テンタグラフを載せた実用時計

 グランドセイコーに機械式クロノグラフムーブメント搭載モデルが登場したのが2023年のこと。「テンタグラフ」という聞き慣れない名称のムーブメントCal.9SC5も相まって、時計界では大きな話題となった。

 そのテンタグラフだが、こういう機構があるわけではなくセイコーが独自につくり出した単語であった。確認すると「テン(TEN)」は10振動のこと。「タ(TA)」はスリーデイズ(3日巻き)のTとオートマティックAを表わしている。続く「グラフ(GRAPH)」はそのままクロノグラフである。

 つまり、毎秒10振動、3日巻パワーリザーブの自動巻きクロノグラフということだ。高振動の精度と金曜の夜に時計を外しても翌週月曜も動いているというロングパワーリザーブを擁した実用性の高いクロノグラフということだ。

 

 そして今年登場した新作は、グランドセイコーのシンボルである獅子をモチーフとした外装に、その「テンタグラフ」を搭載させたモデル『スポーツコレクション Tokyo Lion Tentagraph』なのである。

スポーツコレクション Tokyo Lion Tentagraph 自動巻き(Cal.9SC5)、ブリリアントハードチタンケース、43㎜径 231万円

ダイナミックで力強いフォルム

 獅子をモチーフにし、その力強い爪から着想を得たというだけあってケースフォルムはダイナミックで力強い。それは金属の塊を削ぎ落としたかのような大胆な造形で、ケースの四隅をヘアラインにすることでポリッシュ面とのコントラストが生まれ、まるで獅子が腕をしっかりつかむような形状に仕上がっている。

 ダイナミックといえば、プッシュボタンが大ぶりで個性的な形状をしていることも大きな特徴だ。それはたんなるスポーティさの追求だけではなく、確実性を重視したセイコーらしい選択である。

 また文字盤は獅子のたてがみが風になびく姿にインスピレーションを得た、「風靡(ふうび)」という有機的な模様がデザインされている。これもケースに合わせるかのように男っぽい。

 さらに、3時・6時・9時位置の3つのサブダイヤルには、別体パーツを採用。多彩で変化に富んだ表情なのだが、ここは椀状となっており、針と目盛りの距離が近く計測結果が読み取りやすい。インデックスもダイヤカットが施さた多面体なので、判読性がさらに高められている。

 ケース素材はブリリアントチタン製。軽量であり、ステンレススティールの約2倍という表面硬度を誇る。シリコンストラップの2倍以上の引っ張り強度を持つという独自のラバーストラップと、緩やかにカーブする裏ぶたと内巻きのバックルの組み合わせは、快適な着け心地を実現してくれるだろう。

 2017年のブランド化以降、新機軸を打ち出しているグランドセイコーのまた新しい可能性を見せてくれるスポーツウォッチである。