾃分のアートに触れた⼈々が「⼼に残った」と⾔ってくれる時の嬉しさと、まったく同じ感動を『百光』で感じたんです」

これを聞きつけたSAKE HUNDREDの創始者、生駒龍史さんはロメロ・ブリットにコンタクトを取り、かくしてこのコラボレーション企画はスタートしたのだという。

今年4月に初対面した際の生駒龍史さん(左)とロメロ・ブリットさん(右)

生駒さんは「SAKE HUNDREDのラベルは基本的に白だけれど、これをキャンバスに見立ててくれるアーティストがいたら素晴らしいな、という夢があった」という。そんなところでのロメロ・ブリットの登場だったようだ。

ロメロ・ブリットと『百光 ROMERO BRITTO - Hokusai Edition -』

こうしてスタートしたコラボレーションによって完成したのが世界でたった100セットだけの特別なSAKE HUNDREDの商品。

ロメロ・ブリットの代表作のひとつ葛飾北斎の「富嶽三⼗六景 神奈川沖浪裏」をモチーフとした「THE GREATEST WAVE」がアレンジされ、それが特別な「百光」のラベルと、750mlボトルなら2~3本入りそうなボックスに描かれた。

元となった「THE GREATEST WAVE」
百光 ROMERO BRITTO - Hokusai Edition -ではアレンジが加わっているのがおわかりいただけるだろうか……

このボックスには特別な『百光』と、額装されたラベル、そしてロメロ・ブリット直筆サイン入りのギャランティーカードが入っている。さらに、購入者特典として2026年夏に予定されているSAKE HUNDREDブランドの日本酒をペアリングする特別なディナーへのペアでの招待がついてくる。

『百光』は2020年ヴィンテージ

こんなアートピースともいうべきボックスに入る『百光』はもちろん、通常の『百光』とはちょっと違う。これは2020年の米で造られた『百光』をSAKE HUNDREDが保存していたものだ。いわゆる低温熟成の日本酒なのだけれど、保存方法は酒にほとんど変化が起こらない氷温(氷点下)で保存したのちに、氷温よりは熟成が促される5℃以下の低温で保存する、というものだそうだ。結果的に『百光』ならではの透明感を保ちながら、熟成による深みと複雑性を獲得しているとのことなのだけれど、果たしてこれがどんな味わいなのかは、手に入れた人のお楽しみ。私もさすがに頂いていません。

いずれにしても、以前、オートグラフでも伝えた通り、現在の『百光』は特別栽培米の「雪女神」を使ったバージョン2とでもいうべきもの。しかし、今回は2020年の米で造られた『百光』なので有機栽培米の「出羽燦々」を使ったバージョン1だ。その選択もアートっぽいな、とおもう。

なぜならアートも酒も、造り手の息づかい、四肢の動き、その時の自然が見せた諸相……誰かが残そうとしなければ失われて、二度と再び返らない時を形にするものだからだ。私たちはアートによって、酒によって、10年、100年、1000年、1万年の昔にこの地球に生きた生命と出会うことができる。酒に1000年、1万年は厳しいかもしれないけれど、ついこの間、私が出会ったワインメーカーは「うちのセラーには1904年のワインが、ちゃんと飲める状態で残っている」と言っていた。1760年創業のこのワイナリーは120年前の作品を味わうことで、自分たちのワイン造りの魂を受け継いでいるのだ。

ワインの話でついでに言えば、世界的に名の知れた高級なワインの造り手で、アーティストとのコラボレーションをしていない造り手のほうが珍しい、というのも酒とアートの親和性の証拠になるかもしれない。ぱっといま私が思いつくだけでも、スーパータスカンのオルネッライア、シャンパーニュメゾンのポメリー、ルイナール、ペリエ・ジュエ、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、キャンティ・クラシコのカステッロ・ディ・アマ、そして何よりボルドーのトップシャトー ムートン・ロスチャイルド……

まぁたしかに、日本酒はワイン以上にライフタイムが短い、あるいはそれを長くするためにはワイン以上の技術を必要とするかもしれない。とはいえ、以前、生駒さんに聞いた話によると、百光の百、SAKE HUNDREDのHUNDREDには、100年先の未来へ届け、というおもいが込められているのだそうだ。だから、この試みも未来への期待。そのうち、千光とか万光みたいなものも出てくるかもしれない。そのスタート地点にロメロ・ブリットという明るい作者の作品がある。このロメロ・ブリットのポジティブさは、おそらくは千年でも万年でも、彼の作品とともに生き残っていくはずなのだ。