取材・文=岡本ジュン 撮影=村川荘兵衛

香り豊かな十割の粗挽きそばとモダンな蕎麦前でくつろぐ
京都は蕎麦よりうどんのイメージが強い。ここのところ手打ち蕎麦の店が増えてきたが、今から20年ほど前はまだまだ本格的な手打ち蕎麦の店はごく稀だった。そんな時代に、京都・西陣に1軒の手打ち蕎麦の店が誕生した。それが築100年の町家を改装した風情ある『蕎麦屋 にこら』だ。
店を営むのは沼田宏一さん、圭子さんご夫妻。にこらというかわいらしい響きの店名は、圭子さんの好きな画家、ニコラ・ド・スタールからとったものだという。

京都で店を開こうと考えた時、蕎麦前でお酒を飲んで、蕎麦で〆るというスタイルの店にしようと決めた。ただし玉子焼き、板わさといったいわゆる蕎麦前の定番だけでは難しいだろうとも考えた。
「より本格的な和食にしたところで、京都には和食の店が多いので埋没するだけでしょうし、いわゆる居酒屋料理を出したいわけではない。それなら自分の感性で美味しい料理を蕎麦前として出せば良いだろうと考えました」と宏一さん。
そこで、しめ鯖をセビーチェにしたり、自家製鴨の生ハムとフルーツを白和えにしたり、と自由な発想で旬の素材を使ったメニューを登場させている。

蕎麦は粗挽き十割の手打ち。契約農家が育てる有機栽培の常陸秋蕎麦(ひたちあきそば)を玄蕎麦で仕入れ、その日に使う分だけを石臼挽きするので香りが立つ。
「原種の蕎麦を使っていますので風味も味も濃い。それをなるべく感じてもらうために粗挽きにしています」という。

ソムリエや日本酒のディプロマを持つ宏一さんが選ぶワインや日本酒はセレクトも抜群。お酒と合うように考えられた蕎麦前と合わせれば、楽しさはさらに広がるのだ。
