
10,000rpm
「今日は是非、10,000rpmを体験していってください」
試乗前のブリーフィングでそんなことを言われたのは初めての経験だった。
10,000rpmとは1分間に1万回転する速さのこと。この場合はエンジン回転数を示しているが、単純計算でいえば1秒あたり166回以上の勢いで回っていることになる。それも、ただ真っ直ぐなシャフトが回転しているのではなく、エンジンが生み出すパワーを受けとめるクランクシャフトは複雑に折れ曲がっていて、その先にはコンロッドやピストンが連結されている。それらが毎秒166回の速さで回っている状況は、ちょっと想像しがたいものがある。
そんな、もはや規格外といっても差し支えのないエンジンを積んだ最新スーパースポーツカー、それがランボルギーニ・テメラリオである。
エンジンが高速で回っているときのノイズやバイブレーションは乗員に独特の高揚感をもたらすが、前述のとおり10,000rpmを実現するのは技術的に至難の業。寿命が短くても構わないレーシングエンジンであれば10,000rpmを越えるケースも珍しくはないが、高い信頼性が求められる量産車で最高回転数が10,000rpmを上回るものは例外中の例外で、ランボルギーニのような量産車メーカー(といっても年産1万台をわずかに越える程度)ではおそらく史上初めてのはず。それほど高精度のエンジンが、テメラリオには積まれているのだ。
私も10,000rpmまでエンジンを回した経験はなかったので、千葉県南房総市のMAGARIGAWA CLUBで行われた試乗会で早速、試してみることにした。

800mのストレートで250km/hを超える
日本初のプライベートサーキットとして2023年にオープンした全長3.5kmのドライビングコースには800mもの直線区間がある。そこで2速を保ったままエンジンを引っ張ってみると、テメラリオの4.0リッターV8ツインターボエンジンはいとも簡単に10,000rpmに到達した。その際、エンジンから破滅的な振動が伝わってくることも、断末魔のようなエグゾーストサウンドが聞こえることもなく、まさに楽々と10,000rpmに届いたのである。続いてシフトアップすれば3速でも、さらには4速でも10,000rpmを達成。そのときの車速は250km/hに迫っていたが、そんな車速域までなんの恐怖感を感じることなく到達できることが、テメラリオの第一の特徴といっていい。

前述したV8ツインターボエンジンの最高出力は800ps。これだけでも驚異的なハイパワーだが、プラグインハイブリッド・モデルのテメラリはここに3基のモーターを組み合わせ、システム出力920psを実現している。これだけのパワーがあればこそ、250km/hに苦もなく到達できるのだが、この日インストラクターを務めたプロドライバーのなかには、800mのストレートで300km/hをマークした猛者もいたというのだから驚く。
プラグインハイブリッドシステムが運動性を高める
もっとも、テメラリオの凄さはストレートでの速さだけに留まらない。個人的には、その刺激的なハンドリングにより魅了されたといってもいいくらいだ。

テメラリオのプラグインハイブリッド・システムに3基のモーターが含まれていることは前述のとおり。このうち2基は前輪を駆動、残る1基はエンジンと組み合わされて後輪を駆動したり発電を受け持ったりするが、ここで重要な役割を果たすのはフロントに搭載された2基のモーター。これらは左右輪を独立して駆動することによりトルクベクタリングを実現している点に特徴がある。

トルクベクタリングとは、左右輪の駆動力もしくは制動力に差をつけることで、ステアリングを切らなくてもクルマが曲がろうとするチカラを生み出すシステムのこと。制動力を用いてこれを実現する量産車はいまや少なくないが、駆動力で行うには左右輪に独立してモーターを搭載するか、エンジン車の場合は複雑なメカニズムを設けるしかなく、実用化した例はごく少数。ましてやモーター駆動のトルクベクタリングは、ホンダの2代目NSX、フェラーリSF90/SF90XXやその後継モデルである849テスタロッサ、ランボルギーニから2023年にデビューしたテメラリオの兄貴分にあたるレヴエルトくらいしか量産モデルでは思い浮かばない。
しかも、スーパースポーツカーブランドとしていち早く4WDモデルを投入したランボルギーニには30年以上にわたって4WDを開発してきた技術的蓄積がある。ちなみにテメラリオの先代にあたるウラカンでも4WDとブレーキ・トルクベクタリングを採用したモデルを投入。ドライビングモードを活用することで、圧倒的なトラクション性能を発揮させたり、ド派手なドリフト走行を容易に実現できる能力を手に入れていた。
そうした特性は新型テメラリオにもしっかりと引き継がれていた。

スーパーカーをコントロールせよ!
たとえばサーキット走行向けのコルサ・モードでは、アクセル・レスポンスがより鋭敏になるほか、最高のトラクション性能を引き出すために横滑りを最小限に抑えるようにシステムが作動。コーナーの立ち上がりでは圧倒的な加速感を示してラップタイムの短縮に結びつけていた。

いっぽうのスポルト・モードはドリフト走行を楽しむことに主眼が置かれている。したがって、ある一定以上のペースでコーナーをクリアしたあとで思い切ってアクセル・ペダルを踏み込むと、ほどよい速さでテールが流れ始め、ドライバーはスーパースポーツカーでカウンターステアをあてる快感を味わうことができる。それも実に容易に、そして安心してその境地に到達できるのだ。1000psに迫るモンスターマシンでカウンターステアを決めたときの歓びは、クルマ好きにとって筆舌に尽くしがたいものがある。
つまり高速性能でもハンドリング性能でも圧倒的なポテンシャルを備えたスーパースポーツカーがテメラリオなのである。ランボルギーニ伝統のスタイリングを含め、いまもっとも刺激的なスーパースポーツカーの1台といって間違いないだろう。

全長×全幅×全高:4,706×1,996(2,246)×1,201 mm ()内はミラー含む
ホイールベース 2,658 mm
トレッド:フロント1,722 mm / リア1,670 mm
エンジン:3,995.2cc V8ツインターボ
エンジン最高出力:800PS / 9,000-9,750rpm
エンジン最大トルク:730Nm / 4,000-7,000rpm
モーター最高出力:220kW(約299PS)
システム最高出力 :920PS
トランスミッション:8段デュアルクラッチトランスミッション
乾燥重量:1,690 kg
重量配分:フロント43.4% / リア56.6%
タイヤ:フロント255/35 ZR20 / リア325/30 ZR21
最高速度:343km/h
0-100km/h:2.7秒
100-0km/h:32m
