文と一部写真:金子 浩久
惚れ惚れするミニマリズム
ボルボの新型EV「EX30」のインテリアでは、惚れ惚れするほどミニマリズムが徹底されています。
物理的なスイッチが、たった2つしか存在しないのです。センターアームレスト先端部に設けられた左右ウインドの上下スイッチだけなのです。
ステアリングホイール上や左右に生えたレバーなどにもスイッチは存在していますが、周囲に溶け込むようデザインされているため、とてもスッキリしています。シンプルで簡潔で、トーンが整っています。
ボタンの数では、忘れられない記憶があります。先々代のレクサスLSが先代にモデルチェンジした時にあまりのボタンの多さに唖然として、数えたらリアのマッサージシートのコントローラーの分も含めると186もありました。隔世の感がありますね。
EX30の窓の開閉以外の操作はセンターパネルの階層の中に収められています。タッチや音声によって操作します。今までほとんどのクルマではボタンとして設けられていたハザードすらも、EX30ではセンターパネルの左端に投影されています。
物理スイッチがこんなに少ないシンプルなインテリアのクルマはテスラ以外に見たことがありません。
このミニマリズムは飾りじゃない
自分のスマートフォンを接続してAppleCarPlayを起動して走り始めました。ボルボは各車にグーグルのOSを導入しています。「グーグルアシスタント」や「グーグルプレイ」といった機能によって、音声でさまざまな操作ができたり、新たにアプリをダウンロードして追加することができます。AppleCarPlayで使えるのは自分のiPhoneに収められているアプリだけに限られますが、グーグルプレイではそれ以外のものを試せるようです。しかし、今回は試せませんでした。原因は特定できませんでしたが、次回にはトライしてみたいです。今までできなかったことが運転中に実現できそうなので期待は大きいのです。
高速道路に乗って、すぐに運転支援機能を有効にしました。これもまた素晴らしいのです。ステアリングホイール右側に生えているシフトレバーは走行中なので“D”ポジションに入っていますが、そこから下に短く軽く押し下げるだけで運転支援機能は有効になります。
EX30では、任意の車間距離を一定に保ちながら前車に追走していくACC、車線からはみ出そうとするとステアリングホイールを回して戻すLKAS、運転者がウインカーを出すとクルマが周囲の安全を確認したのちにレーンチェンジをサポートするLCASなどで構成されています。
“D”ポジションに入って走行している状態から下にチョンと押すだけという操作方法が、機能と操作が表裏一体化していてわかりやすく、ミニマリズムが勝利を収めています。単なる造形や意匠のため、シンプルに仕上げてカッコ付けているわけではないのです。
運転支援フル活用500kmの試乗旅
この日は京都から東京までの500kmを一人で運転したのですが、そういう場合に運転支援機能の効能を最大限に享受することができました。
完全な自動運転でなくても、ドライバーの眼と脳と右足に掛かる負担の何割かをクルマが肩代わりしてくれるからです。実際、都内に到着しても疲れは小さかったです。
これはEX30に限った話ではなく、どんなクルマでも運転支援機能を長距離走行で用いた場合に得られるメリットですので、ぜひ有効に使用することをお勧めいたします。
運転中は、Spotifyアプリで音楽やポッドキャストの談話などを楽しんでいました。Spotifyは、スマートフォン単独でも、PCでも、自宅のテレビでもクラウドで繋がっているのでシームレスに楽しむことができて便利です。好みの曲を集めたプレイリストをシャッフル再生したり、逆に聞いたことのないジャンルやミュージシャンの曲をリコメンドしてくれるのも楽しい。
充電は浜松サービスエリアで行い、27分30秒間で完了。ランチを食べ、メールの返信作業などを行なっているうちに、EX30の方が先にスタンバイできていました。EVの航続距離よりも、人間の方が先に音を上げてしまったというわけです。
新東名から東名高速に移るとクルマも増えて最高速も100km/hに下がりますから、無理に焦っても仕方ありません。続けて運転支援機能を活用しながら走りました。ショートメールの着信があったので読み上げてもらい、それに対して口頭で答えた返信をテキスト化して送ってくれたりするのも、AppleCarPlayで行える便利な機能のひとつです。
そんなことをしながら運転していると、東京到着はすぐでした。運転中に他にできることが少しづつ増えてきています。さらに増えていくのでしょう。
専用アプリをインストールできなかったり、カーナビがバグを発生するなどEX30も完璧ではありませんでしたが、僕は新しい運転体験に興奮させられました。ミニマライズされたインテリアは美しいだけでなく、ドライバーインターフェイスを大きく改善しています。クルマの最前衛が見事に商品化されていました。開発陣と経営陣に大きな拍手を送りたくなりました。