大谷 達也:自動車ライター

ドルチェヴィータなフェラーリ

 2019年に行なわれたフェラーリ・ローマの発表会は、私が知る限り、それまでに行なわれたフェラーリのどんな発表会とも異なるものだった。

 会場の後方には巨大なバーカウンターが設けられ、その向かい側には、華麗なショーが繰り広げられそうなステージが用意されている。そして発表会が始まるまで、そのステージには1960年代に撮影されたと思しき大都会のナイトライフが、やや退廃的なムードとともに映し出されていた。

Ferrari Roma

 F1を始めとするモータースポーツのイメージを引用するいつものフェラーリの発表会とは、まるで趣が異なっているといって差し支えない。

 それもそのはず、このイベントには「LA NUOVA DOLCE VITA(新しい甘い生活)」とのサブタイトルがつけられていたのだ。

「甘い生活」は、1960年に公開されたフェデリコ・フェリーニ監督の作品。つまり、ローマを舞台とした上流階級の退廃的な暮らしぶりを描いた映画の、いわば現代版がフェラーリ・ローマのコンセプトと解釈できることになる。

Ferrari Roma

 もっとも、フェラーリ側に「退廃的」であることを強調する意図はなかったはずで、それよりも映画で描かれた都会的で洗練されたライフスタイルにマッチしたスポーツカーとしてローマは企画されたと捉えるべきだろう。

 クラシカルとも受け取れる伸びやかで美しいラインがローマに用いられたのは、このため。なるほど、1960年代に登場したフェラーリ・ロードカーのエレガントな美しさを現代に再現しているといっていい仕上がりだ。そして、フェラーリはモータースポーツだけに根ざしているのではなく、都会的なライフスタイルにマッチするモデルも長年手がけてきたスポーツカーメーカーであることに、このとき改めて気付いたのである。

ローマの方向性はいかがなものか?

 シートレイアウトの「2+」という表現は、「後席はエマージェンシー用」とされる2+2より、さらに後席スペースが限られていることを意味する造語。それでも後席があれば、手持ちのハンドバッグやコートを投げ入れることもできる。都会派ユーザーの使い勝手を考慮したキャビンといえる。

 エンジンは定番のV8 3.9リッター・ツインターボエンジンを搭載。その最高出力を620psと定めたのは、「フェラーリを名乗るからには、それに相応しいパフォーマンスを備えていなければいけない」という誇りと、「そもそものコンセプトを考えれば、最高出力よりも扱いやすさや静粛性を確保する必要がある」という配慮の、両面から決まったギリギリの線だったと推察される。

 サスペンションの設定についても、これと同様の葛藤があったはず。ところが、完成したローマにいざ試乗してみると、私が個人的に期待していた線よりも、乗り心地はわずかに硬めに感じられたのである。おかげで機敏なコーナーリングが味わえたのも事実だが、バランスとしては、もう少し快適性重視でもよかったのではないかというのが私自身の感想だった。

Ferrari Roma

 同様のことはエンジン音についてもいえて、張りのあるV8サウンドがストレートにキャビンまで侵入してくる。これも、ローマのコンセプトを考えると「いかがなものか?」と感じた次第である。

フェラーリはソフトトップのローマをどう仕上げた?

 ローマの初試乗から2年半が経過した今年、ローマ・スパイダーが発表になった。ローマのコンバーティブル版である。その特徴のひとつは、この手のモデルによくあるメタルハードトップではなく、キャンバス製のソフトトップを採用した点。

フロントエンジン、リアドライブのフェラーリにてソフトトップが採用されたのは1969年の『365 GT4』以来、実に54年ぶりのこと

考えてみれば、1960年にはまだ金属製ルーフを持つコンバーティブルモデルなど存在しなかったはずだから、このほうが“時代考証的”には正しいことになる。しかも、ソフトトップでは実現が難しいとされる繊細な曲線も見事に表現されていて、見ためとしても美しい。私はがぜん、ローマ・スパイダーに興味を抱いた。

 去る9月にイタリア・サルディーニャ島で行なわれたローマ・スパイダーの国際試乗会では、その魅力を存分に堪能することができた。

 まずはコンバーティブル化に伴うボディ剛性の低下だが、最近のラグジュアリーカーの多くがそうであるのと同じように、少なくともハンドリングや乗り心地に悪影響を及ぼすということはない。しっかりとしたボディ剛性をベースにして、4輪のサスペンションが精度よく作動していることが、その操縦性や快適性からはっきりと確認できた。

 それどころか、路面からゴツゴツというショックを伝えにくいという点では、ローマよりもローマ・スパイダーのほうが優れているくらいだ。そして、これが快適性の印象に対して決定的といっていい影響を及ぼしていた。これだったら、ロングドライブもまるで苦にならないはずだ。

 エンジン音も、私にはローマよりも少し軽めに感じられた。それは音量だけでなく音質についても同様で、ローマでは「ボロロロロロ」と聞こえていたものが、ローマ・スパイダーでは「パパパパパパ」とでもたとえたくなるような音に変わっていたのだ。

 ソフトトップのデザインは3次元的な曲線が見事に表現されているうえ、後端がきゅっと絞られていて軽快感を加えている。実は、このソフトトップのデザインにあわせて、リアフェンダーやトランクリッド周りのデザインにも、ほとんどわからない程度に微調整が施されたというから芸が細かい。

 総じて、コンバーティブル化によって失ったものはなきに等しく、そのいっぽうで乗り心地がより洗練され、デザイン的にもスタイリッシュさを増したローマ・スパイダーは、ある意味でローマ以上にローマのコンセプトを忠実に実現しているように思える。その意味では、ローマ・スパイダーこそが「ローマの完成形」ともいえるだろう。