3つの“マスター”コレクションのひとつ

 オメガにはマスターという名がついたプロフェッショナルラインといわれるコレクションが存在する。レーシングドライバーのための『スピードマスター』、ダイバー仕様の『シーマスター』、そして、鉄道員のために製作された『レイルマスター』である。ここに登場する『レイルマスター』は『スピードマスター』等と同じ1957年に誕生している。

 50年代当時の鉄道は、現在よりも重要な交通手段。一分一秒を争う輸送現場で使われる時計は正確で視認性が良いことが求められた。ただ、1900年代の半ばのアメリカやカナダの鉄道は電気式ディーゼル機関車だったので、職場は磁気が非常に強いところだった。なので、鉄道院はその影響による時間の狂いに悩まされていた。当時の腕時計の標準はどんなに耐磁性があるものも、耐えられるのは60ガウス前後まで、というものだったからだ。

 それを解決に導いたのが、『レイルマスター』なのだ。それは1,000ガウス以上の耐磁性を備えるハイスペックモデルだった。鉄道時計では視認性の良さが重要ということもあって、クロノグラフやパワーリザーブといった機能を省いた3針モデルで、シンプルなデザインの腕時計となっている。

 この『レイルマスター』の原型は、英国空軍用のミリタリーウォッチといわれている。航空機内で必ず発生する磁気の影響を受けない腕時計を、と英国から依頼を受けて製作している。その発展系が『レイルマスター』のベースとなっているのだ。

 多くの腕時計、トレンチコートなどをはじめ、機能的なアイテムは戦争時に生まれるといわれているが、この『レイルマスター』もそのうちのひとつということになる。

2003年に復活!

 ただ、この時代の『レイルマスター』は、『スピードマスター』『シーマスター』のような人気を博したロングセラーと違い、57年から61年までという、たった5年だけの短命に終わっている。

 それでも2003年に復活し、以降、何度かローンチされている。なかでも2017年に『スピードマスター』『シーマスター』とともに3つのマスターが60周年を迎え、その記念にブランドが“トリロジー”の復刻に取り組んだことは印象深い。

 そんな『レイルマスター』が今年、新しいカラーグラデーションのダイヤルを備えて登場した。もちろん、初代から続くシンプルだが個性的なスタイルは持ち合わせたままに。

 まず、顔となるグレー文字盤は、まさに初代レイルマスターのDNAを受け継いだデザイン。落ち着いたグレーを基調とし、外周部にかけて徐々にブラックへと変化するグラデーションが施されていることで、控えめながらも深みのある表情が生み出されている。

オメガ『レイルマスター』 自動巻き(Cal.8806)、ステンレススティールケース、38㎜径 84万7000円 

 3・6・9・12時位置には見やすいアラビア数字インデックスが、その他の位置にはオメガのアイコンであるくさび型のアワーマーカーが配され、それらにホワイトのスーパールミノバが塗布されている。長針は力強いドルフィン針、短針はアロー型を採用。こちらにもスーパールミノバを塗布されており、受け継がれてきた高い視認性は健在だ。

ハイスペックだがコンパクトに

 この新作、復刻デザインでヴィンテージ感満載ではあるが、全体的にモノトーンで統一されていることで、どこかモダンな表情も感じるのである。気になるケースサイズは直径38㎜、厚さ12.4㎜とコンパクトにまとめられた現代的な大きさもいい。

 それでいて『レイルマスター』の本質でもある高い耐磁性能はさらに進化しており、初代モデルの15倍にあたる1万5000ガウスという驚異的な耐磁性能が保証されているのだ。これによってスマートフォンやPC、タブレットなど、磁気に囲まれた現代社会においても、時計の精度を気にすることなく安心して使用できる。それに150m防水というのだから鬼に金棒である。

 そして、正確性を目的に製作された『レイルマスター』だけに心臓部は気になるのだが、こちらはMETAS(スイス連邦計量・認定局)認定のマスター クロノメーターであるコーアクシャル Cal.8806を搭載。この自動巻きムーブメントは、フリースプラングテンプにシリコン製ヒゲゼンマイを組み合わせることで、約55時間のパワーリザーブを備える。搭載のコーアクシャル脱進機によって、高いメンテナンス性能も持ち合わせている。

 総合すると、美しいデザインに加え、高い視認性、驚異的な耐磁性能、そして信頼の防水性能など、高い完成度を誇る実用時計といえる。新しい『レイルマスター』は、日常生活で気を使わずに高級時計を使用したいという人にとって、間違いなく最適な選択肢のひとつになる。