文・写真:金子 浩久

718ボクスターに乗り換えて最もうれしかったことは?

 12年間で13万km乗った初代のポルシェ・ボクスターから現行の718ボクスターに乗り換えて良かったことがいくつもあります。

 パワートレインが自然吸気の2.7リッター水平対向6気筒エンジンとトルクコンバーター型AT(オートマチックトランスミッション)との組み合わせから、ターボ過給された2.0リッター水平対向4気筒とデュアルクラッチ型ATにダウンサイジング&近代化されたことによって、パワーは大きくなったにもかかわらず、燃費は3割向上しました。

筆者のポルシェ 718ボクスター

 ADAS(運転支援機能)を装備できたり、SIMカードを内蔵して車内でWiFiが使えるようになったのも大進化です。他にも、いくつも進化はありました。

 その中でも自分にとって最もうれしかったのは、電動開閉式のキャンバストップが走行中でも開閉できるようになったことでした。

 初代ボクスターは、走行中での開閉は不可能でした。停止して、ギアを“P”に入れた上にパーキングブレーキを引いてクルマを完全に停止させないと、幌を開けることも閉めることもできなかったです。

 718ボクスターは、60km/h以下の速度でならば走行中でも開け閉めができるようになっています。これが大違いなんですよ。“0”と“1”ぐらい違う。大袈裟に言って次元が違う。

シフトレバー手前にある革命的ボタン

 初代は完全に停止しないと開閉できず、さらに開閉中は走り出せないわけですから、「次に赤信号で停止した時に開閉しよう」と走行中に思い付いても、上記の動作をすべて行うだけの時間が十分にあるかどうか確証は得られません。実際は、右手を挙げるなりして後続車のドライバーにジェスチュアで知らせれば、待たせたとしても十数秒のことですから、だいたいはみんな優しく待ってくれますが。

 それを避けるためには、適当な路肩の空きスペースなどを見付けて停めなければなりません。つまり、開けるにしても閉めるにしても、そのための時間と場所を確保して行う必要が出てくるので、走り始めてから“開けて走っている時間”と“閉じて走っている時間”が、同じ運転体験の中で完全に分離してしまっているのです。

走行中幌開閉抄史

 僕の初代ボクスターは2003年型でしたが、その頃に造られていた電動開閉式の屋根を持ったオープンカーはおしなべて完全に停止させないと開閉作業はできなかったと記憶しています。

 各車モデルチェンジを経てくると、それが克服されて走行中でも開閉可能になっていきました。最初にそれを経験したのが、2代目のアウディTTロードスターで、50km/h以下での走行中の開閉が可能でした。

2代目 アウディ TT ロードスター

 開閉時間の短さも大事です。初代ボクスターは早くて、12秒でした。その2代目TTロードスターも開き12秒、閉じ14秒。718ボクスターは11秒とさらに短くしてきました。同じポルシェでも996型の911カブリオレは20秒掛かっていました。なぜならば、911は2プラス2の前後2列シートを持ち、そのぶん幌が前後に長くて大きいから開けるのにも閉じるのにも、2シーターのボクスターやTTロードスターなどと較べて余計に時間が掛かってしまうからです。

 金属製のハードトップを電動で開け閉めするメルセデス・ベンツのSLKシリーズが2シーターでありながら開閉時間が長かったのも、金属製のハードトップを開いたり閉じたりする動作に時間を要していたからでした。

メルセデス・ベンツ SLK

 景色が良くなってきたから、
 話題の建物の前を通るから、
 辺りに他のクルマがいなくなったから、
 雨が上がったから、
 陽射しが弱まったから、

 など理由は何でも構わないじゃないですか。気持ち良く走れそうだったら、素早く開けて、素早く閉める。オープンカーは、それでなくちゃ。せいぜい10秒ぐらいの違いとはいえ、小さめのスポーツカーがダラダラと時間を掛けて幌を開閉しているなんて、野暮そのもの。だから、走行中にパパッと開閉したいんです。