大谷 達也:自動車ライター
一度味わったらまた来たくなる!
年末に中国の内モンゴルで開催されたランボルギーニ・エスペリエンザ・ネーヴェ(NEVEはイタリア語で“雪”の意味)に参加した。ランボルギーニの最新モデルを雪上や氷上で操るための、基本的にはランボルギーニ・オーナーに向けたイベントに特別参加させてもらったのである。
ここまでの説明だけでも、皆さんの頭のなかに数多くのクエスチョンマークが浮かんだはず。なかでも最大のものは「なぜ、ランボルギーニを雪や氷のうえで走らせる?」だろう。
ご存知のとおり、雪や氷は舗装路に比べて摩擦係数が低く、このため低い車速域でタイヤのグリップ限界に到達して車両はスライドを始める。それを、様々なテクニックを駆使しながらコントロールするのがたまらなく面白いのだ。いいかえれば、これはランボルギーニでドリフト走行を楽しむためのイベントといえる。
しかも、雪上や氷上のドリフト走行はすべての現象がゆっくりと起きるため、安全なだけでなく、プロドライバー並みのドライビングスキルがなくてもあっという間にドリフト・コントロールの技を習得できるというオマケつき。いかに雪や氷の上とはいえ、ランボルギーニというスーパースポーツカーを征服した歓びは、クルマ好きにとって何ものにもかえがたい価値がある。事実、私と一緒に日本から参加したランボルギーニ・オーナーの皆さんは、口々に「できれば来年も参加したい」と語っていたほどである。
ハイブランドならではのおもてなし
一般的には馴染みのない“内モンゴル”での開催も、参加者にとっては大きなメリットといっていい。
参加者が滞在するのはハイラルという街だが、ここは北京から飛行機で2時間の距離。つまり、乗り換え時間を無視すれば、羽田から6時間ほどで着いてしまうのだ。海外での雪上・氷上イベントといえば、北欧の北極圏に位置するラップランドが有名だけれど、ここまで行こうとすると、どうしても倍の12時間以上はかかる。しかも、内モンゴルと日本の時差が1時間なのに対して、冬のラップランドは日本と8時間の時差。このためラップランドのイベントに参加しようとすれば、少なくとも1日、おそらく2日は余計に休みをとる必要が出てくる。これは務めを持っている人にとって、決定的な違いといっていいだろう。
さらに、ランボルギーニ・エスペリエンザ・ネーヴェが選ぶホテルは5つ星クラスなので快適そのもの。しかも、イベント中はランボルギーニが用意した本格イタリアンが振る舞われる。そのホスピタリティは、まさにインターナショナル・スタンダードであり、ランボルギーニ・スタンダードといっていいだろう。
なお、ランボルギーニ・エスペリエンザ・ネーヴェは内モンゴルだけでなく、年によってイタリアやニュージーランドなどでも実施されてきたが、今回の内モンゴルがあまりに好評だったため、次回も内モンゴルで開催する案が浮上しているそうだ。
複数のランボルギーニで存分に運転を楽しめる
もちろん、肝心の走行プログラムも充実している。
今回のランボルギーニ・エスペリエンザ・ネーヴェは前夜祭も含めると2泊3日の行程で、このうちの2日目と3日目に走行プログラムが設定されているのだが、走行時間は2日間で最大12時間! 2日目の夕方には、陽が沈んでからの「ナイトセッション」まで用意されており、暗闇の氷上コースでランボルギーニをドリフトさせる機会もあった。これまでたくさんの雪上・氷上イベントに参加してきた私にとっても、暗闇の走行はさすがに今回が初めて。それでもヘッドライトの能力が高いためか、なに不自由なく走行できたのは不思議な体験だった。
そして走行中は経験豊かなインストラクターが助手席に腰掛け、的確なアドバイスをしてくれる点も嬉しいポイント。この手のプログラムでは、座学に力を入れるところと実技に力を入れるところに分かれるが、ランボルギーニは完全に後者の部類。やはり百聞は一見にしかずで、実際に運転してみてわかることも多いし、自分のドライビングのどこか正しくてどこが間違っているかを、運転している最中に教えてもらうのがいちばん手っ取り早い。しかも、ランボルギーニのインストラクターは長々と話をしたりせず、ポイントを抑えたアドバイスを簡潔に説明してくれるので、理解しやすく、また上達のスピードも速いように思われた。
もうひとつ、多彩なモデルが用意されていて、とっかえひっかえ乗り換えられるところもランボルギーニ・エスペリエンザ・ネーヴェの魅力といえる。それも、フラッグシップモデルであるレヴエルトを筆頭に、ウラカンはステラートとテクニカ、ウルスはペルフォルマンテとSの計5モデルをラインナップ。そのうちの2〜3台を、ひとつの走行メニュー内で乗り換えられるので、ハンドリングの違いを直接比較できるのである。
たとえば、エンジンをフロントに積む4輪駆動のウルスSとウルス・ペルフォルマンテが安定志向の強いアンダーステアを示すのは当然ながら、エンジンをミドシップする4輪駆動のウラカン・ステラートが2台を上回るほど明確なアンダーステアに躾けられていたのには驚いた。
同じミドシップの4輪駆動でもハイブリッドシステムを搭載したレヴエルトはニュートラルステアに近く、乱暴にアクセルペダルを扱うと1000psオーバーのパワーが炸裂するためスピンさせるのは簡単。
ただし、たとえスピンしそうになっても、ステアリングで行きたい方向を目指し、そっとアクセルペダルを踏み続けると、前輪が進行方向に向けてクルマを引っ張ってくれる格好となり、スピンを防止できる点は興味深かった。
残るウラカン・テクニカはミドシップの後輪駆動のため、リアがスライドし始めたら間髪入れずにカウンターステアをあてる必要がある。
もっとも、私自身は無意識のうちにカウンターステアをあてるクセがついているおかげで、むしろこのほうが扱い易いと感じたくらい。反対に、アンダーステア傾向の強いウルスやウラカン・ステラートは、テールが流れ始めてもしばらくは曲がりたい方向にステアリングを切り続けなければいけないのだが、私は反射神経的にカウンターステアをあててしまうせいで、走行ラインがアウト側に膨らんでインにつけなくなってしまう。この切り替えが、なかなかできずに苦労した。
いずれにせよ、ランボルギーニのハンドリングを、これほど手軽に感じ取れる機会は滅多にない。日本からの参加者が揃って「できれば来年も参加したい」とコメントしていたのも無理からぬことだろう。