大谷 達也:自動車ライター

XXの故郷・フィオラノにて

「公道も走れる初のXXモデル」と銘打たれたSF90XXストラダーレ(以下、SF90XXと記す)の国際試乗会は、フェラーリのテストコースであるフィオラノ・サーキットで行なわれた。

 もともと“XX”の名は、サーキット専用モデルだけに与えられた特別な称号。これを公道走行可能とした点にSF90XXの最大の特徴はあるのだが、その“本籍地”がサーキットであることに変わりない。試乗会の舞台がフィオラノのみとされたのも、このためだろう。

 試乗会当日の路面は、前夜まで降り続いた雨のおかげで朝のうちは完全なウェットだったが、午後に向けて徐々に乾いていった。もしも、これがレースだったらあまり嬉しくないコンディションだが、クルマのキャラクターを見極めるのが目的の試乗会であれば、様々なコンディションのもとで試せるので、むしろ好ましいともいえる。私は、大きな期待を抱いてイベントに臨んだ。

いざ、コースイン

比べものにならないほどの進歩

 フィオラノを走り始めてただちに感じたのは、SF90XXがタイヤの接地状態をドライバーにわかりやすく伝えてくれるスーパースポーツカーであることだった。たとえば加速で駆動輪がスリップしかけるとか、ハードコーナリングで前輪がアウトに逃げ出しそうになる兆候を、このクルマはステアリングやシートの微細な振動としてその様子を知らせてくれる。したがってドライバーは、自分がクルマの限界にどれくらい近づいているかをはっきりと認識したうえで、サーキットを走ることができるのだ。


 これをたとえていえば、次のようになる。

 もしも、初めて泊まるホテルの部屋で照明が点かずに真っ暗だったら、どこに家具や壁があるのかわからず、文字どおり手探りで行動しなければならない。きっと、動作はゆっくりとしたものとなるだろう。

 では、灯りがついてすべてがくっきりと見えるようになったらどうか。どこになにがあるかが把握できているので、機敏な行動が可能になるはずだ。

 クルマの限界がわかりやすいというのは、この灯りが点いた状態と似ている。どこに家具があるのか、壁があるのかが事前にわかっているので、そこまでは素早くアプローチできるし、安心して行動できる。照明がついていない状態とは、大違いだ。

 私が経験した範囲でいえば、10年近く前のフェラーリのなかには限界を伝えるインフォメーションが乏しいモデルが少なからずあった。それが、ここ数年は状況が改善され、2019年に発表されたF8トリブートはかなり自信を持ってドライブすることができた。しかし、SF90XXが到達したレベルは、F8トリブートとは比べものにならないほど高い。たとえば、F8トリブートが限界の95%まで近づいたところでインフォメーションを伝えてくれるとしたら、SF90XXは80%くらいから予兆が感じられるように思えたほどだった。

 これが、チョイ濡れのコンディションでバツグンの安心感をもたらしてくれた。