第7の少量生産(フューオフ)モデル

 ランボルギーニはアメリカで開催中のモントレー・カー・ウィークにてフェノメノという名のフューオフモデルを発表した。

 もともと希少性が高いことで知られるランボルギーニだが、最近は単一モデルの累計生産台数が1万台を越えるケースも少なくない。それに対してフェノメノの販売予定台数は、たったの29台。この29台とは別に、ランボルギーニは社内保存用として1台を生産する計画だが、それにしても合計30台は通常の量産モデルに比べればはるかに少ない数字だ。

 なぜ、ランボルギーニはこのようなフューオフモデルを世に送り出そうとしているのか? ランボルギーニの会長兼CEOのステファン・ヴィンケルマンは、この質問に次のように答えた。

「私たちが初めて手がけたフューオフモデルは2007年に発表したレヴェントンです。当初は自分たちのブランドバリューがどれだけ確立されているかを確認するテストという意味合いがありました。また、お客様からのフィードバックを手に入れたかったことも理由のひとつです」

ランボルギーニ レヴェントン
2007年、当時のV12気筒モデル「ムルシエラゴ」をベースに20台限定で販売された。そのデザインの一部は後の「アヴェンタドール」に引き継がれる

 いまや押しも押されもせぬ存在のランボルギーニからすれば意外ともいえる回答だが、幸いにも第1作目のレヴェントンが成功裏に終わったことからその後もフューオフモデルのプロジェクトを継続。セストエレメント(2010年)、ヴェネーノ(2013年)、チェンテナリオ(2016年)、シアン(2019年)、クンタッチ(2021年)とこれまでほぼ3年に1度のペースでリリースしてきた。今回のフェノメノは、したがってランボルギーニのフューオフとして7作目にあたることになる。

ここでいうクンタッチはランボルギーニ カウンタック LPI 800-4。日本ではCountach(クンタッチ)の英語読み「カウンタック」のほうでむしろ知られる。112台限定生産

ランボルギーニ史上最大のパワーは誰のため?

 発表されたフェノメノは、クンタッチ以降のランボルギーニに共通するウェッジシェイプを採用するいっぽう、エアロダイナミクスを強く意識したデバイスが数多く見受けられ、アグレッシブな印象を与える。そのスタイリングはまるでレーシングカーのようだが、実際には公道も走行可能なロードカーとされている。

「(カタログモデルの)レヴエルトやテメラリオのように、プラグインハイブリッドにしたことで何kmのEV走行が可能になったと声高に主張するモデルではなく、あくまでもパフォーマンスを追求したモデルです」とヴィンケルマン。「0-100km/h加速はわずか2.4秒でクリアし、最高速度は350km/hを越えます」

 フェノメノはフラッグシップモデルのレヴエルトをベースとしながら、そのパワートレインを強化。たとえば、排気量6.5リッターのV12自然吸気エンジンは最高出力が10ps引き上げられて835psを発生する。これはランボルギーニにとって史上最高のエンジンパワーという。これと組み合わされるプラグインハイブリッドシステムは、フロントに2基、リアに1基のモーターを搭載する基本構成はレヴエルトと変わらないものの、こちらは合計で245psを発揮。V12エンジンとあわせて1080psものシステム出力を生み出す。これもレヴエルトの1015psを大幅に凌ぐもので、ランボルギーニ史上最強のパワートレインとの地位は揺るがない。

 価格は300万ユーロ(約5億1000万円)から350万ユーロ(約6億円)にもなるとされるフェノメノ。これほど高価なモデルを購入するのは、いったいどのような顧客なのか? ヴィンケルマンに訊ねた。

「フェノメノを購入するお客様は世界中にいらっしゃいます。幸いにも地域的にもバランスがとれていて、特定の国だけではなく幅広いマーケットで販売される計画です」

 おそらくは、既存のランボルギーニ・オーナーのなかでも特別な上顧客にのみ事前にオファーを出して販売するのだろうが、その詳細は明らかにされていない。

「私たちの大切なビジネスパートナーである正規販売店が世界各国で活動しています。いっぽうで、私たちには非常に透明性の高い(製品の)配分システムがあって、特にロイヤリティが高い大切なお客様に製品を配分するように心がけています。現実には、フェノメノはすでに完売の状態にありますが、どの国で何台を販売したかという詳細については、現時点ではお知らせできません。後日、発表することがあるかもしれませんが、現時点では申し上げられないことをご了承ください」

 安全規制や環境規制の強化にくわえて原価が高騰していることから自動車の価格が右肩上がりで上昇していることは周知のとおり。スーパースポーツカーもその例外ではないものの、彼らのビジネスは全般的に好調で、少なくない数のブランドが過去最高益を上げている。そういったトレンドから見れば、フューオフに代表される「高価格・高付加価値」のビジネスを強化していくのが自然な流れのようにも思えるが、この点をランボルギーニはどのように考えているのか。ヴィンケルマンに訊ねた。

「フューオフ・プログラムは私たちにとって大切なビジネスのひとつですが、企業としての主な収益はウルス、テメラリオ、レヴエルトといったカタログモデルにあって、今後はここに現在開発中の“第4のモデル(ピュアEVの4ドアGTモデルで、2020年代中に発表される計画)”が加わります。いっぽうで、フューオフモデルはブランドのポジションを高めることが最大の目的で、ロイヤリティの高いお客様へのご褒美(ヴィンケルマンは“reward”という言葉を用いた)という意味が含まれています。もちろん、フューオフモデルにはランボルギーニとして大変な労力をかけていますし投資も行っていますが、企業としていちばん重要な活動がカタログモデルの販売であることには変わりありません」

 ちなみに、著名な闘牛の名をモデル名に用いるのがランボルギーニの伝統だが、フェノメノは2002年にメキシコのモレリアで勇敢に戦った闘牛の名前に由来しているという。